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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

相手が本当に求めていたもの

作者: 風祭 風利

本作品を見に来ていただきありがとうございます。


初めましてのかたは初めまして、他作品から来た人はこんにちは。


風祭 風利です。


「小説家になろう」20周年特別企画の短編小説を書かせていただきました


テーマは「勇気」。


ハイファンタジーにおける勇気とは基本的には立ち向かう事かと思いますが・・・


ここからは直接見に行ってください。 それではどうぞ

「今日こそは倒させてもらうからな! マンティコア!」


 ここはとあるダンジョンの隠し通路。 僕達のクランが最初に見つけ、そして僕達以外で隠し通路の解放方法を知らない。


 そして目の前にいるのは体がライオンで顔が人のようになっている魔物だ。 こいつはこの隠し通路の先に行かせないかの如く、門番のように立っていた。


 最初に見た時からこいつの存在は異質そのもので、僕達のような成り上がりに近い実力のパーティーではまず勝ち目はない。


 僕は後衛でみんなに戦いやすくするための魔法を付与したり、逆に相手に不利になるような魔法を付与したりする役目の職業である。 だけど僕にはもう1つ特技があって、それは相手の力量が分かることだ。 これはパーティーに組んだ時点でメンバーの誰にも教えていない。 教えていないというよりも、教えたところで信じてもらえないのが関の山だと思っているからだ。 だからこそ目の前のマンティコアとは戦っても勝てないと言うのは分かっている。


 しかしそう思っているのは僕達のパーティーでは僕だけのようで、他のみんなは爛々と目の前のマンティコアに立ち向かっていっている。


「おらぁ! まずはこいつを食らえ!」


 剣士であるリーダーがマンティコアの首めがけて大振りに大剣を振り下ろす。 マンティコアは避けようともせずにその一撃をモロに食らう。


「へっ! 前回の傷が癒えてないんじゃないのか? 前はこんな攻撃普通に避けてただろ?」


 それは違う。 相手は「この程度」の攻撃なら()()()()()()()()と既に分かっているのだ。 致命傷はおろかほとんど効くことの無い攻撃なら、その身に受けた方が反撃しやすいのだろう。


 そう思っていたら剣士を弾き飛ばして、爪攻撃をするためにバランスを崩した剣士に襲いかかろうとしていた。


「うおっと、こっちに来るか!」

「そうはさせないぞっと!」


 攻撃を仕掛けているマンティコアの柔らかそうな腹部に格闘家が拳を当てるために目一杯貯めている。 そしてその貯めた一撃をお見舞いした。


「っし、どうだ? 少しは効いたか?」


 マンティコアはお腹部分を仰け反らせているものの、あまりダメージになっていないように見える。 そもそもが火力不足のパーティーなのだから、ダメージが入らなくてもてんで不思議ではない。 先程の剣士よりは入ってはいるだろうが。


 そしてマンティコアが2人を退けたタイミングで自分の出番となる。


「「盾鎧(シールド・アーマー)」!」


 僕の役割は味方への補助魔法の分配が主で、今かけた「盾鎧(シールド・アーマー)」はただ見えない魔法の鎧を纏わせるだけでなく、使い方次第では相手に無理矢理ぶつけることも出来る魔法である。


 この魔法を剣士、格闘家と付与するのは当然なのだが、このパーティーにはもう一人いる。 それは


「「ハイドロポンプ」!」


 その魔法によってなにもないところから突如水の塊がマンティコアを襲う。


「さあ体勢は崩れたんじゃないの?」


 もう一人の魔法使いは女子ではあるが少々強気である。 マンティコアに魔法を当てたことで自分達が優位になったと思っているのだ。


 空中で色んな攻撃を食らったマンティコアであるが、空中で体勢を立て直して、再び自分達の前に臨戦態勢で立っている。


「ちっ。 そんなにうまくはいかないか。 だが前の時よりは俺達もあいつも休息期間は短かったんだ。 いい加減先に進ませてもらうぜ!」


 剣士がマンティコアに向かって言い放つ。 言葉が通じているのかは定かではないものの、威勢を放つのは魔物と立ち向かうには必要だろう。 そしてそんな勇敢さも時には必要なのは分かっている。


 でも自分は確実に勝てないと、実力差がありすぎることを垣間見れば、今のパーティーレベルでここに来るべきではないと薄々感じてはいた。


 そもそもこのダンジョンの隠し通路を見つけたのは本当に偶然で、通りかかっただけでは確実に見つけることは出来なかった。 そしてこのダンジョンは決して昔から出来ていたわけではない。 だからこそ誰もが通る通路以外の道を見つけるのは、やり方を知る人でしか見つけられない程だ。


