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#18 第二の噂「異界へ続く滑り台」⑨ 〜修一〜

「どう?律くん。美味しい?」


「おう!超うめー!」


詩音と海凪(みなぎ)が手を組んだ頃、律は遊園地内のフードコートで夢幻(むげん)と一緒にご飯を食べていた。


「それはよかった。好きなだけ食べてね。ここ、無料だから」


「マジか!……でもなー、なんか物足りねーんだよなー」


味は美味しいが、何かが違うと律は言う。


「…細かいことは気にせずに、いっぱい食べなよ」


「…まあそうだな!せっかく夢幻が用意してくれたしな!」


再び律はまるで飲み物のように、ご飯をかき込み続ける。夢幻はそんな律を、微笑みを宿した顔で見ていた。


「うん。それでその代わりと言ってはなんだけど、ひとつお願い事があるんだ」


「良いぜ!なんでも言ってくれ!」


「ありがとう」


夢幻はニヤッと口角を上げた。





「あの子、夢幻がその惹起魂(じゃっきこん)ってやつでいいのね?」


「ああ。おそらく間違いないと思う」


海凪と行動を共にすると決めた詩音は、改めて現状の整理を行う。


「それで、彼の未練を解消するのが目的と。でも、どうやって彼の未練なんか特定するの?」


「この空間の中に、何か彼の生前を知ることができる要素があるはずだ。遊園地とあの公園も、その一要素だろう」


あの公園というのは、遊園地の中心に位置している公園。


遊園地という、ある意味非日常の空間の中に、どこにでもあるような公園が中央に静かに佇んでいる様子は、まさに異常である。


だが異常だからこそ、何か明確な意味があると海凪は考えていた。


「とにかく足で探すしかない。夢幻くんに見つからないように、隅々まで探索だ」


どこに手がかりがあるか分からない。アトラクションだらけの空間で、人(夢幻)の生に関する何かを見つけるのは無謀だがやるしかない。


そこから2人は探し回った。

落とし物を探すように細かいところまで注意深く、されど夢幻に会わぬように周囲にも注意を向け、探し続けた。



───



どれだけの時間が過ぎたかわからない。


詩音は道中、律に会えることを密かに期待していたがそれは叶わず、結局最後の探索地、ホテルに着いた。


「大丈夫?ホテルで少し休もうか?」


TPOが変われば意味合いが変わるような提案をする海凪。


「大丈夫よ…」


明らかに詩音の顔に疲労の色が見えるが、律と一緒に現実世界に帰るため、今足を止めるわけにはいかなかった。


「…ごめん橘さん。少し無理させすぎた。倒れてしまったら元も子もないから、元気な状態で帰るためにも一度休もう」


しかし海凪は休憩の提案を辞めない。むしろ強制的にも休ませようとしている。


「…大丈夫、本当に大丈夫だから」


それでも詩音は頑なに拒む。



──このホテルにも何もなければ現実世界に戻れないかもしれないという不吉な予感。


気が狂いそうなほど変わり映えのない赤黒い空。いやでも永遠に耳に響く陽気な音楽。


これまでの身体的疲労に加え、募り続ける不安。


実際、詩音の心身は限界に近かった。



だが詩音には、律と現実世界に帰りたいという思い以外に、もう一つ頑張れる理由があった。


それは海凪の顔。

希望を一切失っていないその顔、瞳は、詩音の不安を中和してくれる力があった。


「…分かった。休みたくなったら言ってくれ」


結局海凪が折れ、2人は遊園地と隣接しているそのホテルに入った。まずはロビーやレストラン等も含む、1階の部屋全てを探したが何もなく。


そのまま2階の探索を始める。


エレベーター近くの部屋から順に調べていき、詩音が2階最後の部屋を開く。


「…これは…!ねぇ、深代(ふかしろ)くん!こっちよ!」


部屋の中を見た途端、疲れ果てていた詩音の目が一気に覚醒した。


近くの部屋の中を隈なく探していた海凪を、焦りや動揺も混じった声で呼ぶ。


「何かあったのか?」


「うん…。この部屋、見て…」


すぐに駆けつけた海凪の視線の先。


そこには玄関はなく、おもちゃや衣類で散らかった床に、布団が敷いてある一室だけだった。どこからどう見ても子供部屋で、整頓され清潔に保たれているホテルの部屋とはまるで違った。


