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第六話 黒い羽

目が覚めると天井の照明が眩しかった。らいは静かに上半身を起こし、周りを見渡した。部屋は物が少なく整っていた。らいの座るソファーは少し硬かったが、らいは良く眠れていた。立ちあがろうとすると、足下に誰かがいた。シワシワの白衣を着た桑一が横になっていた。らいは知らない男がいて腰が抜けた。またらいはソファに座り込み、隅で体育座りをして震えていた。らいがそうしている間にゾーヤがリビングに入ってきた。らいの震える様子を見てはにやけた。

「何にびびってんだい?」

らいが桑一に向かって指をさした。

(そういえば、らいちゃんって桑一の事知らなかったか)

そう思いゾーヤは桑一を無理矢理起こして、立ち上がらせた。自己紹介をしろと桑一に言ったが、それでも桑一は黙り込んでいた。まだらいは縮こまっていた。異様な空気を断ち切る様にゾーヤは桑一の首のカードフォルダーを強引に引っ張り見せた。

「こいつの名前は大立おおだて 桑一そういち。同じこの家に住む家族だ。おい、桑一。手を出しな」

溜め息をして桑一は手を差し出した。びびりながららいは出ている手に軽く触れてすぐに引っ込めた。らいの歯はガタガタ震えていた。ゾーヤは桑一とらいの間に入るように席についた。そして、ゾーヤはらいの頭をなでながら言った。

「そういえば、くろばらいって漢字でなんて書くんだ?」

「黒い…羽…で…未来の…来」

らいは指を触りながら、もじもじしていた。

「黒羽 来。なんかかっこいい名前だなぁ」

来は少し顔を赤らめながら首を引っ込めた。すると、インターフォンが鳴った。ゾーヤは誰だと思いながら玄関まで向かった。待っている間、2人の間は時が止まったようだった。帰ってきたゾーヤの手には段ボールがあった。

「協会からの宅配だな。わざわざ大変だろうにっと、えーっと中身は…?血か〜。もう1ヶ月経ったのか。歳をとると時の流れって早いな」

段ボールには3つの血が入った袋が入っていた。袋にはしっかり飲み口がついていた。袋を取り出して、まじまじと眺めていると来が目を見開いて静止していた。ゾーヤが袋を持ってソファーへと歩き出すと、来はソファーから飛び降り、部屋の隅へ一目散に逃げだした。顔は見事に青ざめていた。この時のゾーヤには確信はなかったが、恐らく当初の予想よりも重い虐待を受けていたのだろうと思った。

「説明してなかったけど、来ちゃんは今日からヴァンパイアだから」

「………?」

突然のゾーヤの発言で驚き意味が分からず、来は首を傾けた。

「来ちゃんは昨日、血を飲む生き物ヴァンパイアになったんだよ。とは言っても、別に美味しくはないし、1ヶ月に1回ぐらいで良いけどな」

そう言ってゾーヤは1つの袋を桑一に投げ渡した。袋は見事に桑一の手に収まった。段ボールからさらにゾーヤは1つ袋を取り出した。袋についている飲み口のキャップと外して飲み出した。ゾーヤが血を飲み込むたびに袋は縮んだ。ゾーヤが飲み口から口を離すと少し飲み物が顔から垂れていたので、黒いハンカチを取り出して拭った。

「はぁ〜。まっず!血の味だけは慣れないな。血は毒じゃないから飲みな」

桑一は躊躇なく飲み始めた。その様子を見てゾーヤは来にも袋を渡し催促した。来は受け取ったがそのまま袋を眺めていた。桑一が飲み終えるまでそうであった。桑一が飲み終えてから言った。

「ねぇ、私って本当にヴァンパイアなの?」

「そうだよ。ここにいる3人とも力の強いヴァンパイアさ」

「って、ことはヴァンパイアってヒトより強いの?」

「そうだよ。ヴァンパイアはヒトなんて怖くないのさ」

そのゾーヤの答えを聞き、来はキャップを開けて血を飲み出した。一滴も残さないように一気に。まるでジュースを飲んでいる様であった。来が飲み干した。それを見てゾーヤは「今日はみんなで出かけるぞ」と言った。「どこに?」と来が聞くと、ヴァンパイア協会日本支部に行くと言った。来は納得のいかない様子だ。

「そうだな、私が準備している間に桑一、お前が来ちゃんに教えておいてくれ。わかったね」

そう言い放って、リビングを出ていった。桑一はヴァンパイア協会について話した。世界中に支部があり、裏で世界をまとめている。基本的に先進国に支部がある。珍しいが、出身と違うところで働く者がいる。技術力は斗出しているため、研究者に販売したりする。血を採血からとり、国家から秘密裏に手に入れている。そんな説明を桑一はした。来は吸収が速くすぐに理解した。

リビングにゾーヤが帰ってくると、きれいな白衣を着ていた。

「さあ、行くぞ。どっかの誰かさんみたいに窓からじゃねえよ…」

玄関に3人が着くと、靴が3つあった。ゾーヤと桑一は自分の靴をすんなり履いたが、来は戸惑っていた。

「これが来ちゃんの靴だよ。前、履いていた靴はすごく汚れていたから、新しい物を買っておいたよ」

ゾーヤは新品の靴を指差して言った。来は目を輝かしていた。

「あ、ありがとう!」

そう言って、元気よく来は靴を履いた。玄関を出てゾーヤは2人を両手で抱えた。来は困惑していた。

「ヴァンパイア協会は遠くてね。ヴァンパイアは飛べるから飛んで行った方が良いんだよ。暴れないでくれよ。まっ、落ちても怪我はしないけどね」

そう言って、ゾーヤは黒い羽を広げ暗闇に溶けこんだ。

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