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しゅいいいいいいいいん。
視界を覆っていた光が晴れていく。
朦朧としていた意識も徐々に覚醒してきた。
気付けば俺は……森の中にいた。
「おお、本当に転生した。ていうかここが異世界なのか? まぁ別にいいけど」
いきなり森っていうのもなんだかなぁと思わなくもなかったが、いきなり街とかに転生しても周りをビックリさせるだけだからな。俺はこの世界でゆっくりと生きていきたいんだ。そういう意味ではナイスな転生の手口と言えなくもない。
「よっし、せっかくの異世界なんだ。このチャンスをモノにしてしっかり生きていくぞ! じゃあまずは街でも探そうかな。それこそこんな手ぶらなところを魔物やらに襲われたら溜まったもんじゃない」
「ギギ……」
あれ……今なんだか声が聞こえたような……気の所為か? いや、気の所為ならそれでいい! とりあえず茂みに避難だ!
俺は急いでその辺の手頃な茂みに身を潜めた。
森なので隠れ場所はそれなりにある。
待っていると……緑色の人間が通りかかった。
え、ちょっと待って何あの人、全身を緑色に塗りたくってるんだけど。半裸だしガチの変態なんじゃないか? いや、それにしてもちょっとおかしい……歯が犬のようにはみ出してるし、耳が人とは思えないほど大きい。ああ、気づいてますとも。あれ、下手しなくても魔物じゃね?
そいつは一匹のようだったが、周囲をキョロキョロと見渡していた。
くそ、馬鹿か俺! 周囲も警戒せずでかい声でひとりごと言うんじゃなかった! おかげで察知されちゃってるじゃないか。ああ、もうここは逃げよう。すーっと何事もなかったように去ろう。
ポキっっ。
後ろ足で下がろうと試みたが、地面に落ちていた枝を踏んづけてしまった。
ああ、マジで馬鹿だ俺……こんな古典的なやらかしを現実のものにしてしまうとは……
「ギギッ゛!」
これには流石に気づいたらしく、その魔物は俺の方を見てきた。
「ひ、ひいいいいいい!!」
俺は人目も憚らず惨めに後退りした。
まぁ人目といっても魔物目くらいしかないんだけど……ってそんな場合か!
もしかしたら茂みに隠れていたらワンチャンやり過ごせたかもなどという考えは、等に俺の頭からは抜け落ちていた。
何も考えられない。
もう怖い。とにかく怖い。
その魔物と目が合う。
全てが空回りし逃げようにも逃げれない俺を見て、ギギギと笑っているような気がした。
ああ、殺される。
異世界ってこんなに怖いところだったんだ。
マジで舐めてたわ、もう全力で謝りたい気分だ。謝ったら許してくれるかな。ああ無理だろうな、てことは俺はこれから凄い酷い目に合うってこと……?
「ギギギギギぃぃいいい!!」
魔物が甲高い奇声と共に俺に飛びかかってきた。
「いやだああああああああああああ! しにたくなあああああああああああい!!」
バジュジュジュウウウウン!!
魔物が俺に攻撃を仕掛けるや否や。
突如俺の背後が発光した気がした。
次の瞬間、背後から何本もの巨大ミサイルが出現し、勢いよく射出された。
光り輝くミサイルは、目の前の魔物をターゲットとしていたのか、全て吸い込まれるように命中した。
「ギギャガガガガガガガアアアア――!!」
魔物の断末魔とともに凄まじい大爆発が起こった。
周囲を覆っていた煙が晴れると、俺の足先をかするように大きなクレーターが出来ていた。
当然魔物の姿はなかった。
消し飛んだようだった。
「あ、えっと……」
俺は物凄く複雑な気分になった。
あえて言葉にするなら、大事な何かを根こそぎ奪われた気分だ。
「俺の能力、これかああああああーーー!!!」
叫んだ。
どうやらそういうことらしかった。
そっか、そうだよな。完全に忘れてたぜ。異世界は危険だからってお爺さんが一つ能力を授けてくれたんだ。まぁこんな能力だとは思ってなかったけど。
まぁ確かにピンチは救われたし役には経った。でもこれは流石に派手すぎだろ、目立って仕方ないわ!
「ま、まぁ良しとしよう。イレギュラーはつきものだろうしな。これが異世界転生なんだ」
気を取り直した俺は森の散策を開始した。
そして間もなくもしないうちに、簡素な造りの道のようなものを発見する。
流石はお爺さん。ちゃんと道の近くに送り出してくれたみたいだった。ナイスだ!
その道をルンルン気分でスキップしながら進む俺。
あー、さっきまでに比べて随分気持ち楽だ。もう何か俺の身に危害が加わることはないだろうからな。一瞬微妙かと思ったが、もしかして物凄く良い能力だったりするのか?
「うわあーーーーーーお!!」
突如としてでかい叫び声が聞こえた。
思わずビクンと飛び跳ねてしまう。
おいおい今度はなんだ? マジでビビったわ、いかに能力が凄くても俺がしょぼいままなのは代わりないらしい。
えっと、今のもひょっとして魔物の声? いや、俺の予想だけど多分人間の男の声に聞こえたぞ。しかも結構近くで。
どうする? もしかしたら何かピンチなのかもしれない。巻き込まれないうちに俺も逃げるか? いや、それではあまりに薄情だ。それに俺にはこの能力がある。どんなに最悪な方向に上ぶれたとしても死にはしないだろう。
「待ってろよおおおお! 俺様がとっちめてやるうううぅ!」
俺は声の聞こえた方向に駆け出した。




