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私の白い結婚  作者: 一番星キラリ@9/2やられる前に発売:商業ノベル&漫画化進行中


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初恋

 幼い頃、秋の収穫祭で迷子になった私を助けてくれた少年。


 それがエドガーなのではないか。


 思い切って私が尋ねると、エドガーはアイスシルバーの髪に触れ、考え込む。


「秋の収穫祭……それは僕も子供の頃からよく行っています。人出も多く、迷子になる子は多いですよね。そう言われると迷子の子供を助けたことは……何度かあります」


「! 迷子の私を助け、両親のところまで案内してくれただけではないんです。コットンキャンディを買ってくださって……。別れ際に私、自分の名前と我が家の紋章が刺繍されたハンカチも渡したんです。御礼をしたいと言ったら、遠慮されてしまい、どうしてもとお願いしたら……。『いつか大人になり、俺が立派になったら、君に会いに行く』と言われました。ちゃんと会いに来れるようにと、ハンカチを渡したのです」


 するとエドガーは「なるほど」と何度も頷く。

 そこに注文していたサラダが到着した。


 サラダを食べながら、エドガーはしみじみと口にする。


「確かに子供の頃、可愛らしい女の子からハンカチをもらった記憶があります。とても大切にしていましたが、今はどこにいってしまったか……」


「そうだったのですね! 当時の私はミルフォード伯爵家のアイリです。ミルフォードの名に聞き覚えはありませんか?」


「ミルフォード伯爵家のご令嬢……。少し前、社交界で話題になっていた令嬢ですよね?」


 それは……ユーリだ。

 ここでユーリが出てくるのは、なんとも言えない気持ちになる。

 でも仕方ない。

 確かにミルフォード伯爵家と言えば、ユーリなのだから。


「社交界で話題になったのは妹です。私はこの通り、地味ですので……」


 するとエドガーは、すっと伸ばした手で私の手を握りしめた。


「そんなことありません。あなたと目が合った瞬間。心臓が止まるかと思いました。とても美しく魅力的だと思いましたよ。……既婚者だと分かった時は、とても残念でしたが」


 そこで慌ててエドガーは手を引っ込め「失礼しました」と謝罪する。


 その様子から、本当に素直な気持ちで、私に魅力を感じてくれたことが伝わって来た。


「幼い頃の記憶は、全てを完璧に覚えているわけではないですよね。僕も自分がマダムの言う少年なのか、自信はありません。でも断片的な記憶はあり、もしかすると……という気持ちはあります。ただ、会いに行くと約束しておきながら、果たしていないのは……申し訳なく思います。ごめんなさい」


 エドガーが素直に謝罪の言葉を口にした時、スープが到着した。


 そのスープを眺めながら、彼の謝罪に応じる。


「子供の頃の約束です。そして成長する過程でいろいろなことを経験していたら、約束を忘れてしまっても……仕方ないと思います」


 私が少年との約束を忘れられなかったのは、屋敷で閉塞感を覚えていたからだ。

 ここから抜け出すにはあの少年しかいない……と思い、すがっていたからだろう。


 もし両親に愛され、ユーリに遠慮することなく生きていたら、男友達も沢山できたかもしれない。

 そうなったら少年のことだって……私も忘れていたかもしれないのだ。

 ある意味私が一方的に執着していたと、言えなくもない。


「あなたはとても美しい。きっと幼い頃も素敵だったことでしょう。それなのに忘れてしまったとしたら……」


 そこでスープを飲む手を止め、エドガーは寂しそうに笑う。


「あなたが貴族の令嬢だったからでしょう」


「!」


「身分の違い。乗り越えられない壁。それを悟り、僕は……あなたとの記憶を封印してしまったのかもしれません」


 これには「なるほど!」だった。

 平民が爵位を得ることは、安易なことではない。

 そして身分違いの恋を実らすのも難しいこと。

 ゆえに諦めてしまったとしても……。


「でもこんな形であれ、再会できたのなら……。奇跡というか、運命ですよね。ただ、あなたが既婚者であることは……。繰り返しになりますが、残念です。それに大切なクライアントの奥様だった。運命とはなんとも皮肉なものですね」


 これにはその通りと思うしかない。

 結局、私だって少年のことを諦めたのだ。

 諦め、現実を見て、ライルと結婚をした。

 そして今、ライルとの新婚生活は……。


 白い結婚。高級娼館。ユーリとの関係。


 ライルには謎ばかり。


「とはいえ、せっかく再会できましたし、これからも関わることはあるでしょう。今後も仲良く……というのも変ですね。たまにこんな風にお食事をしたり、お茶をできたら嬉しいです。あ、勿論、旦那様もご一緒に」


 「旦那様もご一緒に」と言葉にした時のエドガーの表情。寂しそうに思える。


 チラリと彼の左手の薬指を見るが、そこに結婚指輪はない。


 婚約者がいてもおかしくない。でもそれなら私が既婚であることを、何度も残念がりはしないだろう。つまりエドガーは独身。


「そうですね。夫は……なかなか忙しく、ホテルにも戻らないのですが、でも、はい。ぜひ」


「今はホテルに滞在されているのですね。あ、でもそうか。タウンハウスは絶賛準備中でしたね。ご結婚は最近されたのですよね。それなのになかなかご主人と会えないのは、お寂しいのでは?」


「それは……でも仕方ないです。騎士団の団長という立場ですから」


 「なるほど」とエドガーが応じた後は、タウンハウスの話に移ることになった。


 そして最終的にあの時の御礼を改めて伝え、そしてこの昼食は、私がご馳走することができた。つまりあの日の御礼もこれでできたわけだ。


 幼い頃の淡い恋。つまりは初恋。


 私の初恋は、思いがけない形で幕を閉じることになった。

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