みーつけた
「敵襲です!」
そんなことを言われても、すぐに実感できない。
でも目の前でもう一人の従者も矢を受け、倒れる。
さらに次々と矢が飛んできて、御者がすぐそばの荷馬車の下に隠れた。
「お嬢様、こちらへ!」
フィオナに言われ、なんとか馬車の影に隠れた。
心臓だけがバクバクして、頭もなんだかドクドクしている。
「きっと盗賊です。まずは男性を始末し、その後……」
キン、キンと音がする。
フィオナと二人、馬車の影から音の方を見ると、兵士の一人が戦っている姿が見えた。
でも兵士一人に対し、敵は五人以上いる。
しかも筋骨隆々とした化け物みたいな大男もいた。
「ぎゃー」
悲鳴に心臓が止まりそうになり、フィオナと移動し、御者席から声の方を見ると。
咄嗟にフィオナが手で私の口を押えてくれた。
よって叫ばずに済んだが……。
荷馬車の下に隠れていた御者が見つかり、盗賊達に取り囲まれ……。
「きゃーっ」「いやーっ」
今度は女性の叫び声が聞こえ、二人のメイドが盗賊に捕まったのではないかと思えた。
「お嬢様、逃げてください。ここにいては捕まります」
押し殺した声でフィオナに言われるが、逃げると言ってもどこに逃げればいいの!?
「真っ暗で怖いかもしれません。ですがこの奥に、森の中に逃げ、物陰に隠れ、身を潜めてください」
「フ、フィオナは……? それに捕まったメイド達も助けないと!」
するとフィオナは首を振る。
「お嬢様は使用人に優し過ぎます。私達のことは捨て駒と思い、逃げてください」
「!? そんなことできないわ! みんな仲間なのに」
そこで聞こえる男性の悲鳴。
間違いない。
兵士の一人が倒されたのだと思う。
まだかろうじてキン、キンと金属音が聞こえるが、長くは……持たない。
「これを持ってお逃げください。もしもの時は、自ら命を絶つのに使えます。……伯爵家の令嬢として、辱めは……受けたくないですよね」
フィオナの言葉と彼女が取り出した短剣に、心臓がドキリと反応する。
辱め……それは……。
まさにその瞬間、メイド達の悲鳴と布が切り裂かれるような音がした。
「早く、逃げてください」
ここで「でも」とか「フィオナも一緒に」と言っている場合ではないと、本能で理解した。
私が逃げること。
それがフィオナやここにいるみんなの願いと信じるしかない。
全力で森の中へと駆け出す。
振り返ってはいけないと思った。
どんなに悲鳴が聞こえても。
もし振り返り、何が起きているか確認したら、もう動けなくなる。
自分では懸命に走っているが、夜の森。
しかも足元はおぼつかない。
「!」
ずさーっと滑るように転び、膝に痛みを感じる。
それでも握りしめていた短剣は、離していない。
「あ」
目の前に樹洞が見えた。
この中に入れば……。
だが。
すぐ後ろで足音が声が聞こえる。
「こっちの方へ逃げて行った」
「ああ、多分、あっちに残っているのは使用人だ。奴らが仕える主がいるはずだ」
「上玉か?」
「そりゃそうだろう。メイド二人に侍女一人。貴族のお嬢ちゃんに間違いない」
あああ、フィオナも捕まってしまったのだわ。
絶望的になりながらも、生きなければと本能が働く。
立ち上がるとバレる。
よって四つん這いのまま、樹洞を目指そうとした。
だが。
「うん? なんだかそこの茂み、動かなかったか?」
「どこだ?」
「そこだよ」
この会話がとても近くで聞こえ、私は動けなくなる。
幸いなことに、星明りがあるものの、月が雲で隠れていた。
今はそこまで明るくない。
このままここでじっとしていたら、バレないのでは?
その間に彼らが、別の場所へ移動してくれれば……。
息を押し殺し、様子を伺う。
自分の心音があまりにも大きくて、盗賊の一味に聞こえているのではと、不安になる。
「女の足だ。そう遠くには逃げられない。この辺りにいるだろう」
「よし。ならここを探すか」
最悪だった。
このままでは見つかる。
移動した方がいい。
ゆっくり、周囲の草を揺らさないよう、静かに動けば……。
まさに動き出した時、バサバサと音がして、悲鳴を上げそうになる。
「うわぁ、なんだ」
「鳥だ。フクロウでもいたんだろう」
盗賊も驚いている今のうちに!
そこで素早く移動し、樹洞の入口に辿り着いた。
巨木だった。
私が足を抱えるようにして座れば、中に入れる……。
そこで本能的にゾクッとした。
「みーつけた」
盗賊の声が聞こえ、左足首を掴まれていた。