【特別編】LoveLink Week(5/6)
「アイリ……今日のドレスは……その、とても……」
直前に届いた知らせの対応で、ライルは少し遅れてダイニングルームに入ってきた。
「遅れて申し訳ないです、アイリ……」と言いながら部屋に入ってきたライルは、私を見るとハッとした表情になる。
そして何とも分かりやすく、頰や耳をぽわんと赤くして視線を彷徨わせた。
その上で、ドレスについて言及しようとするのだけれど……。
言葉が続かない。代わりに真っ赤になり、消え入りそうな声で「大変素敵です。とてもドキドキします……」と告げた。
「ありがとうございます、ライル。実はこれをプレゼントしたくて。このドレスはこちらにちなんでいるんです」
そう言ってカシスリキュール入りのチョコレートを、対面の席に腰をおろしたライルに差し出す。
「これは……」
『RE:LoveLink Week』のパッケージを使っていないので、ライルは何のギフトが分からない。そこで種明かしをする。
「つまりアイリは『RE:LoveLink Week』でも販売されているカシスリキュール入りのチョコレートを、自身で作られたのですか!? そしてカシスにちなんだ色味のドレスを選んでいた……!」
「そうですね。手作りに挑戦しました。そしてドレスはカシス色です。チョコレートを手作りした……のは確かですが、一人ではありません。パティシエに手伝ってもらいました。初めてのお菓子作りでしたので……」
「! アイリ、ありがとうございます! アイリの初めてをもらえて、とても嬉しいです……!」
なんだかライルの言葉にドキッとしてしまうが、確かに初めて作ったチョコレート。
「このチョコレートは家宝にします」
「!? いえ、召し上がってください!」
するとライルは「かしこまりました!」と団長モードになり、ベルナードを呼ぶ。
「これを部屋に運び、後ほどブラックティーを用意するように」
「了解です、主」
ベルナードはライルからチョコレートの入った箱を受け取ると、恭しくお辞儀をして出て行く。その姿を見送ったライルはもう笑顔がこぼれ落ちそうだ。
「自分のために、厨房に立っていただいのかと思うと、大変恐れ多いです」
そこでライルはことさら真剣な表情になり、こんなことを言い出す。
「……このまま食べてしまうのは、やはり勿体ない気がします。ちゃんと画家を呼び、しっかり描いてもらってから、食べた方がいいですよね」
これには驚き、畳み掛けることになる。
「いえ、今晩ぜひ、召し上がってください!」
「本当に食べてしまっていいのですか!?」
この反応にはつい、笑ってしまう。
「ライルに食べていただくために作りました。……ライルが食べる姿を見たいです……」
少し甘えるように伝えると……。
「ベルナード!」
これから夕食なのに、ベルナードを呼び戻し、今すぐチョコレートを食べようとしたり。
ライルが嬉し過ぎておかしくなってしまっている様子は……もう愛らしくして仕方ない!
厨房では、なかなかスタートしないディナーに驚いただろうが……。
いつになく落ち着かないライルを存分に愛でることができた。
そんな一幕があったものの。
夕食の後、チョコレートを食べるというゴールが見えたライルは。
まるで戦場にでもいるかのようなスピードで、夕食を食べすすめる。流石にベルナードが耳打ちして、その速度はすぐに落ち着いたが……。
本当に。
こんなに喜んでくれるなら。
もっと早く何かライルのために用意すれば良かったと思う。
「さぁ、アイリ。夕食は片付けました。いざ、寝室へ」
まるで敵を一掃し、これから本拠地へ赴くような勢いで席を立った、ダークブルーのセットアップ姿のライル。
その表情はキリッとして、待ちきれないオーラが漂っている。
それでも騎士として。
そして夫として。
私へ手を差し出してくれる。
こうしてライルのエスコートで部屋に着くと、すぐにブラックティーが運ばれて来た。
ライルの臨戦体制が使用人のみんなにも伝染したのだろうか。
「旦那様、ブラックティーでございます!」
メイドがキリッとしている。
「よくやった! ご苦労!」
ライルは団長モードで応じ、使用人達もイキイキしていた。
だがそこでソファに座ったライルは、深呼吸をすると……。