【特別編】LoveLink Week(3/6)
「若奥様!」
少し興奮した様子でフィオナが部屋にやって来た。
ライルとの昼食を終え、私は部屋で刺繍をしている最中だった。
「どうしたの、フィオナ?」
「これを見てください」
フィオナが差し出した書類を受け取る。
「あ、これは店頭リサーチの結果ね?」
店頭リサーチ。
初めての試みであるLoveLink Week(愛の絆週間)。
皆はどのように受け止めているのか。それはとても気になることだった。
最初はお店から出てくるお客様の様子を、フィオナと共に、カフェから観察していた。しかしその表情から彼らの気持ちを推測するにも、限界がある。より役に立つ情報が欲しいと、思いついたのが店頭リサーチだった。
お店に来たお客様に話を聞き、改善や今後の施策にいかすための調査を行う。それすなわち、店頭リサーチだ。
「若奥様、その通りです。こちらは店頭リサーチの結果の一部。先程、スタッフが届けてくれました。ぜひとも若奥様に参考にして欲しい声があるということで、急ぎ届けてくれたのです」
「まあ、そうなのね。どれかしら?」
するとフィオナが「こちらです」と指差す。
私は素早く目を走らせ「なるほど」と頷くことになる。
そこにはこう書かれていたのだ。
『……愛する妻へ贈り物が出来るのは、とても嬉しいと、自分の主が言っていました。しかもLoveLink Weekのペンダントを妻に贈った主は、どうやら大変アツアツの夜を過ごした様子。正直、羨ましいです。自分も愛が欲しい……。女性からの愛のギフト、待っています……』
異性間で贈り物をする時。それは男性起点が多かった。
女性同士で贈り物をしたり、家同士で贈り物をする時は、女性から渡すこともあるが……。
「贈り物というと、求愛や婚約のため、男性から女性へ贈るのが主流よね」
「そうですね。特に騎士は憧れの貴婦人に贈り物をすることが、一種のステイタスかと」
「騎士……そうよね。戦場へ向かう騎士に女性から贈り物をすることはあるけれど……。LoveLink Weekで、女性から男性にギフトを贈る提案をするのは、どうかしら?」
するとフィオナはハッとした表情になる。
「それは男性に意見を聞くのが一番では!?」
「! 名案だわ。……でもライルは……」
私が口ごもると、フィオナが心配そうに尋ねる。
「どうしたのですが、若奥様?」
「もし女性から男性にギフトを贈るイベントを提案するなら、今度は私からライルにサプライズをしたいの。だから意見を聞くなら、ライル以外がいいわ」
「あ、それなら!」
◇
「……という意見が寄せられたのよ、ベルナード」
店頭リサーチの結果から、女性から男性にギフトを贈るイベント、その名も『RE:LoveLink Week』。これを第二弾で始めることを考え、男性の意見を聞きたいと思った。そこで男性使用人に話を聞き、さらには騎士の意見を聞こうと、ベルナードを呼び出した。そして話をしたところ……。
「! それは絶対にやるべきだと思います!」
エメラルドグリーンの瞳を輝かせるベルナード。
そのあまりにも前のめりな様子に私は気が付く。
もしやあの店頭リサーチの声、ベルナードなのでは!?と。
ベルナードはライルの忠臣。
ライルが嬉しそうにしていると、ベルナードも笑顔になる。
でも最近のライルは新婚ということもあり、私への愛情オーラが溢れているから……。
少しベルナードも寂しいのかもしれないわ。
というのはともかくとして。
男性陣の話を聞くと、やはり女性からギフトを貰えるのは嬉しいとのこと。
ならば『LoveLink Week』で男性からギフトを贈られた女性達に向け、その喜びの気持ちを『RE:LoveLink Week』で男性へお返しするのは勿論、女性から男性へ感謝のギフト贈る提案をするのは……いいのではないかしら?
「カフェで出しているハート型のクッキーやマカロン。これを『RE:LoveLink Week』のギフトにしようと思うの。でもそれだけでは芸がないでしょう」
「何か新商品を出すのですか、若奥様!」
フィオナが興味津々の表情で私を見る。
「そのつもりよ」
「何を出すのですか!」
「カシスリキュール入りのオトナのチョコレートよ。パティシエとも話したのだけど、ビターチョコレートとカシスリキュールを組合わせると、カシスの酸味がビターなチョコレートの味わいをさらに高めるそうよ。その一方でミルクチョコレートにカシスリキュールを加えると、甘味が増す。甘党の男性におすすめと聞いたわ。この二種類を主力商品にして、『RE:LoveLink Week』を展開しようと思うのだけど、どうかしら?」
フィオナは私の説明でそのチョコレートの味を想像したようで、表情がぱあぁぁっと明るくなる。
「若奥様、それはとてもいいと思います! “オトナのチョコレート”と言われるだけで、なんだかドキドキしてしまいます。ぜひ、それで展開しましょう!」
フィオナに背中を押され、『RE:LoveLink Week』をカフェで展開することを決意した。