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#4 第一の噂「校舎を徘徊する人体模型」④ ~解決~

物理室を出た瞬間、海凪(みなぎ)が人体模型の存在を感知する。


「見たくなければ、目瞑っててください」


その言葉に女子生徒もなんのことを言ってるのか察し、目を瞑った。しかし力が入らないのか、少しの振動で勝手に目が開きそうだ。


「走るぞ、瓦くん」


「おう!頼む!」


海凪が全速力で走り出す。


──階段を横切った瞬間、視界の端に人体模型を捉えた。


「来たぞ、深代!」


念の為に龍が知らせる。


海凪は2階に降りるために、廊下の突き当たりにあるもう一つの階段に向かう。


そして階段を降り、目の前にある渡り廊下に──


「まじか!」


しかしそこには渡り廊下がなかった。龍は取り乱すも、海凪は冷静に現状を分析する。


「北校舎の廊下だ。完全にぐちゃぐちゃになってるな」


今海凪がいる廊下は、さっきいた中校舎、南校舎よりも壁面が剥がれており、より古めかしい。北校舎は1年生の教室があるところなので、海凪にも分かった。


そうしているうちも人体模型は何事もないように追ってくるため、海凪も足を回転させ続けている。


次に階段を降りると南校舎3階に。

次は中校舎3階

北校舎3階

……


「出られねえ!」


龍が焦りの混じった声で、小さく叫ぶ。


「ハハハ、タノシイナ、ハハ」


「ひっ…!」


相変わらず感情のない声で奇声を上げる人体模型。女子生徒は力が入らず耳が塞げないため、みるみるうちに顔を青ざめていく。


「大丈夫ですよ。…瓦くん、ちょっとスマホの時間を確認してくれないか」


海凪は仮に人体模型に遭遇したタイミングでスマホの時計がバグったのなら、追いかけられている今、何か変化が起こってるかもしれないと思った。


「変わらず、0時13分だ」


「俺のスマホも見てくれないか?右ポッケにある」


「おっけー!……お、おい!見てみろ!」


龍は右手を必死に伸ばし海凪のポケットからスマホを取り出した。


そして画面をチェックして驚いた龍が、スマホを海凪の眼前で持つ。


「…0時7分か」


さっき物理室で確認した時は0時9分。その時よりも2分少なくなるという、時計ではあり得ないことが起こっていた。


「…カウントダウンか」


海凪がぼそっと呟く。


「カウントダウン?」


「ああ、恐らくな。推測だが、これは人体模型さんに追いかけられた時間に応じて減少する。今、ターゲットは俺で、俺の時間が減ってるんだろう。彼女のスマホの時間は人体模型さんに捕まったから、正常に戻ったんだ」


女子生徒も最初人体模型に見つかったときに、本当は時間がバグっていた。


「な、なるほど。あ、また減った」


2人が話している間に、海凪のスマホの時間が0時6分になった。


「問題はこの数字がゼロになって何が起こるかだ」


理想は、この数字がゼロになることが魂の未練の解消につながること。


(仮に昨日偶然聞いた森元さんの容態が、俺の推測した魂術(こんじゅつ)によるものだとすれば、捕まえられる、つまり触られることが未練の解消につながるとは考えにくい)


森元が寝込んで、少なくとも1週間以上空いてるのなら、もう魂は成仏しているはずだと海凪は考える。


(ただ、一定数以上捕まえることが未練解消に繋がるなら話は別だが…)


「ハハ、タノシイナ、タノシイナァ、ハハハハ!」


海凪が思考を巡らせている間も人体模型は構わず追ってくる。


「おいおい、気味悪すぎだろ…!」


全身の冷や汗が止まらない龍。


人体模型が声を発する頻度、声量が増えてるのに、その無機質さは変わらない。


定期的に後ろを振り返って追ってくる人体模型の様子を見ている龍は、だんだんと走るフォームも大袈裟になっているようにも感じた。


明らかに校舎内の空気も異様になってきている。空気が重くなっているというよりは、魂の色が濃くなっている感覚。それこそ海凪が言っていた魂の中、という言葉を龍は今実感していた。


