なぜ……?
ホテルへ戻る馬車の中。
フィオナと私は無言だった。
なぜ宮殿にユーリとライルがいたのか。
まずライルが宮殿にいるのはおかしいことではない。
そこが彼の職場であり、騎士団宿舎も宮殿の敷地にあるのだから。
宮殿にいる理由が見つからないのはユーリだ。
伯爵家の屋敷に籠り、社交の場に顔を出さないと言われているのに、なぜ宮殿に……?
ユーリが宮殿の事務官になった。女官勤めを始めた。
どちらも不正解だと思う。
絶対に、違う。
何よりもライルがユーリをエスコートしている理由が分からない。
しかもその様子をベルナードが見守っていたということは……。
あれが任務?
ユーリをエスコートする……いや、護衛している?
伯爵家の令嬢に過ぎないユーリを護衛することが、英雄であり一国の騎士団長の任務?
まさか。
あり得ない。
そうなると……。
ベルナードがいたのはライルの従騎士だからと考え、任務と切り離して考える。
お昼も近いことから、あれはあくまでプライベートの場とするなら……。
そもそもライルは、国王陛下経由で、ミルフォード伯爵家に縁談話を持ち込んだ。だがそれはユーリなのか、私なのか、明確ではなかった。だからやはりそこは……ユーリ狙いだったのでは? でもいろいろなしがらみを考え、ユーリを一度は諦めた。でも忘れることができなかった。そして偶然、王都でユーリと出会うことになり……。
結婚とは絶対的に覆せないもの。死別以外で婚姻関係を結んだ二人が、別々の道を歩むことは許されない。縁切りという言葉はあるが、法的には夫婦関係は続く。例え相手が重罪人だったとしても。
夫婦関係は解消できないため、貴族の間では愛人関係を結ぶ者は多い。それこそある種の文化になっている。私生児も多く、それが多くの火種を産んでいた。
ライルは……ユーリを愛人にしようとしているの?
いや、あのユーリが愛人なんかで納得するわけがない。
というかそもそもユーリは会ったこともないライルについて「え、騎士団の団長!? いや、絶対! 体中傷だらけできっと獣みたいなんだわ! 私は第二王子みたいな優しい男性がいいわ! それに平民成り上がりの侯爵なんて、まがい物よ。絶対に嫌です」と言っていたのに。実際に会って、ライルが第二王子に負けない素敵な男性だったから、心変わりをしたの?
「若奥様、ホテルに着きました」
フィオナに言われ、意識を現実に戻す。
「……このままホテルのレストランへ行くわ。席、空いているかしら?」
「もしもの時は、お部屋でルームサービスを頼むのはどうでしょうか。もしくは……ティータイムの商談まで、時間があります。街のレストランへ行ってもいいのでは?」
「そうね。……気分転換に街のレストランに行きましょうか」
私の言葉にフィオナは笑顔になる。
「ええ、そうしてください、若奥様。食事の時は一度、先程見たことは忘れましょう」
「いくら考えても……答えも分からない。考えるだけ、時間の無駄ね」
ライルと私が白い結婚である理由。
高級娼館にライルが足を運んだ理由。
ユーリをライルがエスコートしていた理由。
もう分からないことだらけだ。
こうなったら本人に聞くしかないだろう。
いくら考えても今の状況では、ネガティブな答えばかり見つけてしまう気がする。
気分転換も兼ね、外で食事をしよう。
こうしてホテルのエントランスに着いたが、そのまま馬車から下りずに、再び街中へ向かってもらう。
どこへ行くか考え、一度も行ったことのないお店へ行くことにした。
その方が全神経が新たな場所の観察をすることになり、ごちゃごちゃ考えることができなくなると思ったのだ。
「フィオナ、あのお店はどうかしら? 赤のひさしの洋食屋」
「新しいお店のようですが、テラス席は満席。でも二階席もありそうですし、いいのではないでしょうか。私がまず、空いている席があるか、確認してみます」
こうしてフィオナが先に馬車を降り、席が空いているか確認してくれた結果。
「中庭の席が空いているようで、案内いただけるそうです!」
「よかったわ!」
私も馬車を降り、店内へ向かう。
一階は天井も高く、広々としており、二階へ向かう螺旋階段が、店内中央に設置されていた。作りの珍しさもあり、若いお客さんが多い気がする。
案内された中庭に面した席は、奥まった場所にあり、落ち着いた雰囲気。
しかもその中庭は小ぶりだが噴水もあり、青空も見え、なんだか居心地がよさそうだ。
フィオナに同席してもらい、着席すると、すぐにメニューブックを渡される。
ランチの簡易コースで、スープ、サラダ、メイン。追加でデザートと紅茶かコーヒーをつけられるようになっていた。
そこで私はポタージュと豆のサラダ、サーモンのムニエルを頼み、バニラアイスとコーヒーを注文。フィオナはサーモンではなく仔羊のカツレツを選び、後は私と同じだ。
オーダーを終え、一息ついた私は……心臓が止まりそうになった。
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『転生したらモブだった!異世界で恋愛相談カフェを始めました』
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