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3-2 全国大会の定理 ~2回戦 愛知・豊臣琉花 戦~


<2回戦です! ついに愛知代表、豊臣とよとみ琉花るか八段と明智ヒデト五段との対決ですね! 協会の有段者同士の対決はワクワクしますね!>


 頭にカチューシャをしたぱっちりとした垂れ眼に、小柄な身体の若い女の名は豊臣琉花、協会では明智よりも格上の選手ということになる。


 ジャンケン等の結果は明智の勝利で、明智が先攻に入る。


「ガール……八段の攻めって奴を見せてみな……ヒデトが全部潰してやるからSA☆」


「ガ、ガールって……これでも23歳なんだけど……?」


<だいぶ分が悪いか明智五段! 相手はSNSで人気急騰中の崩し界の「ルカは働きませんチャンネル」で人気急騰中のアイドル、ルカ様です。豊臣財閥の令嬢でもあり、10代の頃からグラビアアイドルもしている! 今はほぼSNS活動以外の仕事はしていないそうで、今回は「胸元が見えない服を選ぶのが難しかった」とのコメントを貰っていますね!>


 琉花の髪型はショートヘアで、上下はゆったりとしたピンクと紫を基調とした花柄で、豊かな胸が目立つ恰好だ。


 確かにこれだけ凹凸があれば服を選ぶのも大変だろう。


「「おおーっ、ル・カ・様! ル・カ・様!」」


 地元山形の琉花ファンがかなりの人数が入っている。ここでは日帰り入浴もあるので、この一戦のためにわざわざSNSを見て集結したファンもいるのだろう。


 120秒のうち実に90秒以上をかけ、天王山周辺9マスのやや明智寄りの位置で箱を開ける。


「完成! ”名古屋駅の近くに確かあった気持ち悪いナナチャン人形が座ってるところ”」


 明智の山は√(ルート)をそのまま立てたような絶壁で、明智側に駒が獲りやすいようなリスクと先手に獲られやすいリターンを併せ持ったものであるといえる。


「ナナちゃんって、全然こういうのじゃないしー……気持ち悪いって酷くない? まぁ、いいわ……じゃあ、先にあたしがこれはもーらい!」


 琉花の動きは迷いがなく、あっという間に角1枚、歩2枚を獲得した。


 彼女は身体も柔らかく、簡単に前傾姿勢を取れるばかりか、指も長めでその関節も柔らかいのか、駒をあっという間に掬い上げるようにして音もなく盤外に落としていく。



1ターン目 先手 豊臣琉花:角歩2 7点

1ターン目 後手 明智ヒデト:0点


「「おぉぉ……!!」」


 拍手が上がる。それは際どい恰好と彼女の美貌へのファンからの熱い饗宴きょうえんのようだった。


<豊臣八段、先手はかなり大胆です! 女豹めひょうのようなしなやかな動きで、ボディもファンも大盛り上がりでそこも段違いだぁー!>


「さぁ、これでいかがかしら? 明智五段さん!」


「ヒデト思うんだけど……実況うるさいって……あと思うんだけど、ガールの動きって無駄がない……でもさぁ、その程度の実力じゃ足りない……アメリカではその程度の動きでは通じないってさ……」


 明智がねっとりと琉花が獲った駒の反対側をかっさらうようにして、13cmはあろうかという中指で一気に絡め獲り、飛車、金、銀2枚を奪っていった。


<明智五段も負けてはいません! それにしても明智五段、指が長いですねぇ……あれはアメリカ仕込みでしょうか?!>


1ターン目 後手 明智ヒデト:飛金銀銀 11点

2ターン目 先手 豊臣琉花:角歩2 7点


「角みっけ……それと中駒もある……あとは壁になってるし……五段の腕前で指がどれだけ長くても、あたしに追いつけるかしら……?」


<おっと、豊臣八段が押している! もう獲れる駒は見えないほどの絶壁です! 角と金、桂2枚、歩2枚を一気に奪いました!>


2ターン目 先手 豊臣琉花:角角金桂桂歩4 20点

2ターン目 後手 明智ヒデト:飛金銀銀 11点


「ヒデトこれ、思うんだけど……玉、獲れそう……獲れない?」


 明智は考えると、ぐるりと明智を囲むように残った山壁の内側に縦に立ったまま埋まっている玉を引き剥がそうとして果敢に指を突っ込んでいく。


 が……


 カラン……


 飛が上の段から突如として落下し、その内側へとへばり付くように落ちた。


「あ……参ったね、こりゃ……どうも」


2ターン目 後手 明智ヒデト:飛金銀銀 11点

3ターン目 先手 豊臣琉花:角角金桂桂歩4 20点


<おぉーっと! 信じられないことに、ここで段の違いが出たか! 明智五段、まさかの痛恨のミス! 飛車を丸々崖の下へと落としてしまいました――! これが致命傷か?!>


 座布団から尻を上げ、目下の状況を琉花が確認する。


(点数はあたしが9点リード。どう考えてもこの飛車を獲れば点差は14点になって、もう一度このおっさんのミスを誘って次につなげることはできる……これはでも獲りにくい……だが、逃せば必ずあいつのものになる。突き進むのみ!)


 琉花は前屈みになり、思い切り飛を伸縮性の強い中指で被せ、盤の外に押し出す。


「あ、豊臣さんだっけ? それさ、多分反則になるんじゃねえの?」


 審判をしていた1回戦負けの伊達が指摘する。


「ヒデト思うんだけど……多分それ、ガールの胸、将棋盤に当たってるって……」


3ターン目 先手 ●豊臣琉花:角角金桂桂歩4 20点(反則負け)

3ターン目 後手 〇明智ヒデト:飛金銀銀 11点



<なんとぉー?! 胸が大きすぎて山を崩す前に別の山が将棋盤に当たってしまったぁー!! 残念ながら豊臣八段、これにて失格です! 本当に残念ですね、ファンの皆さんも悔しそうですが、嬉しそうでもありますね……!>


「まさか、あんた……これ、わざと落とした……?」


 明智は顔を真っ赤にしながら指を明智に向ける琉花に向かって静かに答える。


「崩しってさぁ……ギャンブル。ガールが引っかかるとは思わなかったけど、ヒデトはどんな物理法則でも、あれば利用する。だからさ……今回はガールのバストがもしかしたら重力グラビティの関係で当たるかもって……5点の飛車で釣ってみただけ……オーケー? オーライ?」


「ズルくない? それで五段で八段に勝ったからって自慢したりするんじゃないでしょうね?!」


 小柄な琉花が明智に掴みかかる。


 ファンたちは止めるどころか、それを拍手喝采したり、もっとやれと言ったり、スマホで撮影を始めるなど、やりたい放題だ。


「ソーリー、でもさ……ヒデト思うんだけど、これって勝負だから。ヒデトさ、手加減とかさ……手心加えるとかさぁ、そういうのやってないんですよ。本当に申し訳ないけど……勝負ってさ、そういうことだから」


 明智はあられもない姿をしてしゃがんでいる琉花のおでこに長い人差し指を立てるようにし、そっとその場を後にしていった。







※段位※

公式では、基本的に協会の会長または副会長が認めた場合のみ、最高で九段までの昇格が認められている。また、負け過ぎた場合には初段までの降格もあり得る(会費を払っていればそれ以下にはならないが、払わなければ無条件で段位を剥奪される)。「入会」して最初は、二段以上の相手との対決で一度でも勝利すれば初段となれる。ただし、会長が自ら認めた棋士に対してはその場で段位が贈られることもある。

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