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私の白い結婚  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊発売決定:商業ノベル&漫画化進行中


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17/112

緊張

 沢山の商店が並ぶ通りに着くと、盗賊のせいでいろいろ失ったものを手に入れることになった。それを終えると、ライルが街を案内してくれる。


 オペラや演劇が行われる劇場、演奏会が開催されるホール、美術館、博物館、時計塔、大聖堂、庭園など、中に入ることはないが、散策して楽しんだ。


「結構、歩きましたよね。この辺りで休憩しましょうか」


 ベルナードの提案で、青と白のストライプのひさしのカフェで一休みとなった。店内の壁や床は白木で統一されており、とても明るい。


 令嬢やマダムが淑やかに歓談しており、店内で流れるオルゴールの音が、静かに聞こえている。


 窓際の四人席に案内されたが、ベルナードとフィオナは別のテーブル。


 ここにきてライルと二人で着席することになった。


「こちらのお店ではチョコレートケーキが人気だそうです。そしてこのケーキに合わせると美味しいというのがコーヒーという飲み物。苦味があるそうですが、甘いケーキにはピッタリで……」


 ライルがメニューブックを手にしたものの、閉じたまま説明してくれた。もしやよく来る店なのかと尋ねると、彼は頬をポッと赤くして答える。


「このようなお店は令嬢やマダム向け。自分は初めて来ました。ただおすすめのメニューについては、ベルナードに言われ、頭に叩き込んでいます。そうすることがスマートであると、言われまして……」


 またもライルはガチガチになっている。

 しかもそんなアドバイスを受けたと、うっかり暴露してしまうとは!


 そこで気がついてしまう。


 ベルナードやフィオナと四人でいる時は普通なのに。私と二人になると、態度がよそよそしくなる。お酒に酔っていた時は、いつも通り。でもお酒がない、しらふだと……。


 私と二人だと緊張してしまうのかしら?

 それとも女性と二人だと落ち着かない?


「ご注文はお決まりですか?」


 店員さんが来たので、オススメのチョコレートケーキとコーヒーを注文することにした。注文が終わると、ライルは大きく息を吐き、グラスの水を飲む。


 やはり緊張しているのだろうと思い、私から話しかけるとことにした。


 社交界では地味で、壁の花だった私だが、それでも令息との社交経験がゼロというわけではないからだ。


「ウィンターボトム侯爵は、カフェで令嬢とお茶をしたことは」「ありません」


 即答だった。

 でもそうだ。

 訓練と任務に明け暮れ、戦場を駆け抜けた人生。

 令嬢との接点はゼロなのだから。


「そうなるとこうやって二人だと緊張しますか?」


「! な、どうして、分かる……のですか!?」


 分からない令嬢なんていないと思う。

 かなり分かりやすい反応なのに。

 バレないと思っていたのかしら?

 ……いたのよね。だからこんなにも驚いている。


「申し訳ありません! きちんとエスコートし、あなたが不快にならないようすべきなのに……」


「慣れていないなら、仕方ありません。場数を踏めば、慣れますよ。それに不快ではないですから」


「場数……それはつまり」


 ライルが真剣そのものの顔で私を見る。

 話しているのは恋愛に関すること。

 そこまで真摯にならなくてもいいのに。


 そう思うがそれは呑み込む

 代わりに持論を披露する。


「つまり女性と二人で話すことに慣れていなければ、話す機会を増やし、慣れればいいのです。騎士の訓練や練習と同じかと。いくら騎士団の団長といえど、剣を最初から完璧に扱えたわけではないですよね? 何事も練習かと」


「なるほど……。練習、ですか」


「正直、私との会話に緊張なさる必要なんてないと思いますが」


「! そんなことはありません! 緊張、します!」


 あまりにも懸命な姿は、やはり可愛く思ってしまう。


「緊張するのは、何を話すか決まっていないからではないですか? いくつか会話のネタを考えておけば、安心できるかもしれません。例えば……披露宴のお食事はどんなものを出す予定ですか? すっかりおまかせになってしまいましたが」


「あっ、それは……」


 そこからは披露宴、結婚式、ウェディングパーティーの話で盛り上がり、その間にチョコレートケーキとコーヒーも届いた。そしてケーキやコーヒー楽しみながら、ライルは笑顔で話すことができている。


 ひとしきり話終わった後。私は尋ねる。


「ウィンターボトム侯爵、緊張感はもうとれたのでは?」


「そうですね。不思議と……会話に夢中になれました。話すネタを、ミルフォード伯爵令嬢が次から次に提案してくれたからでしょうか」


「それもあると思います。会話を私がリードした結果とも言えますので。それに会話をしているうちに慣れた……というのもあるでしょう。要は初めてでは緊張して当たり前。失敗しても仕方ないかと。二度目、三度目と回数を重ねることで、どんなことでも慣れるのではないですか」


 これを聞いたライルはこれまで以上に真剣……やや深刻とも言える表情になり、「初めてでは失敗……。二度、三度と練習を重ねる……」と呟く。


 女性との会話以外にも慣れていないことがあるのかしら……?


「お水、注ぎますか?」


 店員さんの声に、ライルが我に返る。


「ミルフォード伯爵令嬢、そろそろお店を出ますか?」

「はい。もうお腹もいっぱいです」


 こうしてお店を出ることになった。

 この時、ライルはいつもと同じに見えた。

 だが、私のこの時のさりげないアドバイスに、ライルが大いに翻弄されていると気付くのは……。


 翌日のことだった。

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