「おい深代!逃げ切らない方がいいんじゃねえか!?」


逃げ切るというのは海凪のスマホの時計が0時00分になるということ。


「どうして?」


「だって、逃げようとすればするほど明らかにおかしくなってっから!」


龍の言う明らかにおかしい、と言うのは空気感だけじゃない。


階段に降りた瞬間どこかわからない教室に飛ばされたり、その教室を出てもまた新しい教室に出たり別の校舎の廊下に出たりと、校舎がさっきよりもより複雑になっている。


だから龍は0時00分になると、何かやばいことが起こるのではないか、と思っている。


「いや、いや!絶対逃げて…!」


しかし女子生徒は龍と真逆の意見を強く主張する。

自分よりパニックになっている女子生徒を見て龍は少し冷静になる。


そして冷静になった頭でもう一度考えてみると、逃げ切らない=捕まるという結論に至り、それに気づいた瞬間龍の背筋に冷たいものが走った。


「…やっぱり、逃げ切ってくれ」


「ああ、そのつもりだ」


もとより海凪はそのつもりだった。


「…そもそも都市伝説を引き起こす魂ってのはチグハグな存在なんだ。ただ魂が激しく揺らぐとき、何かの核心に迫っているのは確かだ」


あまりに抽象的な説明。それだけ都市伝説というのは一言では説明できない謎に包まれたものだ。だからこそ都市伝説と呼ばれているのだろう。


「0時00分になっても何も起こらないかもしれないが…とにかく後3分、逃げ切るから安心して俺に身を委ねてくれ」


女子生徒と龍は、それに対して首肯した。

3人の目的が再び一致た。


しかし長時間のチェイスに予測不能な走路、そして教室の机という障害物を避けながら走るということは海凪に大きな負荷を与えていた。


一方で人体模型の方は疲れも見えなければ、まるで次どの場所に出るか分かっているように、無駄のない走りを続けている。


「大丈夫か深代…!」


「問題ない」


確かに両者の間隔は3メートルほどでずっと維持しているが、龍にとってはただおもりになっているだけの自分に対して、とても焦りと情けなさを感じていた。


「…よくよく考えても捕まっても死にはしねえよな」


「…瓦くん?」


「俺が降りてあいつを足止めすっから、その間に2人は逃げてくれ!」


冷や汗をかきながらも自己を犠牲にする覚悟を決めた龍。


「…ダメだ」


今度は即答とは言わないまでも、はっきりと海凪に却下された。


「また!?なんでだよ!?死ぬことはないから大丈夫だろ!?」


「…理由は2つ。1つ目、都市伝説を生み出す魂に正面から反抗するのはできれば避けたい。基本良くないことが起こるからだ。そして2つ目、仮に人体模型さんの能力が、触れた人からエネルギーを吸収するものだとしたら、瓦くんのエネルギーが吸い取られた場合、さらに人体模型さんのスピードが上がる可能性だってある。そうなれば逃げ切れないかもしれない」


