第十三話 思い出と失踪
半年後、順調に2人の教育は進み、時々、ゾーヤは真里をコキ使いながら生活していた。
「こうやって、一緒に食事するのは何年ぶりかしら」
ゾーヤと真里の2人はこじんまりとした喫茶店に来ていた。
「そうだな100年ぶりぐらいじゃね」
「そしたら私生まれてないんだけど…」
「冗談に決まってるんだろ!」
真里は大笑いした。
「わかってるもん。でも、絶妙にゾーヤがボケるから」
「でも、別に私たちって食事しなくても良いじゃん」
「だからこそ、じゃない!娯楽なのごらく!」
そう言って、真里は届いたケーキを受け取って食べる。
「でも、排泄が多くなるじゃんか」
ゾーヤもケーキを一口食べる。
「あのね、今、食事中でしょ!そう言うのは控えて」
「はいはい、で2人についてどう思う?」
「桑一君はまだ、心を閉ざしてるけど、来ちゃんは結構、素直になったんじゃない?」
「確かにな」
そう言うとゾーヤはもう一口ケーキを食べた。
「あえて聞かなかったけど、あの私と桑一君が家から追い出された時!」
「あれか、実はな…」
ゾーヤは来が欲望状態になったこと、その欲望が両親を殺すことで現実世界に行ったこと、そこで嘘の入った昔話をしたことを話した。
「へー、そんな事が…その子の親はよっぽど酷かったのね」
そう言ってケーキを食べ終わった真里は紅茶を一口飲んだ。
「でも、そのあんたの昔話って、嘘なんでしょ?本当の昔話はどんななの?」
真里は目を輝かせていた。
「面白くねえよ」
「えー、いいじゃない教えてよ」
ゾーヤは真里はしつこいのを分かっていた。
「じゃあ、お前も教えろよ!」
「あったり前じゃない」
ため息をついてゾーヤは話した。
「あの話だと両親が最悪だって言ってるけど、別にそんなことはない。良い両親だった。スターリンには逆らえないから泣く泣く私を手放したってわけ。てか、私もヴァンパイアも両親は殺してないよ。スターリンも別に研究内容の強制はしなかったし、私が好きな研究をやってたわけだし、なんなら死にかけたのは研究中、助手が間違えたのが原因なんだよ。なんとか意識があった私はヴァンパイアに誘われて、まだ実験がしたいっていう理由でヴァンパイアになったんだよ…」
「なんか、あんたらしいね〜」
笑顔で真里は目を逸らす。
「おい、お前も教えろよ!」
ゾーヤは念を押した。
「分かってる、でも私のは大したことないわよ。その日は研究に熱中してて、夜中まで研究所に籠ってたの。で、帰らないと両親に怒られるからキリをつけて帰ったの。家と研究所の道って街灯が少ししかなくて暗かったの。で、歩いてたら背後から刺された。それだけ。相手の顔は見えたけど、知らない人だったから、おそらく、通り魔じゃない?それで、私に目をつけてたらしいヴァンパイアが現れて、研究をしたいってヴァンパイアになったの」
「お前も、研究したいだけかよ」
「私たち、似た者同士みたいね〜」
「あぁ、聞いた意味なかったわ。ほい、食べ終わったからもう行くぞ」
それで2人はそれぞれの家に帰った。
「ただいま〜」
(家の雰囲気が違う。いや、匂いが足りない。)
リビングに入ると来がソファで寝ていた。他の部屋を見ても、桑一の姿は見えなかった。そこで、ゾーヤは来をゆすって起こした。
「んー。おかえり!」
「寝起きの所、悪いんだが桑一を知らないか。」
「いないの?さっきまで、いたんだけど…」
(まずいな、逃げ出したか…)
そのとき、ゾーヤの脳裏にはある人物の顔が浮かんだ。
(もしかしたら違うかもだが、探すためには行かないとな…)
「すまんな、来。ちょっと、探しにいってくるから大人しく待っててくれ」
「わかった」
来が素直になっている様子を見てゾーヤは感慨深いものを感じた。ただ、そんなにのんびりしている余裕はないので、ゾーヤは急いで出て行った。あの老婆の所に。