 故に隠し通路の先がどんな風になっているのか誰も知らない。 知らないからこそ好奇心が沸き立ち、先へと進みたくなる。


「今回こそは倒しておきたいよね。 ここから先に進むことも大事だけど、生活も考えないといけないからな。」


 そう格闘家が言っている。 僕達のパーティーはこの隠し通路を見つけてマンティコアと対峙してから何度も何度も戦っている。 そしてその結末は大抵が僕達の満身創痍状態になったと分かると、マンティコアが奧に引っ込んでいき、僕達も帰らざるを得ない状態になること。 つまりマンティコアを倒せず、全滅もせず、互いに距離を置くことが僕達の何時ものパターンになっているのだ。


 そして次のマンティコア戦に向けて僕達は街で様々な依頼をこなしてお金を貯め直して、薬草などを購入し直して、再びマンティコアに挑んでの繰り返しで、どんどんその期間が伸びていっているのも事実である。


「でもさ、こいつを倒せばその先に誰も知らないなにかがあるんだよね? 私達が頑張ってるのってそう言うことだよね?」


 その答えは誰も知らないが、だからこそ追い求めるのかもしれないと僕は思っていた。


 確かにこのマンティコアを倒せば誰も知らない隠し通路の先に進むことができる。 だがその壁が大きすぎるし、なにより実力差が分かりきっている相手に無理矢理挑むのは、無謀とも言える。


 だからこそ僕はある1つの決断をする。 今までただ彼らのために動いてきたのだが彼らの「身の程知らずさ」にはほとほと興が冷めてくる。 しかもそれでもなお突撃を選択するのだから達が悪い。


「必ず倒してやる・・・! 補助魔法、もう一度かけろ!」

「・・・了解。」


 剣士に言われたので僕は攻撃補助と防御補助の両方の魔法を()()()()全員にかける。


「っしゃ! もう一度行くぞ! マンティコア!」


 そうして再び奮起する一同だったけれど、僕だけは別の魔法をかける。 それは速度上昇の魔法をひっそりとかけておく。


 そして頃合いを見計らいながら、戦っている3人の目を掻い潜るように少しずつ距離を開けていく。


 そして敵も味方も僕を見ていないことを確証をしてから、僕は


 戦線離脱をした。


「はっ・・・はっ・・・はっ・・・」


 入り口まではそこまで遠くはなく、今のスピードなら出ることは容易だろう。


 そしてこの選択に僕自身後悔はない。 今の今まで出来なかったことをしているからだ。


「別に彼らがマンティコアで死ぬ訳じゃない。 僕の魔法が無くたってギリギリ耐えることは出来るはずだし、互いに消耗するならばどちらかが引くだけだ。 なにも問題はないはずだ。」


 そうして入り口を開けようとした瞬間、僕の耳に決して聞きたくなかった音が聞こえてきた。


 地をおもいっきり蹴り、飛び上がった時に訪れる風切り音。 そしてなりよりライオン独特の咆哮が耳元に届いた。


 振り返りたくない。 振り返れば全てが水の泡になる。 扉を開けて出ればいい。 ここをやつは通れないのだから。


 その想いだけを胸に扉を開ける。 そして外に出る


 前に足が宙に浮く。 身体はがっしりと拘束されて動けなくなっている。 つまり僕は捕まったのだ。 この隠し通路を守る魔物に。 背中から。 振り向くなんてもうしなくても分かる程だ。 僕は生きたまま食われるのか。 それともこうして握り潰されて殺されてしまうのか。


 どのみち僕の命は長くはないだろう。 仲間を見捨てた罰というのなら、甘んじて受け入れる。


『・・・。 ・・でいい。』


 耳に誰かの声が響いた。 仲間の声か、別の誰かか。 それを知る術も余裕も今の僕には持ってない。 やられるなら一思いに


『汝の選択は正しい。』


 この脳内に直接送り込まれてる言葉を発しているのは・・・そう思い後ろを振り返ると、そこには獰猛な獣ではなく、どこか哀愁のある表情をしたマンティコアの姿があった。


『近年の冒険者は勇気と無謀をはき違える。 実力差などを度外視し、自分達が負けることなど考えない。 特に一度しかない命を軽んじる節も見える。 立ち向かう相手を間違えるというのは、このような迷宮や野生世界では逆に命を奪われる事を意味している。』


 こちらの気持ちなど気にせずにマンティコアは会話を続ける。 しかも口ぶりから察するにおそらく同じ事が何度もあったのだろう。


『だから我は隠し通路の中に潜み、恐れある存在のように振る舞おうとした。 だがお前達がこの通路を見つけ、我を見た時なにを思った? 圧倒的力量差がありながら立ち向かってきたではないか。』