「ありがとう橘さん。間違いなくここに手がかりはある」


海凪は詩音にお礼を言い、律儀に靴を脱いでその部屋に入って行った。


その部屋だけくり抜かれたような異様な光景に詩音は混乱して足が止まったが、様々経験してきて麻痺したのかすぐにその混乱は収まり、靴を脱いで海凪の後を追った。


「本当にごく普通の家の一部屋だな。おそらくここが夢幻くんの部屋だろう」


人の家に不法侵入しているようで気分はあまり良くなかったが、2人は空き巣のように隅々まで探した。


詩音が机の引き出しを調べていると、一つの引き出しだけ鍵がついていることに気づく。


開かないだろうなと思いつつもその引き出しを引くと、鍵がかかってなかったのか抵抗なく開いた。


「これは…。深代くん、ちょっと来て。日記を見つけたわ」


「日記?それは参考になりそうだ」


中を見ると1冊の少しくたびれたノートを見つけ、詩音が海凪を呼ぶ。

2人は机の前に座り、それを読み始めた。


「2001年…。20年以上前のものなのね…。高原(たかはら)修一(しゅういち)、10歳だって」


「高原修一くん。それが惹起魂の名前か。夢幻っていうのはやはり偽名だな」


最初のページに書いてあった個人情報を確認した後、詩音は日記の朗読を始めた。


「1月1日。今年も外で遊んだらダメらしい。いつになったら動けるようになるんだろ。1月2日。今日も病院に行った。楽しそうにしている子どもを見るのはやっぱり辛い。僕も一緒に遊びたい。入院を提案されたけどどうしよう。1月3日。なんで僕の体はこんなに弱いの。生まれつき病弱なんて、神様は不公平だ」


その日記はほぼ毎日書かれており、どれもネガティブなものだ。


詩音は複雑な心情になりながらも、朗読を続ける。


「1月25日。結局入院した。お母さんとお父さんが入院しろって。僕は嫌だったのに。──3月17日。どうやら僕の命はもう長くはないらしい。僕の人生ってなんだったの?──4月7日。生きたい」


そこで日記は途切れていた。


少し重い空気がその場を占める。


修一の人生の全貌は分からないが、少なくとも大往生ではなかった事は伝わった。


「…遊びたい、か…。俺の方では“日本の遊園地図鑑”って本を見つけたから、その思いがこの世界を作ったんだろうな。公園に関してはよく分からなかったが」


海凪が1人推測している間、詩音は顔を顰めていた。


「橘さん?どうかした?」


「…いや。…ただ、あの子も色々あったんだなって」


海凪から見た詩音の流し目は、寂しさや慈愛を含んだ優しい色をしていた。


「…さて。修一くんの未練についてだが、橘さんはどう思った?」


「…そうね。素直に考えたら友達と外で遊ぶこと、なんじゃない?」


日記には定期的に、外で遊ぶ子供を羨むことや自分も一緒に遊びたいことが書かれていた。


「そうだよな。だとしたらもう達成している訳だから、成仏してもおかしくはないはず。…もしかしたら欲望が止まらないのか、あるいは特定の人物と遊びたいのか…」


修一は、少なくとも2週間以上子供たちと遊んでいる。友達と外で遊ぶことが未練ならば、既に果たしていてもおかしくはない。


そんな海凪の推測に対して、詩音は煮え切らない顔をしていた。


「なにか引っかかるとこあった?」


「…引っかかるって程でもないんだけど…。ただ私はそれに加えて、1月25日の“結局入院した。お母さんとお父さんが入院しろって。僕は嫌だったのに。”っていう言葉が、何かとても大切な気がする…」


