第十四話 不死身
薄暗い路地裏の行き止まりに薄汚い老婆が机を広げて待っていた。
「なんのようかい?」
わかってるくせにいつも同じことを聞く。
「今、桑一はどこだ」
「誰だい、そいつは?」
老婆の口角が上がっている。少しばかり焦っていたゾーヤはその口を切り裂きたいほどに腹が立った。
「わかってるんだろ!」
ゾーヤはさらに詰め寄った。老婆は少しばかり反って少し黙ったかと思ったら、笑い、わかったよと言った。
「4と9だよ」
「は?」
「ワープキーだよ」
(このくそババア、桑一に教えたのか)
ゾーヤは今にも、この老婆を殴りたかったが、それどころではない。すぐに背を向けて黒く艶やかな羽を広げた。
「いってらっしゃい」
そう、老婆が言うや否や、ゾーヤは飛び立った。
ゾーヤが裂け目を通ると目の前には桑一と出会った病院が鎮座していた。辺りの暗さに気付く前にゾーヤは桑一の匂いの方向に向けて走り始めた。そのまま、匂いを追うと森の中に入っていった。しばらくすると、匂いが濃くなってきた。ただ、濃くなるにつれて、彼女は気がついた。
(なんか、人間の匂いがするな…)
ゾーヤは鼻をきかせると、その人間の匂いが桑一の匂いと同じ方向からするのに気がついた。いやな考えが浮かぶのを無視しようとした。そして、ゾーヤは暗闇の中の人影を見つけた。匂いからして、桑一がいるのは確かだ。ただ、その人影は1人ではない。
(おいおい、まじかよ…)
その人影は1人がもう1人の首を腕で縛り付け、いつでも殺せるような体勢になっていた。
「桑一、何やってんだ」
反応したのは、縛っている方だった。最悪だ。
「見たら、分かるんだろ」
(分かる。分かる。おそらく、そうだろう)
身動きが取れない方の影は人間のようだが、震えてはいない。
「人間を殺そうとしてるのは分かるが、だからどうした」
桑一は笑った。まるで、勝ちを確信したギャンブラーのように。
「知っているんだ。あんたはずっと、ヴァンパイアは死ねないと言っていた。ただ、それは嘘だ。あの老婆が教えてくれたんだ。長かった…やっとしねる」
そう吐き捨てると桑一は人影の首を折ってしまった。
途端に人影は力を失い、崩れた。
もうそこには桑一の姿はなかった。灰となったのだ。