一体全体何の話……?
そもそもなぜ、私だったのか。
その疑問を思わず口にすると、ベルナードはこんなことを話しだした。
「ザーイ帝国との激戦で、騎士団の一部が、敵陣の近くで孤立してしまったことがあったのです。大局を見た時、彼らの救出はリスクでしかなく、時間の無駄と判断できます。指揮官によっては切り捨てる選択もしたでしょう。でも主は彼らを見捨てず、自ら救出へ向かったのです」
「! それで大丈夫だったのですか!?」
「それはもう一歩間違えれば、死を覚悟するような状況でした。あ、わたしも同行しましたが、本当に大変でしたよ。まさに死の淵ぎりぎりを走り抜けるような状況。そこで主はこう言っていたんです。『自分はここで死ぬわけにいかない。ザーイ帝国を退け、平和を手に入れ、王都に戻ったら、成し遂げたいことがあるから』と。そして王都に戻った団長は、国王陛下に謁見し、今回の戦の報告をして、そして――」
そこでベルナードはニッコリ笑う。
「そろそろ結婚したい、伴侶が欲しいと言い出したのです、国王陛下に。そして褒賞として良き結婚相手を紹介して欲しいと」
これまでライルに色恋沙汰の話は皆無。
それもそうだ。
騎士見習いとなってから、練習と訓練に励み、正式な騎士に叙任されてからは任務に邁進。社交界デビューの時でさえ、ちょろっと舞踏会に顔を出し、その後すぐ、夜勤についたという。団長に就任してからは激務の日々で、そしてザーイ帝国との最前線へ向かった。
確かにこれで恋愛をしていたら奇跡だろう。
「国王陛下は公爵家の令嬢も含め、よりみどりで選ぶといいと主に伝えたようですが……。侯爵になったとはいえ、出自が平民であることを踏まえ、絞り込んだ結果」
そこでベルナードは私をまっすぐに見る。
「ミルフォード伯爵令嬢、あなたが選ばれたのです!」
「!? どう絞り込んでそうなるのですか!? 公爵家を外したのは分かります。男爵家か伯爵家となった時。侯爵家ですから、伯爵家に絞り込んだとしても……」
そこで気が付く。
「社交界の華であるユーリを希望したら、他の貴族を敵に回すと思ったのですね。私は縁談話もなく、社交界でも目立たない。そんな私と結婚するとなっても、誰も文句は言わない……」
「どうしてそんなにご自身を卑下されるのですか!? 国王陛下は沢山の釣書を主に見せたと思います。性格はあの通り。真面目で実直。誠実な主はきっと釣書を一つずつ見て、そしてミルフォード伯爵令嬢の何かにピンと来たのではないですか」
それは絶対に違うと思う。間違いなく、私の推理が正解だ。
平民出身の侯爵。
波風を立てたくないのなら、王都から外れたこの領地を賜ったことも、私という目立たない妻を得たことも、大正解!
「ミルフォード伯爵令嬢、あまりご自身のことを」
ベルナードが語り始め、彼の顔をじっと見つめたその時。
気配を感じ振り返ると、目の周りをふわりと赤くしたライルがそこにいた。
ライルは既に二十歳なのでお酒を飲んでいる。
どうやら少し、酔いが回っているようだ。
「ミルフォード伯爵令嬢、騎士達は放っておくと朝まで飲み続けます。特に翌日、任務がないとなると底なしです。明日は弔いの儀式も午前中にありますし、そろそろお休みになった方がいいのではないでしょうか」
「そうですね。ではそろそろ退出させていただきます。……騎士の皆様にご挨拶を」
「しないでいいです」
そう答えたライルはなぜかベルナードに鋭い一瞥を送った。
酔っている……と思ったが、その一瞥を見るとしらふに思える。
「主、誤解です。わたしは主の懐刀であり、忠誠を誓っています。決して騎士道に反する下心はありません」
「……信じよう、ベルナード」
一体全体何の話……?
そう思ったがライルが私に手を差し出すので、慌ててソファから立ち上がった。
ライルの手に自分の手を載せると……。
彼の手は温かい。
やはり酔いは回っているようだ。
「皆にはミルフォード伯爵令嬢は、昨晩の疲れもあり、先に休んだと伝えてくれ」
「御意」
「行きましょう、ミルフォード伯爵令嬢」
ライルがことさら美麗な笑顔を向けるので、これにはドキッとしてしまう。
さらにエスコートされ、歩き出すと、不思議な気持ちになる。
本当にこのライルと私は、明後日、婚姻関係を結ぶのかと。
ライルと結婚することにためらいはないが、未だ現実とは思えない。
もしユーリがライルを事前に一目でも見ていたら、間違いなく「私が騎士団長と結婚します!」と即答していそうだ。そんなライルと私が……。
気付けば可愛いドレスも、ティータイムのお菓子も、オモチャも全部。
ユーリがまず選び、残った方が私、という扱いだった。
自分が欲しいと思ったり、気に入ったりしたものが手に入ることは……なくて当然の子供時代を過ごし、そしてそのまま大人になった。だからこそ、自分が好きだと感じたライルと結婚できることは……とても嬉しい。
例え彼自身が、平民出身の初代ウィンターボトム侯爵として、貴族社会で上手く立ち回るため、私を選んだのだとしても。
「……今日は沢山の騎士がいました。皆、ミルフォード伯爵令嬢、あなたのことを気に入っています。……あなたはどうなのでしょうか?」
またも考え事をしている間に、部屋の扉の前まで来てしまった。
そして前回と同じ。
扉の前で立ち止まったライルから尋ねられた。
「沢山の騎士の皆様には、最初、緊張しました。でもお義母様やウィンターボトム侯爵様が私の良い所を紹介くださったおかげで、騎士の皆様は気さくに話しかけてくださり……。侯爵様の部下なだけあって、皆様、とても素敵です」
「……! 素敵というのは、どういう意味でしょうか……? まさかカーンのように、筋骨隆々な男性がお好きですか? それともルイスのように、騎士でありながらも博学なタイプが好きなのですか?」
「????? そう言う意味では」「ミルフォード伯爵令嬢」
私の言葉に被せるように声を発したライルは、エスコートしていた手を離し、私の頬に添える。
「ダメです。あなたは自分と結婚するのですから」
不意に近づいた顔。
一瞬お互いの鼻先が触れ、ライルの吐息を感じる。
さらに距離が縮まり、唇が重なる……!
お読みいただき、ありがとうございます!
嬉しいお知らせと完結作をご紹介させていただけないでしょうか。
とあるコンテストで4作品が一次選考を通り
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