日記の中で両親が登場したのは、その日だけだった。


だからか分からないが、詩音はその文に強く意識を惹かれた。


「なるほどな。…23年前ならまだ両親はご存命かもしれない…。龍に頼んでみるか」


「龍?なんであいつが?それにどうやって頼むの?」


2つの質問に、海凪は一つずつ答える。


「龍には今、響歌(きょうか)ちゃんと詠心(えいしん)くんのお世話を任せているんだ」


「……そう。…なんかちょっと帰りたくなくなってきたわ」


龍の、都市伝説は存在するという主張を否定してきたことへの謝罪に次いで、龍に言わなければならないことが増えた。


例えそれが嫌だとしても、帰りたくないなんてこと本来の詩音なら言わない。


久しぶりに屋内でくつろぐことができて、少し冗談を言う余裕が出たのだろう。


「ならここで暮らすか。ま、案外響歌ちゃんは龍と上手くやっていけそうだから、外のことは心配ないしな」


海凪も冗談だと分かって、それに乗っかった。


「ふざけないで。絶対に帰るわよ」


「え、あ、うん…。もちろん…」


しかし詩音の顔は般若そのもの。いつの間にかハシゴを外された海凪は、困惑しながらも首肯した。


詩音にどことなく虹花(にじか)に近いものを感じつつ、海凪は話を続けた。


「こほん。それで龍に頼む方法だな。それは、これを使う」


そう言って海凪は、自身のリュックから、50音が書かれた一枚の紙と10円玉を取り出した。


「…それって、こっくりさん、ってやつ?何か質問をしたら答えてくれるという」


流石にその組み合わせは詩音も見たことがあるようだ。

しかし、なぜ今それを出したのかは全く分からず、首を傾げた。


「そうだ。今からこっくりさんを呼び出す。そして彼女に、現実世界との橋渡しをしてもらう」


「…彼女?橋渡し?」


「ああ。俺は過去解決した都市伝説の魂を呼び出し、魂術を使ってもらうことができる。その魂術で龍に一方的だが、連絡を取れる。彼女って言ったのは、こっくりさんの魂が女性だからだ」


突拍子もない話に、詩音は頭を抱える。これ以上詩音の心労を増やさないであげてほしいところだ。


「………もう今は考えられないから、深代くんに従うわ」


詩音は諦めた。


「ありがとう。それじゃあ橘さんには、こっくりさんの呼び出しを手伝って欲しい。こっくりさんは2人以上じゃないと呼び出しに応じてくれないからな」


海凪が詩音に協力を申し出た一つの大きな理由はこれだ。

もしかしたら使うかもしれないと考えていたため、2人以上の行動が好ましかったのだ。


「じゃあ始めるぞ。詠唱は俺の後に続いてくれたらいいから」


「…分かったわ」


まず紙に書かれた“はい”と“いいえ”の間にある鳥居のイラストの上に10円玉をおく。

その後2人は人差し指をその10円玉の上に置き、こっくりさんを呼ぶ儀式を始める。


「「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください。もしおいでになられましたら“はい”へお進みください」」


2人がそう唱えた瞬間


「う、うそ…」


一人でにその10円玉が“はい”の文字へ動いた。


「深代くんが動かしてるだけ、深代くんが動かしてるだけ…」


詩音は呪詛のようにそう呟く。

現実だとは理解しているが、同時に脳がそれを拒否しているらしい。


「ごめん橘さん。目、瞑ってていいから」


「…いや、大丈夫よ」


詩音のプライドが、今目を逸らすことを拒否した。


いよいよ10円玉が“はい”の上に落ち着くと、海凪の正面の空間が歪み、何もないその空間に黒紫色のモヤがかかった。


そしてその中からしなやかな女性の手が現れた。


「………」


それを見た詩音は、目をかっぱらきながら静止した。


「久しぶり。ちょっと頼み事あるんだけど、この手紙を瓦龍の元へ届けてくれないか?」


海凪がお願いすると、その手は親指と人差し指でOKサインを作り、海凪が渡した手紙を受け取った。

(因みに、手紙というのは修一についてのことや自分たちの現状を知らせるものである)


こっくりさんの魂術。

それは、亜空間を使い、物を自由に移動できるというものである。因みに人は、海凪以外その亜空間には入れない。


モヤの中に手が戻っていった数秒後、その手が海凪の前に手ぶらで帰ってきた。


「ありがとう。今日の頼みはこれで終わりだから帰って良いよ」


海凪がそう言うと、右手が握手を求めるように手を差し出してきた。


「じゃあな。また会おう」


それに海凪が応えると、その手が人差し指と親指でハートマークを作り、今度はモヤと共にその存在を海凪の目の前から消した。


「……こっくりさんって、案外可愛いのね…」


復帰した詩音が開口一番、純粋な感想を述べた。


「とにかくこれで連絡完了だ。龍がご両親を見つけてくれたら、未練を果たすのに一役買ってくれるかもしれない」


遊園地の探索は終わった。

未練を果たすための保険もかけた。

残すべきは。


「どうやら修一くんは理性があるタイプのようだから、今から直接話をしに行く。橘さんはどうする?」


後は直接の対話で解決を図る。


「もちろん行くわ。もうなんか逆に元気出てきたし」


異常現象が重なり、詩音は一種のハイ状態になっていた。


「よし、それじゃあ行こう」

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