見立てが甘かった。龍は心からそう思い、己の情けなさから顔を顰める。


「何度も覚悟をへし折ってごめん。…でもかっこよかったぞ瓦くん。おかげで元気が出た!」


しかし龍の心意気は確かに海凪に届いた。海凪は龍に笑顔を見せ、さらにスピードを上げた。わっ、と一瞬驚いた龍だが、龍も笑顔で応えた。



──0時00分まで残り1分20秒



「渡り廊下だ!」


飛ばされた先が南校舎2階。


そしてその階にある渡り廊下に足を踏み入れる。


──瞬間、北校舎2階の教室に飛ばされた。


「くそっ!」


龍は外に出る絶好の機会を逃し悔しがったが、海凪はただ目の前の道を走り続けるのみ。


机の上を飛び移りながら反対側の扉から出ると次は物理室に。物理室は出入り口が一つしかないため、海凪は人体模型と正体し、肉薄する人体模型を飛び越えようとした。



しかし──


「っぶね!」


海凪が人体模型を飛び越えた瞬間、宙を舞う海凪めがけて人体模型が手を伸ばしてきた。幸い、瞬時に海凪が足を大の形にしたため避けられたが…


「ハハハ、オシイナ、タノシイナ」


「おいおい深代!あいつ、学んでんぞ!?」


海凪は今まで何度か人体模型の上を飛び越え回避していたが、手を伸ばしてくることはなかった。


「とにかく心配無用だ。このまま逃げ切る」


「ハハ、ハハハ。ハシレ、ハシレ、モット、モット…!」



──0時00分まで残り40秒



中校舎3階の階段を登ると、そこには扉があった。それも教室の扉とは違い、元から階段とつながりのある扉だった。


「マジかよ、ここにきて屋上か…!」


入り口は一つしかなく、屋上には回避するために利用できる障害物もない。


しかし進む道はそこしかないため、海凪は躊躇してる間もなくドアノブをひねった。


鉄の扉を、軋み音を鳴らしながら開ける。


「おっと!」


扉を開けた瞬間、目の前に転がっていたひび割れた酒瓶を大股で飛び越える。


「なんで酒瓶…。てか扉閉めないのか深代!」


「大丈夫、心配すんな」



扉は閉めない。



人体模型に見失われては困るからだ。



──ここで数字を0にするために。




──0時00分まで残り20秒



「ハハハ、タノシイナァ」


「おい、きたぞ!どうすんだ深代!」


人体模型の頭上を飛び越えようにも、次は触られるかもしれない。緩急で避けるのも学習済みで、この障害物のない場では捕まる可能性もある。


そもそも海凪の体力的にも、もう人体模型の上を飛び越したり、キレのある緩急を出すのは無理かもしれない。


「やばいぞ深代!!」



──絶体絶命。


龍は激しく焦り、女子生徒は体の震えがおさまらない。



海凪の額にも汗がにじみ、ジリジリと後ずさるも、背中が柵にぶつかりまさに背水の陣。



「ハハ、タノシイタノシイタノシイ、ハハハハ!」



それでも構わず人体模型は迫ってくる。


「助けて…助けて…!」


「深代!!」



両者の間隔、約4メートル。




──0時00分まで残り10秒




「──鬼殺しの鎖」


「……えっ?」


海凪が突然、そんな言葉をこぼした。


「俺が昔解決した都市伝説の名だ」


そう言いながら海凪は2人を抱えたまま、柵に後ろ跳びで跳びのる。


「深、代…?嘘だよな…?」


龍は後ろを振り返り、遠くにある地面を見て最悪の行動を思い浮かべる。


