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私の白い結婚  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊7/1発売:商業ノベル&漫画化進行中


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【番外編】胸騒ぎ

 ライルとつるむようになると、自然と自分は優等生になっていく。


 いかに楽ができるか――それを考えているのに。

 ライルはその逆。

 どんなに苦しくて大変でも、絶対に覚える――そう決めているのだ、どんなことも。

 剣・槍・弓・馬術。

 戦術や戦略の座学でも。

 ライルはとにかくそれを自身のものにしようと懸命になる。


「矢は全て的に当たっている。もういいだろう。ライル?」


「いや、ダメだ。的の中心からそれた矢が三本もある」


「御冗談を。十本矢を放ち、三本しか命中しなかった……ではないんだぞ? 十本放ち、全て命中。そのうち七本は真ん中を射貫いている。残りの三本はわずかにずれただけだ。それなのに」「ベルナード」


 ライルの碧眼がわたしを射貫く。


「心臓に命中しなかった場合、反撃される。その反撃で味方がやられるかもしれない。自分が命を落とすことになるかもしれない。よって百発百中ではなければならないんだ。生き残るためには」


「な……ライル。それは戦場での話だろう? 王立イーグル騎士団は、王都の防衛が第一だ。国境付近の最前線には出ない」


 この指摘にライルは……。


「それは……そうだな。ベルナード、君が正しい。だから君はもうあがるといい。君は十本中九本を命中させている。それは決して悪い成績ではない。むしろ教官だったら『合格』判定だ」


 のらりくらりと生きると決めていた自分は、ライルの言葉にニヤニヤしてしまう。


「そうだろう。ライルだって『合格』判定だ。今日はもう帰ろう。それに今の時間なら、王都に新しくできたシュークリームの店がまだ開いている。みんな買いに行っている。これから行かな」


「ただ、自分が求める結果とは違うが」


 それだけ言うと、ライルは矢を弓につがえる。

 そうなると……。

 「あー、はい、はい。がんばってください」と帰ることもできるのに。

 なぜなのか。

 ライルの求める結果を出し、「どうだ!」と言いたい気持ちになっている。


 「あー、もうっ!」とぼやきつつ、矢筒に新しい矢を入れていた。


 そしてこの日の会話。

 自分が言ったことにライルは「ベルナード、君が正しい」と言ってくれたが、そんなことはないと判明する。


 それは騎士見習いを卒業し、従騎士を終え、正騎士に任命され、しばらくしてのことだった。


「おい、ベルナード、聞いたか? 王立ソード騎士団の副団長が、ザーイ帝国の射者の毒矢に倒れたって。そのせいで前線が総崩れになり、一時、帝国軍が国境を超えそうになったらしい」


 日勤で宮殿の警備につき、昼食で騎士団本部の食堂にいると、同僚の騎士に声をかけられた。そして知らされた話にドキッとする。


 なぜって。


 ライルは自分とは違い、正騎士に任命されてから、あれよあれよという間に出世していた。ただの騎士から上級指揮官に抜擢され、ついには副団長に任命されていたのだ。


 ライルの真面目な勤務態度、誠実さ、任務をこなしながらも、早朝深夜に訓練を続ける姿。それはもう上位者を喜ばせた。「まさに騎士の鑑」と称され、見習い騎士には、ライルの生活ぶりが紹介されるほど。


 しかもライルは平民出身だった。だからだろう。自分が出世することで、妬みを受けないよう、報告書には、必ず同僚や先輩の活躍に触れるようにしていたのだ。


 それがまた絶妙な塩梅。


 明らかに功績者はライルなのに、その日の勤務者は皆、褒賞がもらえる。ライルと勤務した者は大喜びとなり、惜しみなく彼を誉めるのだ。おかげでライルの足を引っ張る者なんていない。


 その結果、異例の若さでの副団長への任命につながった。


 世渡り上手は自分と思っていたが、ライルの方がうんと上手だった。


 そしてライルと同じ副団長という役職者が戦死した。そこで役職が同じだからと、ライルを結びつける必要はない。それでもドキッとしてしまう。なぜならその後、「ソードの副団長が戦死したらしい」という声を、何度も聞くことになるからだ。どうしたって「副団長」の部分を耳が聞き取り、反応してしまう。


 その時点で何となくの胸騒ぎがあったが。


 それから数日後。


 騎士団宿舎のライルの部屋に向かっていた。

 副団長ともなると、宿舎に個室を与えられる。

 しかも寝室に隣室まであるのだ。

 自分は上級指揮官に任命されたものの、それでも別の上級指揮官と二人部屋。

 だべりにいくならライルの部屋と決めていた。

 といっても、ライルはしょっちゅう何かしらの訓練や練習をしているから、部屋にいないことが多い。でも今日はライルから声をかけられたのだ。


 「ベルナード、部屋に来ないか」と。


 変な話、恋人に部屋に来ないかと言われたぐらい、嬉しくなっていた。

 だから宮殿勤めのメイドに頼み、王宮付きのパティシエが作った焼き菓子も手に入れている。

 ライルは何事にも全力投球だから、甘いものを喜んで食べていた。

 体が糖分を欲するのだろう。


 こうして手土産として焼き菓子を持ち、部屋に向かう――。

 やはり恋人を訪問する男の気分になるが、そうではない。


 ということで扉をノックすると、すぐに反応があり、部屋に入る。


 ライルはどうやらつい先程、部屋に戻ったようだ。

 まだ騎士団の隊服を着たままだ。

 対して自分は、白のだぼっとしたチュニックに黒のズボン。

 ……隊服で訪ねた方がよかったか。

 自分だけ寛いだ姿でいることに申し訳なく思いつつ、ライルの対面のソファに腰を下ろす。


 申し訳なさを誤魔化すように「ライル、お前の好きな焼き菓子だ」と差し出す。「ありがとう、ベルナード。君が部屋に持ってくる菓子は、全部美味しい」と、ライルは微笑む。当然だ。わざわざ王宮付きのパティシエのお菓子を、頼み込んで貰っているのだから。


 だがそんなことは口に出さない。

 ベルナードが持参するお菓子に間違いはない――そう信頼されるだけで十分。


 男同士の友情とはそういうものだ。ブランド名などあまり関係ない。本当に旨い物を知っているか、どうか、だ。


「ベルナード」

「なんだ、ライル」


 褒められて気分がいいので少しニヤけた顔で応じる。

 だがライルがこの時、告げた言葉は――。


「王立ソード騎士団の副団長の戦死、国境突破の危機を経て、国王陛下が決断された。王立イーグル騎士団が、前線に送られる。王都の防衛は、近衛騎士団が兼任することが決定した」

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