「そ、それは・・・」

『言わんとしていることは分かっている。 立ち向かう勇気は必要だ。 だが逃げることを放棄して立ち向かうなど死と同義。 逃げる勇気も時には必要』


 その言葉が放たれた後に何か斬られた音と共に僕は地面に落とされた。 何事かと顔を上げれば、僕らとは違うパーティーの1人がマンティコアを斬ったらしい。


「大丈夫か?」


 斬った人物とは違う人が僕を心配して声をかけてきた。 身体を掴まれていたとは言え、そこまで力を入れていなかったのか、ダメージは落とされた時のみになっていたので、差し伸べられている手を取って、ゆっくりと立ち上がった。


 そして斬られたであろうマンティコアは傷口から霧散していったのだった。


「はは・・・僕達の苦労はなんだったのかって言うくらいに、あっさり倒してくれちゃった。」

「君、1人かい?」

「いえ、違いますけど・・・」


 本当は奥に仲間がいることを説明しようとした時に


「いつもみたいに奥に引っ込まないで入り口側に行きやがって!」

「でもそれだけ追い詰められたってことじゃない?」


 その仲間達がこっちに走ってくるのが分かった。 どうしようかと考えていると


「あ! こんなところにいた!」


 魔術師の女子が僕に気が付いたようで、すぐに声を上げる。 それに気が付いたかのように剣士も格闘家も僕のところに駆け寄ってくる。


「お前! 勝手に戦闘から消えやがって! もう一回魔法をかけて貰おうと思ったらいないしよ!」

「もしかしてマンティコアは彼を追いかけていったって事じゃないの? だとしたら罰が当たったんだろうね。」

「命懸けで生き延びようとした彼に対して随分な物言いだね。」


 助けてくれた剣士の人は、僕の仲間の剣士に向かってそう口を挟む。 その人物を確認した仲間の剣士は僕の胸元をおもいっきり掴んできた。


「おい! この通路は俺達だけしか知らない筈だろ! 扉を開ける時に周りを確認しなかったな!?」

「俺達はたまたま通りすがっただけだし、今のお前達だけであのマンティコアは倒せない。 分かった上で逃げたんだよ。 こいつは。」


 手を差し伸べてくれた人が僕に代わって弁護してくれる。 僕としても勝てる可能性があるのならそのまま逃げはしなかった。 だけど何度やっても同じ結末を見るくらいなら、逃げてでも結果を変えたかったのだ。 逃げることの勇気を、あのマンティコアは僕に教えてくれたのかもしれない。


「お二人でパーティーを?」

「そうだよ? そろそろ3人目を入れるか考えているところだけどね。 ここの通路については僕達はこれ以上はなにもしない。 入り口の開け方も聞かないし見ない。 その先に宝箱があろうが君達の取り分だ。 それならいいだろう?」


 僕に食って掛かっていた仲間はその言葉を聞いて、自分達だけの利益ならと考えたようで、僕の事を離してくれた。


「分かったよ。 だがお前は付いてくるな。 本来だったら死んでいたかも知れなかったのに助けられた奴にまで報酬を与える気はねえからな。 今日でお前とはパーティーじゃない。 それも頭に入れておけ。」


 そういって仲間達は奥へと向かっていった。


 その様子を見て、僕はどこか重たかった荷が降りたような感覚があった。


「本当に戻らなくて良かったのかい?」

「はい。 彼らは彼らで頑張っていけるでしょうし。 ただ心残りなのはソロになってしまったって事ですかね。」

「それなら俺達のパーティーに入らないか? さっきも言ったが、俺達にはもう一人欲しいんだよ。」


 そんな誘いを受けて、少しだけ悩みかねていたけれど、ここで逃げても意味がないと感じて、その誘いを承諾をしたのだった。


 この後の事を少しだけ話すなら、前のパーティーは隠し通路の先に言って、結局ただの行き止まりだったとの報告はあったものの、僕が抜けたことで資金面的には色々と余裕が出来たらしい。 実力はこれから伸びるだろうし、その方がお互いのためだったようだ。


 そんな僕も新しいパーティーで活躍している。 具体的には敵の強さを知ることが出来るため、どこまでの魔物なら多少強くても倒せるかを判断するのが仕事になった。 そのお陰か効率良くパーティーレベルは上がっていくのを、僕は少しだけ誇りに思えた。


 立ち向かう勇気も逃げる勇気も、違うようで似ているもの。 その選択だけで自分の未来が変わってくる。 間違えた選択をしないために、進む道ではなく、戻る道を考えることも決して悪いことではないと、今となっては迷宮考古学者になった僕は迷宮に入る度にあの日の事を思い返すのだった。

いかがだったでしょうか?


勇気の考えたが変わったのではないでしょうか?


今回の短編の他にも短編、長編、完結作品を展開しております。


興味が湧いてきてくれた読者様は是非見に来てください。

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