「首絞める勢いでしっかり捕まっててくれ、瓦くん」


両者の間隔、約1メートル。


「ハハハハハハ!!!」


人体模型が手を伸ばす。


海凪の胴体にその指が触れる寸前、海凪が後ろ向きに飛び降りた。


「おいマジかああ!!!!」


「きゃあああ!!!!」


絶叫する2人を抱え、海凪はまっすぐ真下に落下する。


このままいけば間違いなく3人とも命を落とす。


しかし海凪には焦りの色は見えない。


そして何かを始めるのか、海凪が女子生徒を左手だけで抱え直した。




──突然、海凪が右手首にある鎖に唇を落とし


鎖姫(さき)さん!」


そう叫んだ。


「はいは〜い」


するとどこからともなく、間延びした女性の声が聞こえてきた。


「屋上の柵に!」


「は〜い。まっかせて〜」


海凪が指令とともに屋上の柵目掛けて右手を突き出す。


すると鎖がぐんぐん伸びていき、海凪たちを見下ろしている人体模型の近くの柵に巻き付いた。


そして落下の勢いを少しずつ殺し、さらに鎖を伸ばしながらゆっくりと地面に降りていく。


「な、なんだ今のは…!?」


その光景を見ていた龍の空いた口が塞がらない。


落下の恐怖を忘れるほどの衝撃。



──0時00分まで残り0秒



そして地面から約4メートル上空で、海凪のスマホの時間の数字が全て0になった。


その瞬間、海凪たちをずっと見下ろしていた人体模型が、いきなり支えを失ったかのように膝から崩れ落ち、海凪たちからは柵にかかる手しか見えなくなった。


さらに校舎中に充満していた独特の不気味な空気が霧散した。


海凪がつま先から静かに地面に着地する。それと同時に、屋上の柵に巻かれていた鎖が海凪の右手首に収まった。


「…校舎の外に出たら時間がリセットされる可能性もあったが、どうやら大丈夫だったようだな」


「深代、それって…」


「ああ。校舎を徘徊する人体模型の噂、一応解決だ」


理由は不明だが、海凪のスマホの時間が0時00分になったことで、この都市伝説を引き起こした魂の生前の未練は解消され、その現象も消滅した。


「っしゃー!!」


試合を終えたアスリートのように龍は地面に仰向けになり、拳を天高く上げて喜びを表した。


「ありがとうございます!!」


そんな様子を微笑ましく見ていると、海凪の左側から力強い感謝の言葉が飛んできた。


「戻ったんですね」


「はい!おかげさまで!さっきまで動けなかったのが嘘みたい!」


女子生徒は海凪の腕の中から抜け出し、軽く飛び跳ねて元気な様子をアピールする。そんな様子を見て海凪は心から安堵し、龍は鼻の下を伸ばしていた。


「ちょっと〜私の存在忘れてな〜い?」


そんな和やかな空気を崩す、4つ目の声。


「忘れてないよ鎖姫さん」


海凪は自身の右手に巻かれた鎖に向かって話しかける。その様子を、龍と女子生徒は固唾を呑んで見ていた。


「そう?じゃあ私に魂術を使わせた対価、払ってもらうわよ〜」


「もちろん」


海凪が承諾すると再び鎖が伸び始める。


『鬼殺しの鎖』


龍は海凪が放ったそんな言葉を思い出す。


(そうだ!数年前にそんな都市伝説を聞いたことがある!確かその都市伝説って、一人でに鎖が伸びて通行人を絞め殺すって噂だったはず。あまりに強力な力で人を締め上げるからその名がついたって…っ!)


