【特別編】花祭り(3)
舞踏会ではダンスをしながら三男であると分かると、ごめんなさいをされていた。だがダンスに誘えば応じてもらえる。
それなのに。
なぜ、今日はまったく相手にされないんだ……?
「あ、あの、兄貴にばかり声を掛けてもらうのは悪いんで、俺達も声を掛けて見ますよ! 兄貴の声掛け見ていたんで、何となくコツも分かったので」
「そ、そうか。……だが今のところ全敗している。そんな誘い方を真似して大丈夫か!?」
「いや、その……誘い文句もそうですけど、タイミングとかもあるんで。兄貴の声を掛けるタイミングは、すごくいいと思うんです。みんな話は聞いてくれているんで」
確かにそうなのだ。
声を掛ければ立ち止まり、「?」という感じで自分を見る。そこで「良かったら一緒に花祭りを楽しみませんか」とか「あちらのレストランで一緒に食事はどうですか」と誘うと……。
「結構です」とピシャリと断られるのだ。そこで、なぜだ!?──と悩む事態が続いていた。
「あっ、では、俺、行ってみます!」
まずはレニーが果敢に声を掛ける。
「あ、あの、そこのレディ」
「間に合っています。もうお腹いっぱいなので」
レニーはライムイエローのスーツを着ており、それは制服などには見えない。だがお店のスタッフ……客引きに間違われたようだ。
ガッカリするレニーの肩を叩き「ドンマイ!」と励ますのはシダルだ。
「今度は自分が!」
シダルは深みのあるモスグリーンのフロックコートを着ている。日中の正装なのだ。スタッフには間違われないだろう。
こうしてシダルが、明らかに年上な女性に声を掛ける。
「あ、ごめんなさいね。急いでいるの! 道案内なら、あっちにスタッフがいましたよ」
道を尋ねようとしている……と思われたようだ。
そうなった理由は……フロックコートを着ているが、実はそのデザイン、ひと昔前に流行したもの。
どこか僻地から来たと思われたのか!?
「大丈夫だ。任せろ。ここは兄ちゃんの出番だ」
ロークが鼻息荒く、アンティークグリーンのジャケットのフロントを掴み、背筋を伸ばす。
「「兄ちゃん、頑張って!」」
シダルとレニーは子供のような声援を送る。
だが。
ロークは……動きがなんだかおかしい。
まず、右手と右足が同時に出ているし、目が泳いでた。それに呼吸が浅くなっているようだし、額には汗まで浮いている。
そして。
「すみません。突然話しかけて申し訳ないですね。今日は大変お日柄もよく、まさに春爛漫。こういう春の天気のいい日に花祭りなんて最高ですよね。それに沢山の花が販売されているので、とてもいい香りが辺り一面に漂っていて。まるで自分が香水瓶の中に落ちた気分ですよ。それで時にお嬢さんは……」
ものすごい勢いでベラベラと話していた。
話しかけられた女性は驚きで目を丸くしている。
というか、引いていると思う。
次第に不審者を見る目になっている、女性が!
「ローク、待たせたな! すまない!」
そう言ってロークに近づくと、肩から腕を回し、まずは黙らせる。
その上で、謝罪だ。
「すみません。自分が来るのが遅いので、暇を持て余していたようで。今、彼が言ったことは気になさらないでください」
女性は「え、ええ……」と何とも言えない表情でその場から去って行く。
「……ローク、女性慣れしてからだ。あんな一気にまくし立てるように話したら、どのみち最後の返事は『結構です!』の一択しかない」
これにはロークがしょぼんとしてしまうので、こうフォローすることになる。
「なに、問題ない。女性慣れなんてすぐにできる。そうだ! 若奥様の侍女に練習相手になってもらおう。今度頼んでおくから」
「兄貴……」
ロークが男泣き状態になり、自分に抱きつきそうになるので、なんとか宥める。
こんなガタイのいい男に貸す胸はないぞ!
というか。
結局誰も、令嬢に声を掛け、成功していないではないか!
ロークは仕方ないとしても。
シダルとレニーはリベンジしてもいいのでは!?
「シダル、レニー、もう一度やってみろ!」
「「イエス、サー!」」
ロークのためにもと二人は頑張るが……。
「すみません」とシダル。
「私、店員ではありません」と女性。
シダル、秒で撃沈!
「あの……」とレニー。
「はい? あ、グレイ! ここよ、ここ!」と背伸びして手を振る女性。
レニー、まさかの男性と待ち合わせている令嬢に声を掛けている!
なぜだろう。
自分と三兄弟、令嬢からの需要がないのか!?
◇
後日。
花祭りでおかしな三人組+カッコいいのに残念な貴公子の噂が社交界を駈け巡る。
「顔はいいのに。白の薔薇石英をつけている女性ばかりに声を掛けているのよ」
「まあ、そうなの。もしかして不倫狙いなのかしら?」
「きっとそうよね。普通にしていたらモテそうなのに。不倫がいいなんて。残念な方ね」
ローク、シダル、レニーの三兄弟は、薔薇石英の色の意味を勘違いしていた。
明るいローズ色は若々しく、華やかなイメージ。それはこれから恋をしたい女性にピッタリ。ということでローズ色の薔薇石英を未婚であり、婚約者も恋人もいない令嬢達が帽子に飾っていた。
一方の乳白色……白の薔薇石英は、凛として落ち着いた印象。既婚者であり、愛され、幸福の絶頂を示す色として、マダム達が帽子に着けていたのだ。
マダム達はお断りさえスマートに行う。既婚者狙いの奇特なお誘いには「道案内ならあちらへ」「もうお腹はいっぱいなの」などと優雅にかわしていたわけだ。
この事実に。
ベルナードも三兄弟も。
一切、気付いていない。
おかしな三人組+カッコいいのに残念な貴公子の噂を聞いても……自分達のことと思っていないのだ!
ますます恋愛街道から外れて行くベルナード&三兄弟。
負けるな、三兄弟!
頑張れ、ベルナード!
お読みいただき、ありがとうございます!
やっぱりこうなる~(笑)
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