【特別編】LoveLink Week(2/6)
「若奥様、あの長身でメガネをかけ、宮廷音楽家のようなかつらをかぶっているのは……」
「あれはライルね。そしてそのとなりのエルフみたいなサラサラの長髪は……ベルナードだわ」
「何で若奥様のお店に変装して訪れたのでしょうか? それにあの紙袋。LoveLink Weekのリボンがついています。どう考えてもハート型のペンダントトップを手に入れた……のですよね?」
『ローズ・ジュエリー』に併設されたカフェで、フィオナと私はティータイムを楽しんでいた。LoveLink Weekの客足の確認を兼ねて。
すると珍客を目撃することになった。
そう、変装したライルとベルナードだ。
なぜ変装して、LoveLink Weekのペンダントトップを手に入れたのか。
それは……ああ、そうね、きっと私にサプライズで贈るつもりなのね。
「フィオナ、きっとライルはサプライズでプレゼントをしたいのよ、私に」
「まあ、そうなのですね。……旦那様は意外とロマンチックなんですね」
「ふふ。ライルはああ見えて、ムードとか部屋の雰囲気を気にするのよ」
それもこれも娼婦から学んだことなのだろうけど。
そこで得た知識を私に還元してくれるのは……ウエルカムだ。
だってそれは全部、女性にとっては心地いいことだから……。
そしてこの日の夜。
先に入浴し、イブニングドレスへ着替え、ライルと夕食を摂った。
ライルはこの夕食の席に、髪はアップできて欲しいと私にリクエストしていたのだけど……。
「きっとLoveLink Weekのペンダントトップを今晩プレゼントしてくれるんですね。チェーンも一緒に購入されたそうなので、プレゼントし、その場で『つけてご覧……』になるかもしれません」
まさにその通りだと思う。
ちゃんとペンダントをつけやすいよう、髪はアップにした。さらにペンダントが際立つよう、デコルテと背中が大きく開いた、碧い色のドレスも選んでいる。
こうして夕食をライルと摂ることになった。
「ではアイリ、そろそろ部屋へ送ります」
「そうですね」
食後の紅茶も終わり、一息つくと、ライルのエスコートで部屋に戻ることになった。
紺碧色のテールコートを着たライルの後ろに続くベルナードは、不自然に背中に腕を回している。
きっとLoveLink Weekのリボンがついた紙袋を隠し持っているのだろう。
部屋に着くと一緒に室内に入ったライルは……。手早くベルナードからあの紙袋を受け取り、私に差し出す。
「アイリ、これを」
「これはLoveLink Weekですね!」
「はい。アイリの発案で始まったこのイベント。今、王都ではこのLoveLink Weekで持ちきりです。貴族だけではなく、平民も楽しんでいる。街中を歩けば、このリボンのついた紙袋を手にした男性で溢れています」
これは本当にライルの言う通り。
薔薇石英のハート型のペンダントトップはとても愛らしく、男女共に受け入れられた。しかも価格を抑えることで、沢山の人が買い求めてくれたのだ。
「ありがとうございます、ライル。嬉しいです。サンプルで何度も見ましたが、現物は持っていなかったので」
「それは良かったです。……つけて見ませんか?」
「ええ。早速」
そう応じて紙袋から細長い箱を取り出し、リボンをシュルッと外す。パカッと蓋を開けると、見慣れたハート型のペンダントトップが現れる。
「アイリ、あちらのドレッサーに行きましょう。自分がつけて差し上げます」
この提案にはビックリ。
でもせっかくなのでライルにつけてもらうことにした。
繊細なチェーンのペンダント。
ライルは上手く扱えるかしら?
そんな心配はすぐに無用だと分かる。
ライルは難なく留め具を外し、私の背後に回った。
「失礼」
そう言ったライルが後ろから私の鎖骨の辺りに腕を回す。
その瞬間、香水がフワリと香る。
「できました」
手早い!
そしてチェーンの長さはデコルテを一番美しく見える長さに調整されていた。
「ライル、とても素敵だわ。本当に嬉しいです」
「とても似合っていますよ、アイリ」
笑顔のライルはそのまま背後から私をフワッと抱きしめると……。
優しく肩にキスをする。
これにはドキッと心臓が反応してしまう。
「ペンダントは女性を口説くのに、最適なギフトと教わりました。こうやってキスをできるから」
肩のキスは首筋に移動する。
ライルの唇が触れた肌は、熱を帯びていく。
「それに背中にホックやリボンも多いでしょう?」
うなじの辺りにライルの熱い息がかかり、ゾクゾクと気持ちが高まる。スルリと外されたウエストリボンが絨毯へと落ちて行く。
「アイリ」とささやく声を耳にした時には、ライルが触れた体のあちこちが熱くなり、理性の限界を迎えている。
特に深い考えはなかった。
でもLoveLink Weekのハート型のペンダントトップは……愛する者同士の愛を深め、片想いの男女の距離を縮めるのに……多いに役立っているに違いない。
そんな実感をできる熱い夜が、真冬の王都で更けていく──。