表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

第三話 呼び出しの理由

高いビルがひとつ建っている。そのビルこそヴァンパイア協会日本支部である。日本支部長室はその86階にある。ゾーヤは10分ほど飛行したあと、協会の前で地に足をつけた。通勤ラッシュの時間は過ぎていたため、あまり混んでいなかった。

(一昨日、弟子作りしろって事で呼ばれた時には混んでたから助かったな)

白衣をはたき、羽をしまいながら、ビルに入ったゾーヤは入り口で黒いローブを羽織った背の低い老婆に話しかけられた。

「おー、久しぶり!って昨日ぶりか」

老婆は白い髪で目元が隠れており、顔はシワだらけであった。その顔は醜いとしか言い様がなかった。

「昨日はありがとうございました。菊子さん」

「構わないさ。あれがわしの仕事だからね…」

老婆の口がニカっと笑った。それは奇妙だったが、ゾーヤは顔を変えなかった。

「なら、協会に協力すればいいのに…」

「それは絶対にダメなんだよ」

白髪で隠れていた目が見えた。その目は吸いこまれてしまいそうで、吸いこまれたら何かを失うような恐怖があった。

「私には関係ないので、別にいいんですけど…」

「それならいいか。じゃあ、またなんかあったら、いつもと同じ場所にいるからね。よろしく」

そう言って、老婆はゆっくりと出ていった。

(あの婆さん、変だよな)

そう思いながらも、ゾーヤはガラガラのエレベーターに乗り、50階を押した。すると、36階で止まった。すると、はかまを着ているもじゃもじゃの頭の男が入ってきた。その男は頭を片手でかきながら、ボタンを押そうとした。

「もう、押してあったのか」

男は50階を押そうとしていたようだ。男とゾーヤだけになった。男はゾーヤの方を見ずに話しかけた。

「どうして、50階なんかに?」

「今日呼び出されたんです」

「今日…君ってゾーヤか?」

男は始めて振り返った。その男の顔はどこかで見覚えがあった。

「初めまして、わしがヴァンパイア協会日本支部長だ」

「初めまして、ゾーヤです」


『チーン』


エレベーターのドアが開いた。50階に着いたようだ。ゾーヤはとりあえず、エレベーターから降りることにした。支部長が話しかけた。

「いや、一昨日はごめんな。急遽仕事ができちゃってな、呼び出しておいて会えなくてすまん」

元気良く支部長は頭を下げた。

「大丈夫ですよ。無事、弟子を作れたので」

「それは、良かった。はっはっはっ…」

支部長は大笑いしていた。気づいたら、支部長室前にいた。

「それじゃあ、ようこそわしの部屋へ」

部屋は畳が敷かれており、真ん中には低い机がひとつあった。

「ほい、じゃあ、こっちにどうぞ」

入り口近くの座布団を指差した。そしてお互い、向き合って座った。ゾーヤは正座で、支部長はあぐらで。

「無事に弟子ができたんだな。良かった、良かった。選んだ弟子はどうだい」

「んー、気が難しい子で…」

「まぁ、なんとかなるさ。わしの人生みたいにね」

支部長は頭をかいた。

「なんか、過去にあったんですか?」

「今日は大事な事があるから、その話は後で。それで本題だ」

「一体、何の用で呼んだんですか?」

少し支部長が前のめりになった。

「もう1人弟子を作ってくれないか?」

ゾーヤは一瞬、黙った。

「えっ、もう1人?冗談だろ。いつも1人につき1人弟子でしょ。」

支部長は彼の右手の『裏の世界』の景色を見た。

「まぁ、そうなんだが。頼んでたやつが死んじまったんだよ」

空気が一気に重くなった。支部長は机を拳で叩いた。

「何で、あいつはバカな事をしたんだ…」

「それでも、その人の尻拭いを私がしなくてもいいのでは?」

「それもそうなんだが、新たに人を用意するのは大変だし…」

ゾーヤは静かに立ち上がった。スーッと、ドアまで歩いていった。ゾーヤがドアノブに手をかけた瞬間。

「秘密で有給休暇とってるらしいね」

ゾーヤは黙ってサーっと席に正座して座った。そして小声で、

「バレてたんですか…?」

「バレてなかったよ。はっはっはっ…」

「じゃあ、なんで分かったんだよ」

ゾーヤは真剣な顔をみせた。支部長はニヤつきながら説明した。

「昨日にあの菊子婆さんに相談したんだよ。そしたら、ゾーヤが良いんじゃないかって言われてね。教えて貰ったんだよ。君が制度の穴を利用してるって」

(あの婆さん、なんでも知ってるからって、喋りあがって)

内心、ゾーヤは舌打ちした。

「分かりました。もう1人、弟子を作ってきます」

さっきと同じ様に滑らかな動きで立ち、帰ろうとした。ドアノブに手をかけると支部長が言った。

「そうだ、給料だが、2人出しておくよ。心配しなくて良い。あと、できれば2人の弟子を見せに来てくれ」

ゾーヤは後ろを見ずに部屋を出て、勢いよくドアを閉めた。『バタン』静寂がこの部屋を包んだ。ゾーヤは一階に降りてビルを出た。

(また、菊子婆さんに会わないといけないのかよ。あの人絡み辛いんだよ。嫌だな…)

菊子婆さんの不満を呟きながら飛んでいたら、あっという間に家に着いていた。玄関から入ると、真里が雑な足音をたてながら迎えにきた。

「何で、玄関から入ってくるのよ?せっかく、窓の近くで待ってたのに…」

(そっちがおかしいんだろ…)

ゾーヤは部屋に入っていった。

「日本支部では何があったの?」

「2人目の弟子を作る様に言われた」

「それはすごいじゃない!なかなか、2人なんてないわよ」

(そんなに気が乗らないな…)

ゾーヤは苦笑いした。真里は気づいていたが、あえて気づいていないフリをした。

「そうそう、協会について教えておいたから。まだ昼夜逆点してないみたいね。もう寝ちゃったわ」

ヴァンパイアは『表の世界』へ夜に出ていく。そのため昼夜逆転するのだ。しかし、桑一はまたソファーで寝てしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