【特別編】花祭り(1)
春。
王都の公園や庭園に植えられているアーモンドの花が咲く季節が間もなくやってくる。
「若奥様。『LoveLink Week』と『RE:LoveLink Week』は実に素晴らしいイベントでした。春は何かイベントをされないのですか?」
今日はサンルームで一人のんびりティータイムを楽しんでいると、フィオナにそんな風に声を掛けられた。
「そうね。春はイベントが多いから、後発で始めても埋もれてしまう可能性があるわ」
春は気温も穏やかになり、天気も良く、沢山の花が咲き始める。自然と人々の心も華やぐため、フェスティバル、お祭り、フェアなど盛りだくさんだ。
「なるほど。皆さん、おしゃれをして外へ出る機会が増えるので、『ローズ・ジュエリー』としても書き入れ時ですよね。何かできるといいのに」
それは確かにフィオナの言う通りだ。
「確かにそう言われると何かしたくなるわ。……春になるとみんな帽子や日傘を使い始めるわよね。冬の間は防寒も兼ねたウールの厚手の帽子を被っているけれど、春になると装飾品があしらわれた帽子を被るようになる……」
「そうですね。ハットピンとブローチはお店でも作られていますよね」
「そうね……。そう、そうだわ。フィオナ、思いついたわ!」
私がそう言うと、フィオナが瞳を輝かせた。
◇
「花祭りで薔薇石英の帽子用ブローチを販売されるのですか?」
「はい。帽子につけることを推奨しますが、ドレスやスカーフ留めにもつけられるようにします。花祭りが終わった後も日常使いできるようにするつもりです」
「なるほど。男性目線での意見が欲しいということですが、とても良いと思いますね」
ライルは私の計画を聞くと、即答で賛同を示してくれる。
春に行う『ローズ・ジュエリー』のプロモーション。
それはこの時期に行われる花祭りに便乗すること!
花祭りは二週間に渡り、王都で開かれる花の見本市。
新種の花の紹介をはじめ、同業者が情報交換を行う。一般人は様々な花を安価に手に入れることができた。
花は貴族、庶民に関係なく親しまれている。
季節を感じるのに花は欠かせない。
貴族は冬でも敷地内に建てた温室で花を栽培し、屋敷の中を生花で飾ろうと頑張るぐらい、花は必要不可欠。ゆえに花祭りは例年大人気なのだ。
「花祭りは未婚の若い男女にとっては、出会いの場にもなると聞いています。薔薇石英は基本は美しいローズ色ですが、乳白色の白に近いものも沢山産出されるのですが……。扱いとしてはランクが落ちる。でも今回の趣旨では、その白い薔薇石英の活躍の機会にもつながると思います」
「素晴らしいアイデアです! 白い薔薇石英を使えば、値段も手頃にできる。まさに一石二鳥ですね」
ベッドに横たわるライルはそう言うと、私を優しく抱き寄せる。
その胸の中に収まると。
触れる素肌にはいびつな傷痕がある。
このいくつかの傷は。
私と再会するために。
私の横に立つに相応しい身分を得ようと、ライルが懸命に生きた証。
見て、触れる度に。
ライルへの気持ちが込み上げる。
そっとその傷跡に口づけると「アイリ……」とライルが甘えるような声で私の名を呼ぶ。
この国の英雄であり、その剣の腕で右に出る者はいないと言われている。一時は戦場での凄まじい活躍ぶりから“野獣”だなんて言われてきたけれど……。
こうやって私と一緒に、特にベッドにいる時は……。
「アイリ……」
ぎゅっと私に抱きつき、鼻を摺り寄せる甘えん坊の大型犬だ。
愛でるようにライルを撫でていたたが、実際は犬ではないので……。
「うんっ!」
その逞しい体がゆっくり重なると、愛でている余裕などすぐになくなり……。
「うっすらと染まるアイリの肌は、アーモンドの花びらのような色で、とても美しいです……」
「あ、でもライル、そんなところにキスなんて……!」
春は近づけど、まだ夜は肌寒い。
だがライルの愛に包まれた私は……心身ともにとても温かった。
お読みいただき、ありがとうございます!
今回はコメディです~
新作スタート
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