会いたい……!
ライルに会いたい気持ちが募った私は。
次にライルの従者が残念なお知らせを届けに来たら。
こう言うつもりだった。
「いつも心温まるメッセージとギフト。嬉しいのですが、声を聞きたいのです。もしホテルに来て下さるなら、時間は何時であっても構いません。起こしてください!」
従者に言う言葉は決まっているものの。
一番はライルが夕食を摂るため、ホテルへ来れることだ。
今日はもしかしたら、来ることができるかもしれない。
一応、淡い期待を胸に、一日を過ごした。
まず領地からライルの商会の幹部が王都に到着し、いくつかの商談がこの日、行われることになった。
商会の幹部とは、私自身も打ち合わせをしている。そこで王都に小さくてもいいので、事務所を設けることを提案した。必要性は彼らも感じており、事務所設置の方向で、物件探しを始めることになった。
そうしているそばから王都で暮らす貴族達から連絡が来て、薔薇石英について話したいという。
いくつかの面会の場をセッティングしつつ、既に決まっている打ち合わせを進めていると、どんどん時間が過ぎて行く。
昨晩の晩餐会に出席した貴族達が、知り合いの貴族に話すことで、薔薇石英の情報が瞬く間に広がっていることを実感できた。
そんなバタバタの合間に、ライルに贈るために購入したマントに、ウィンターボトム家の紋章と彼の名前を刺繍していた。ライルは隊服の時、アイスシルバーのマントを着用している。聞いたところ、隊服ではない時でも、冬になるとコートの上からマントを羽織ることも多いという。
ならばとパールシルバーのマントを手に入れ、その首回りに、刺繍をいれることにしたのだ。
商談をして、刺繍をし、手紙を書いて。
一日があっという間に終わってしまう。
そして丁度、ティータイムが終わるぐらいの時間に、見慣れた従者が姿を見せた。
今日もライルは忙しいことが、すぐに分かってしまう。
でも仕方ない。
私は考えていたメッセージを従者に伝え、ドライフルーツの詰め合わせを預ける。ライルと従者の分をちゃんと用意していた。もはや会えないだろうが前提で、ちょっとした手土産も、前日から用意するようになっていたのだ。
「主様は日によって深夜だったり、早朝だったりで、若奥様の所へお邪魔しているようです。本当に変な時間に起こしても、大丈夫なのでしょうか?」
私の伝言を聞いた従者は驚き、念のための確認で尋ねられた。
この質問に対する私の答えは「大丈夫です。起こしてください!」だ。
従者は「分かりました。主様にお伝えします」と部屋を出て行った。
この日の夜。
夕食を終えると、入浴を行い、ピオニーの香油で髪や体をケアしてもらった。
そしておろしたばかりの白の寝間着に着替え、寝る準備を進める。
ベッドサイドテーブルには、商会の幹部がお土産でくれた、領地のスイーツ店のクッキーが入った箱とメッセージカードを用意していた。できればこれは、ちゃんと起きた私から、ライルに渡したいと思っている。
準備は完璧。
ついこのまま起きて待ちたい気持ちになるが、何時に来るか分からないのだ。
ここはとっとと寝てしまい、起こしてもらうのが一番。
ということで、完全にそのつもりで目を閉じると……。
やはり今日も一日忙しかったので、すぐに眠りが訪れる。
でも今晩こそライルに会えるわ……!
喜びいっぱいで眠りについた。
◇
……リ
…イリ
アイリ
――アイリ!
私を呼ぶ声が遠くで聞こえる。
ライルだわ!
嬉しくて私は両手を伸ばす。
手に触れるサラサラのライルの髪。
――アイリ
さっきより甘い声で名前を呼ばれ、私は嬉しくなってしまう。
同時に。
ぎゅっと抱きしめられ、ミントの香りを感じ、涙が出そうになる。
会えないと言ってもわずか数日。
メッセージのやりとりは毎日しているのだ。
それなのにこうやって会えるだけで、こんなに嬉しくなるなんて!
――ライル。会いたかったです……!
――アイリ、自分もずっとこうして君を抱きしめたいと思っていました。
唇に感じる柔らかくて温かい感触。
ずっと我慢していたキスをできて、もう歯止めが効かない!
熱く、とろけるようなキスをしているのに。
興奮よりも眠気が勝ったのか。
キスをしながら私は心が満たされ、さらに深い眠りへと落ちて行く――。
◇
時計塔の朝の六時を知らせる鐘の音と共に目覚め、ハッとしてサイドテーブルを見る。
そこには、私の置いておいたクッキーとメッセージカードはない。代わりのように、ノートが置かれていた。
起き上がり、ノートを開くとそこには……。
『My dearest アイリ
何度か声を掛けたが、どうやら熟睡していたようです。
君は目覚めなかった。
でも寝惚けていたのでしょうか。
両手を伸ばし、自分のことをぎゅっと抱きしめてくれて……。
「会いたかったです」と言われたので
目覚めているのかと思い、ついキスを……。
でもやはり寝惚けていたようです。
キスの途中でアイリは再び深い眠りにつきました。
起こすのは忍びないので、このノートを置いて帰ります。
このノートを交換し、連絡を取り合いましょう。
Forever yours ライル』
これを見た私はもうビックリ!
夢だと思っていた出来事。
あれは現実だったのね……!
でも冷静に考えると、ミントの香りや体温も感じていたのだ。
夢でそれは……さすがに無理。
あれ、でもそうすると……。
以前も同じようなことが……。
え、あれももしかして……!
実は夢ではなかった現実に、私のドキドキは止まらない!