対価という言葉に顔を青ざめる龍。


今にも鎖が海凪に巻きつこうとしている。


「深代!危ない!」


その瞬間龍は海凪に飛びかかり、鎖から海凪を庇うようにして覆い被さった。


「早くその鎖を取れ!じゃないと締め殺されるぞ!」


必死に鎖から海凪を守ろうとする龍。

しかし海凪はそんな様子を見て唖然としていた。


「ちょっと坊や、邪魔しないでくれる?」


「っ……!!」


その声は先ほどまでの間延びした声とは打って変わって、高圧的なものになった。しかし龍は、強張ってはいるが退かない。


「大丈夫だ瓦くん。鎖姫さんも落ち着いて」


驚きから帰ってきた海凪が2者間の仲裁に入った。


「対価って言っても別に締め殺されるわけじゃない。単にハグされるだけだ」


「………え?ハグ…?」

絞め殺すという言葉から大きな落差のあるハグという言葉に、龍は腑抜けな声を漏らした。


「そうだ。だから大丈夫だ瓦くん。庇ってくれてありがとな」


「ちょっと早くそこどきなさいよ」


「え、あ、はい……」


言われるがままに海凪から離れる龍。そして海凪の身体が顕になると、鎖がぐんぐん伸びていき海凪の胴体をぐるぐる巻きにした。


「はぁ〜ん。これよこれ。相変わらずいい身体してるわねぇ〜」


言葉だけ聞くととても卑猥に聞こえる。しかしそこにあるのは、校舎間の中庭で海凪が鎖でぐるぐる巻きになっている絵面だ。


そのあまりに異様な光景に龍と女子生徒は言葉を失った。


そんな2人の様子を見て海凪が現状の説明をする。


「さっきも言ったが、この鎖は昔俺が解決した都市伝説、“鬼殺しの鎖”そのものだ。この都市伝説も鎖に死者の魂が宿ったことでその現象を引き起こした」



「そして俺は一度解決した都市伝説の魂をもう一度呼び起こすことができるんだ。さらにその都市伝説の魂術を使ってもらうこともできる」



説明をして2人を落ち着けるつもりが、さらに理解不明の奥地に追いやってしまった。


今日1日でいくつも非現実的なことを経験した龍でさえも空いた口が塞がっていない。


「…とにかくこの話は3人の秘密ということで」


過去海凪が解決した都市伝説を呼び起こし、人知を超えた力を使えると知られれば、色々と大変なことになるのは目に見えている。


とは言っても海凪自身、是が非でも秘密にしたいという意思はないが。


しかしその意図はちゃんと伝えなかったので、2人は驚いたままただコクリと頷いた。


「…あの、瓦くん。深代くんって何者?」


縛られてる海凪を横目に見ながら、女子生徒が龍に耳打ちする。


その女子生徒の吐息を近くで感じ、龍の顔が真っ赤に爆発した。


「い、いや、深代は今日転校してきたばっかなんでまだよく分かんないっす…!」


「そうなんだ…」


「…ただ、都市伝説に詳しくて身体能力お化けで、そしてめっちゃいいやつでめっちゃかっこいいっす!」


「だね。でも瓦くんもとても勇敢でかっこよかったよ。改めて助けてくれてありがとね!」


ニコッと笑顔で言われ、さらに顔を赤くする龍。


それと同時に心が暖かくなるのを感じた。そして突然、海凪の元へ走り出す。


「深代!やっぱり都市伝説調査部に入ってくれ!」


全力で頭を下げ、頼み込む。


「…今回の件で都市伝説の調査は危険だと分かっただろ、瓦くん」


「それでもだ!……俺、人に感謝されることあんまねえんだけど、今日人に感謝されてめっちゃ嬉しかったんだ。…元々はさ、みんなに都市伝説の存在を認めて欲しくて色々調べてたんだけど、今はもうそんなことはどうでもいい。都市伝説によって危険に晒されている人を助けて、そして感謝されたい!」


龍は真剣な眼差しを、鎖でぐるぐる巻きにされている海凪に向ける。構図はふざけてるようにしか見えないが、2人の纏う空気はいたって真面目だ。


「ちなみに断られても俺一人で調査するつもりだ!」


何があっても都市伝説の調査を続けるという強い意志。それを見た深代の表情から力がふっと抜けた。


「…俺は今までたくさんの都市伝説を解決してきた。そしてその中で、表沙汰になっていないたくさんの被害者を見てきた。とても心は痛むけど、でもその都市伝説を恨むこともない。惹起魂(じゃっきこん)は往々にして悲しい雰囲気を纏ってるからな。だから俺は人も惹起魂も両方救って、そしていずれ都市伝説のない世界にする。それが、俺が都市伝説を調査する理由だ。ここに転校してきたのは、この街には都市伝説が多いという噂を聞いたからだ」


自身が都市伝説を調査してきた目的と転校してきた目的を明かす海凪。


「…となると情報収集、場所の許可どり、移動費の節約等で少しでも楽に動きたいよな。…何かいい案ないかな瓦さん」


海凪のおとぼけ顔に龍はパアッと表情を明るくさせ、すかさずそのノリに反応する。


「それでしたらお客様、都市伝説調査部なんてどうでしょう。現在部員は私1人ですが5人集まれば部活動として認められ、さまざまな恩恵が受けられますよ」


「都市伝説調査部か、いいなそれ。俺も入っていい?」


「はい!もちろん!」


縛られてる海凪の手を龍が両手で掴み、少し大袈裟に握手した。


「何その茶番……」


一人傍観していた女子生徒は苦笑いを浮かべていた。


「改めて深代、いや海凪よろしくな!」


「ああ、よろしく龍」


「あぁ〜ほんとこの身体、美味しいわぁ〜」


2人が交わした熱い友情の間で、海凪の身体を堪能する鎖が一つ。


「…なんか締まらねぇな」


「だな」


夜の学校の一角、2人の笑い声が小さくこだまする。


そんな2人の間にひらひらと何かが落ちてきた。龍がそれをキャッチする。


「これは…さっきの写真…」


「飛び降りた時にポケットから出たのか」


その写真をしばらく見つめた後、龍は空を物憂げに見上げた。


「…結局、未練がなんなのか分かんなかったなぁ…」


さっきまで隠れていた月が雲間から顔を覗かせる。月明かりに照らされた人体模型の顔は、どこか安心の色を宿しているように見えた。

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