第十二話 見せかけの復讐
目を閉ざしていた彼女が起きるともう朝が来ていました。しかし、部屋は暗く、ノイズが部屋に渦巻いていました。ゾーヤは寝る前から変わらない両親の上に立ち目の前の鏡を見ました。彼女は驚きました。もちろん、まだ、真っ赤なままでした。しかし、そんなことはどうでも良かったのです。自分の後ろに人影がいたことに彼女の目がいっていたからです。彼女はどうすれば良いのかわかりませんでした。立ちすくんで、どんな罰でも受けようと覚悟していました。
「楽しかったか」
その影の一言は彼女に刺さりました。
「ううん、全然」
彼女は答えました。
「だろうな。復讐ってもんは残酷でな。やったところで、何の意味も持たないんだよな。もう少し早ければ、こんなことにならなかったかもしれないな」
影の言う通り、確かに彼女の心は虚無感に包まれていたのです。それでも、影からする男の声に対して憤りを感じ始めていました。そして、彼女は呟きました。
「私は悪くないから」
それをきいて影は答えます。
「感情的に見たらそうなんだけどな。事実を並べたらそうじゃない。理由なんて聞いてくれる人はいないからな。おそらく捕まるだろうな」
あまりにも、さっぱりした答えに彼女は混乱し始めました。
「じゃあ、どうすればいいの。てか、影さんは何をさせたいの」
そう言って、彼女が振り返ると影に見えていた男が白衣を着ていたことに気がつきました。
「かなり直接的に聞くんだね。それなら、率直に言おう。ヴァンパイアにならないか?」
この男は何を言ってるのだろうかと彼女は思っていました。しかし、興味が湧いてきていました。
「ヴァンパイアって、昼に弱い、血を飲んでる架空の生き物でしょう」
ひょろりとしてる男は軽く笑いました。
「そうでもないんだな。実はな、ヴァンパイアは日光やニンニクや十字架が致命傷になるっていう迷信があるが、あんなのは丸っきりデタラメだ」
(なんで私に声をかけたのだろう…)
「んで、君に声をかけたのは君の能力が目的なんだ。そう、その天才的な脳だ。今まではスターリンが守っていたから流石に手を出さなかったが、ここまで君が家を荒らしてくれれば君がいなくなってもおかしくない。本当はもっと慎重にやるつもりだったんだがね」
「私がもし行かないと答えたら、私は捕まるんだね」
彼女は物分かりが良かったのです。
「そうだな。ヴァンパイアになれば、逃げられる。1年くらいは常識を学んでもらうけど、そしたら好きな研究ができる。良い条件だろう」
彼女はただただ、心にある虚しさをほどきたかったのです。そのため、ためらわず彼女はヴァンパイアになりました。そして、今に続くのでした。おしまい。」
空は少しずつ明るくなっていた。来の赤黒い羽も昔話の間で少しずつ小さくなっていた。ゾーヤが来の顔をみると涙がつたっていた。
(感動してるとは思わなかったな。ただ、これでおとなしく帰ってもらえそうだ)
「そんなわけで、恨みって言うのは晴らしても心は晴れないんだ。私は来の気持ちがわかってるつもりだから、私を頼って良いぞ。だから、親を殺そうとするのはやめてくれ。これは来の事を思って言ってるんだ」
来はうなずいた。来はあまりにも正直なのだ。
(なんだ、あんな拙い話でも、子供って感動するんだなぁ。両親もスターリンもごめんな。勝手に悪人にしちまって。てか、とっくに死んじまってるから別にこの謝罪も意味ないか…)
そう思いながら2人は境目に消えた。