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私の白い結婚  作者: 一番星キラリ@9/2やられる前に発売:商業ノベル&漫画化進行中


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強い欲情

 ライルが私の腰に腕を回し、顎を持ち上げ――。


 唇が重なった。


 結婚式の時のキスとは違う。


 唇ではない、何か温かいものが唇に触れたことに驚き、思わず口を少し開けてしまう。するとその熱い何かが口の中に入ってきて……。


 もうそこからは頭が真っ白になりそうだった。


 何がどうなっているのか分からないし、でも全身が熱くなり、息が上がり、呼吸が乱れる。


 気付けば仰向けでソファに倒れこんでいて、ライルがこちらを覗きむように、両腕をソファについていた。


 私の息も上がっているが、ライルも肩を上下させ、呼吸が荒くなっている。


 その碧い瞳は甘さを通り越し、強い欲情を感じさせた。


「……申し訳ないです。つい、自制心が……」「い、いえ」


 即答してから気が付く。

 自制心が効かなくなり、私を押し倒したことを謝罪してくれたけど……。


 ここは夫婦の寝室。

 そしてライルと私は夫婦なのだ。


 謝る必要があるの……?


 申し訳ないと思う必要なんてない。

 むしろ、止めないで欲しかった。

 そのまま続けて欲しかったと言いたくなっていたが。


 貴族令嬢としてそんなこと、言えない。


 ただ瞳を潤ませ、ライルを見上げることしかできなかった。


「アイリ……」


 ライルはそのまま私を抱き上げるとベッドへと歩き出す。

 心臓が急加速で反応し、下腹部がぞわぞわと反応している。


 ぽすっとベッドに下ろされ、息を止め、目をつぶる。


「!」


 ふわりと全身を温かい羽毛布団に覆われる。

 驚いて目を開けると、ライルが微笑んで私を見下ろしていた。


「アイリ、チェスに付き合ってくれて、ありがとうございます。また、明日、頼みます」


 これには「えっ」と声を上げ、いろいろと尋ねたいことが満載だった。

 だがそれを尋ねる間もなく、ライルは会釈と共に部屋を出て行ってしまう。


 残された私は……。


 悶々とすることになる。


 思うのはこの一つ。


 なぜ、キスをしてソファに押し倒したのに、その先に進まなかったのか。

 ロマンス小説では……そういう描写が多い。

 押し倒されて、朝になっている。

 でもその暗転している間に、二人は結ばれているのだ。


 しかもライルと私は正式に婚姻関係を結んだ夫婦。

 どうして「……申し訳ないです。つい、自制心が……」なのか。

 自制心を失って突き進んで何ら問題ないのに!


 まだ心臓はドキドキしていた。


 それにあの全てを奪うような情熱的なキスを思い出すと、体中が震え、甘美な痺れが広がる。


 この熱い気持ち、ライルはすぐに静めることができたの?

 どうしてそんなにすぐ、クールになれるの……?

 それともこんな気分にはならなかった……?


 それはないと思う。

 確かにあの時、ライルの瞳には強い願望が表出していた。


 不思議でならない。

 そして「なぜ」の答えは見つけられないのだ。


 しばらくは寝付くことが出来なかった。

 でも次第にクールダウンできた。

 そこからようやく眠りにつくが……。


 とにかく釈然としないまま、眠りに落ちた。


 ◇


 翌日。


 朝から冷えていると思ったら、朝食を摂っている間に雪がはらり、はらりと降って来た。


 ウールのパステルブルーのドレスに白のロングケープを着て、屋敷内、庭園、離れ、厩舎、乗馬練習場、菜園……などをライルに案内してもらった。


 そのライルはサファイアブルーのセットアップに、細身の黒のロングコートを合わせている。合せた黒の革手袋と言い、とてもよく似合い……カッコいい。


 こんなに素敵な人が私の旦那様なのに。

 白い結婚だなんて。

 しかも白い結婚のはずなのに、あんなキスをしたのだ。

 それなのに今朝、何事もなかったように爽やかに笑えるなんて……。


 ライルは目の下にクマもなく、肌艶もいい。

 私は悶々としてなかなか寝付けなかったが、ライルはそうではなかったようだ。


 これにはズルいと思ってしまう。


 私の心に波風を立てるだけ立てて、しれっと立ち去ってしまうなんて!


 でもいい。

 代わりにライルが午後、どこへ行き、何をしているのか。

 探ると決めたのだから。


 とはいえ、私が出掛けるわけにはいかない。

 そこでフィオナには、ライルが昨日に続き、外出することが気になっていると相談した。


 すると……。


「そのお気持ち、分かります! 新妻を置いて、本当にどこへ行っているのですかね!? 確かに私もそう思います。若奥様、安心してください。従者に頼み、若旦那様の後をつけてもらいます」


 そう。

 私が王都から連れてきた信頼できる従者に、ライルが外出したら、後をつけてもらうことにしたのだ。


「……ここが温室です。しばらくここにいれば、冷えた体も少しは温まるでしょう」


 ライルの言葉にハッとして我に返る。

 つい考え込んでしまったが。

 ライルは律儀に敷地内の、ありとあらゆる場所と建物を案内してくれたのだ。


「若旦那様、若奥様、お待ちしていました。ホットレモネードをご用意しています。こちらでお飲みになって、体を温めてください」


 気が利くヘッドバトラーのジェフが、温室に温かい飲み物を用意してくれていた。ライルと私だけではなく、同行したフィオナとベルナードの分も。


 「温まるわね」とフィオナと言いながらホットレモネードを飲んでいた時間は……。


 従者が後ほど持ち帰る情報を知らない、まさに嵐の前の静けさだったと思う。

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