【番外編】落ち着け、ベルナード・フィン
「ベルナード、聞いたか? 団長がさっき国王陛下と謁見し、今回の勝利の褒賞として、何を望んだと思う?」
「あー、それな。うーん、ずっと考えていたけど、既に爵位を賜り、騎士団の団長だ。そうなると……領地か、お金か、金銀財宝か……」
「驚け。貴族令嬢との結婚を望んだ。しかもミルフォード伯爵家の令嬢との結婚を」
王都へ帰還し、ひとまず騎士団宿舎に戻り、ようやく装備から解放された時。
同僚騎士からこれを聞いた自分の感想は……。
「……令嬢との結婚!? それにミルフォード伯爵家の令嬢? 誰だよ?」――だった。
日々の訓練に明け暮れ、そして戦地へ投入されている。
その間、色恋沙汰とライルは無縁だったはずだ。
それなのに褒賞で貴族令嬢との結婚を望むなんて。
しかも伯爵令嬢?
出世を狙うなら、嫡子がいない公爵令嬢だろう?
でも……そうか。
嫡子がいない公爵家は今、いない。
まんまと婿養子になり、公爵となり、その地位を継ぐ……は無理なわけだ。
それにどうも爵位や団長になることを望んだライルだが、出世するとか、金持ちになるとか、そういった野望で動いているようには思えない。なんというか団長になること。侯爵になることが必要だった……そんな風に思えてしまう。
その真相を知るにはライルを直接問い詰めるしかない。だがライルは国王陛下との謁見の後は諸々報告もあり、まだ宿舎には戻らないはずだ。そうなると……。
自室を飛び出した自分は声を上げる。
「ローク、シダル、レニー! 居酒屋へ行くぞ!」
「え、この時間から!?」「まだ昼前ですよ?」「どうしたんです?」
三兄弟に「お前ら夜は母ちゃんに会いに行くんだろう? 行くなら今だ。情報収集だよ!」と告げた。すると「「「なるほど」」」と素直に応じ、三兄弟は自分についてくる。
三兄弟の窮地を助けたのはライルだけではない。おまけであるが、わたしもいたのだ。ゆえに三兄弟は自分が何か言えばちゃんと応じてくれる。
こうして昼前から飲んだくれが集まる居酒屋へ向かう。
そこにいるのは酔っ払いだから、まあみんな面白いようにベラベラ話してくれる。
その話を聞いて分かったこと。
ミルフォード伯爵家の令嬢――ユーリ・ミルフォードは今、この王都で、社交界で、話題の令嬢だった。先日、社交界デビューを果たしたばかりだが、とにかく可愛らしいという。王都中の令息のハートを鷲掴みだと言うのだ。
「十六歳のピチピチのご令嬢らしいぞ。明るいブロンドに濃い紫色の瞳で、お人形さんみたいだとか。王都で開催される舞踏会という舞踏会、晩餐会に顔を出し、それはモテモテらしい。王都中の貴族の令息はもちろん、平民でも金持ちの奴は求婚状をミルフォード伯爵に送りつけていると、もっぱらの噂だ」
これを聞いて、驚くしかない。
ライルは戦場にいたのに、一体どうやってそのユーリなる令嬢の情報を手に入れたのだ?
しかも聞けば聞くほど思ってしまう。
見た目は相当愛らしいのだと思った。
だが十六歳という年齢だからだろうか?
幼い。
貴族令嬢にしてはマナーや礼儀がなっていないと思う。
酒に酔っているわけでもないのに、舞踏会で令息に抱きついたり、やたら体に触れるというのだ、そのユーリは……これはどうかと思ってしまうのだ。
もし婚約者が自分以外の男にべたべたしたら……嫌だと思う。
ライルはどうしてこんな令嬢を、ザーイ帝国に対する勝利の褒賞として望むんだ?
理解できないし、納得できない。
……いや、でも……。
女の趣味に対してまで口出しをするのは……。
だがそのユーリという令嬢。
ライルと結婚しても男遊びをしそうだ。
しかしライルは一直線。
伴侶に対しては真心を尽くすだろう。
そうなったらユーリの裏切りに悩むはず。
ライルはこの八年間。
血のにじむ努力を続けた。
そして凡人では成し得ないことを成し遂げたのだ。
友として願う。
幸せになって欲しいと。
伴侶選びは慎重に!と思ってしまうのだ。
というか水臭いだろう、ライル。
なぜ事前に自分に相談しないんだ?
ユーリ・ミルフォードとの婚約を考えていると!
わたしにはその話をするだけの価値がないということか!?
……違う。
ライルはいつもそうだ。
意志が強い。
こうと決めたらそこへ突き進む。
社交界でユーリが名を馳せる前から、彼女のことを知っていたのでは?
ずっと昔からユーリと結婚したいと、心から決めていたのでは?
それが正解なら。
ライルは長い片想いの末に、ユーリとの結婚を望んだ可能性がある。
まさか。
まさか。
爵位を望み、騎士団の団長になることを願ったのも、そのユーリのためなのか!?
もしもこれが正解なら、止められない。
だってライルの幸せ、それすなわち、ユーリとの結婚なのだ。
落ち着け、ベルナード・フィン。
全ては想像に過ぎない。
まずは話そう、ライルと!
お読みいただき、ありがとうございます。
本作でお久しぶりの読者様、本年もよろしくお願いいたします!
どうしても兄貴のことを書きたくて、書いちゃいました。
読んでいただけて嬉しいです。心から感謝です☆彡
ちなみに年末年始に全13話完結の作品を一挙公開したり
200万PV達成のあの作品やコンテスト二次選考中のあの作品で
新春特別更新をしています。
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