【特別編】次は……(前編)
リーン、ゴーン、リーン、ゴーン……。
教会の鐘が鳴り、扉が開く。
「おめでとう!」「お幸せに!」と結婚式の参列者が声を掛ける中、教会から新郎新婦が出てくる。
涙目の新婦、鼻の頭を赤くしている新郎。
階段の両サイドに立つ参列者は、手に持つ薔薇の花びらを、二人への祝福としてその頭上から降らせる。
「くそーっ、まさかピーターに先を越されるなんて」とシダルが悔しそうに呻く。
「奥さん、綺麗だなぁ……」とレニーは花嫁に目が釘付け。
「俺も結婚したい……」とロークが羨望の眼差しで新郎新婦を見つめていた。
騎士団の儀礼用の隊服を着た三兄弟は、三者三様で同僚騎士の結婚について、自身の想いを口にしている。
「兄貴はどうなんですか? 結婚式に参列すると、結婚したい、家庭を持ちたいって……思いませんか?」
濃紺のフロックコートを着る自分にロークが尋ねた。尋ねられた自分はこう答えることになる。
「いや、結婚するのも家庭を持つのも、相手があってこそ、だろう?」
自分の言葉に三兄弟は、「うん、うん」と頷く。
「まずは相手を見つけないと……」
「そうなんだよなぁ」
「でも花祭りでは撃沈したからなぁ」
「俺達って需要がないのかなぁ」
三兄弟がしょんぼりした時。
「それではこれからブーケトスを始めるので、未婚の女性の方は集まってください!」
ブライズメイドの声に、教会の階段にいた参列者たちが、移動を始めた。
教会前の広場の中央に新郎新婦、その二人の背後に、未婚令嬢達が集結している。
三兄弟と自分は、その令嬢達の後ろでこれから行われるブーケトスを見守ることになった。
「女性はいいよなぁ、こういうイベントがあって」
「ブーケを手に入れたら、次に結婚できるんだろう?」
「ああ、そうだよ。ピーターの嫁さんだって、去年ブーケを手に入れ、こうやって結婚しているんだ。俺もあのブーケが欲しい」
三兄弟が女々しくもブーケトスに参加したいとぼやくのを聞いて苦笑していると、同じようにクスクス笑う声が聞こえる。
「! フィオナ嬢、ブーケトスに参加しないのですか?」
アイリの侍女であるフィオナが自分の横にいることに気が付き、思わず尋ねてしまう。
「私はもう結婚適齢期を過ぎていますし、若奥様の侍女という職もあります。生きて行く上で今のところ不自由はないですし、結婚はもう諦めているというか、気にしていないと言うか……」
実年齢は確かにアイリより六歳上と聞いていた。だがふわふわした赤毛、そしてそばかすとリスのような焦げ茶色の瞳で、顔立ちは幼く見える。いつも白い襟と袖のついたグレーのワンピースを着て、女学生みたいに見えるが、侍女として大変有能。アイリからの信頼も厚い。そんなフィオナが既に結婚を諦めているなんて……。驚きだった。
「では、ブーケを投げます。新婦、準備はいいですか?」
「はい」
「では1・2・3の合図で、投げてください」
令嬢達のざわめきの中、新婦が青と白と紫の花で出来たブーケをぎゅっと握りしめ、背後を見て笑顔になる。
「では行きますよ、1・2・3」
「「「わーっ」」」
新婦はかなり思い切りよくブーケを投げたようだ。
それは想像以上の距離まで飛んで行き……。
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ジューンブライドの読み切りネタです。
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