【特別編】花祭り(2)
「ベルナード様、また若奥様が面白い仕掛けをするそうですよ」
すっかり弟分のようになっているロークからそう言われた時、アイリの才能に舌を巻くとになる。
これまで商売の経験があったわけではない。
経営のことは全面的にプロに任せてはいるのだが。
出すアイデアが面白いのか、待ったとなることはなく、即実行になっている。
「今回はどんな仕掛けなんだ?」
「何でも花祭りに乗っかった仕掛けなんだとか。春になるとご令嬢マダムは、派手な飾りをつけた帽子を被るようになりますよね。その帽子にあの薔薇石英の美しいブローチをつけることを提案しているんです」
シダルの答えに拍子抜けする。
「なんだ。それだけか?」
「それだけじゃないですよ! 薔薇石英は、ハッキリと分かるピンクのローズ色以外に、乳白色の白い物もあるそうなんです。この2色に意味を持たせたんですよ! 既婚もしくは婚約者や恋人がいる場合。未婚で婚約者も恋人もいない、出会い待っています!の場合とで、身に付ける薔薇石英の色を変えるんです!」
レニーの言葉に「なるほど!」だった。
「つまり帽子の薔薇石英の色を見れば、お誘い待ちの令嬢が一目瞭然なんだな!?」
「そうなんですよ、ベルナード様! これまでその区別がつけにくかったですよね? ダンスに誘って踊っている時、さりげない会話から婚約者いることが分かり……。ガッカリすること、ありましたよね!? それがなくなる! しかも花祭りって出会いの場として有名じゃないですか!」
ロークはそう言うと、こちらを熱い視線で見た。
なぜかシダルやレニーまで自分を見ている。
「「「これは恋人を作るチャンスですよ」」」
三兄弟の声が揃う。
「なっ、お前達、花祭りで恋人探しをするつもりか!?」
「だってそんな分かりやすい印があるなら、動かない手はないですよね!? 三人とも恋人も婚約者もいなんです」
シダルがそう言うと、レニーが少し困った顔になる。
「でもいざ恋人募集中のご令嬢に声を掛けるとなると……緊張しそうだな」
「そうだな。ここは慣れた人間にコツを教えてもらいたいところだ」
ロークの言葉にシダルとレニーは同意を示し、またもこっちを見る。
「な、何だ!?」
「「「ベルナード様、手本を見せてくださいよ」」」
「何!?」
何でそうなる!?と声が上ずる。
「ベルナード様は一時、踊り子の女性と付き合っていたんですよね!? それに経験豊富だって噂ですよ!」
そ、それは……。
作戦のための話。
コイツら信じていたのか!?
それに経験豊富って!
自分、まだ童貞だし!
ライルもそうだが、この三人も。
みんな、誤解だよ!!!
「あの踊り子達、刺客とはいえ、可愛かったですよね」
「俺が話した子はとってもセクシーだった」
「でも相手にされなかった……」
そこで三人がすがるように再びこちらを見た。
「「「お願いします、兄貴!」」」
◇
舞踏会でダンスに誘えば断られることはなかった。
だがダンスの最中の会話で……。
自分が伯爵家の三男であると分かると。
表情を見れば理解できる。
「三男……」とガッカリされたり。
「そうなんですね」と微笑して、ダンスの後はすぐにフェードアウトされたり。
そう言うこともあったが、花祭りで声を掛けるぐらいなら……。
お茶でもしようと声を掛け、OKならすぐに三兄弟を紹介し、自分は姿を消してもいい。どうせ会話が始まり三男と分かれば、相手にはされない。だが三兄弟には長男、次男、三男と揃っているのだ。誰か一人に道は拓けるかもしれない。
ということで花祭りを迎える。
ライルはアイリと花祭りを楽しむから、自分達にも楽しむようにと休暇をくれた。それを使い、ありがたくローク、シダル、レニーの三人と、花祭りに繰り出すことにした。
「そういえばお誘い待ちの令嬢が帽子につけている薔薇石英は、ローズ色なのか? それとも乳白色なのか?」
問い掛けられた三兄弟は顔を見合わせた。そしてロークが答える。
「……白の、乳白色ですよ! あなた色に染めてくださいって」
「なるほどな。それで。どうなんだ。気になる令嬢はいたのか?」
「「「早速、いいんですか?」」」
三兄弟が目を輝かせるが、そのために来たのだ。
自分としては、早々に役目を終え、個人的にじっくり素敵なご令嬢を探したいと思っていた。
「じゃあ兄貴、あそこのご令嬢で、お手本をお願いします!」
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素敵なメンズがそばにいても、自らの手で妹と弟を幸せにしようとする私。
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