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第十話 昔話の始まり

ワープキーの先は来と出会った河原だった。地面は絵の具が散らばったように赤になっている。血の匂いが漂うなかゾーヤは黒い羽を広げて一直線に飛んだ。ヒトよりも優れている嗅覚を持つヴァンパイアにとっては匂いの源を探すのは容易であった。段々と濃くなる匂いを追っていると赤い物体が浮遊しながら暴れていた。おそらく来であろう。ゾーヤは針のように飛び赤い羽を掴んでそのまま木々の生い茂る山の麓に引きずり落とした。ゾーヤは狂ったように暴れる赤い者を押さえつけた。赤い者はゾーヤの腕に噛みついたただひたすらに。しかし、ゾーヤは痛みを感じてもなお変わらず押さえつけた。段々と赤い者の動きが鈍くなってきた。


 「来、どうしたんだ。なにかあったのか。教えてくれ」

ゾーヤはなだめるように言った。しかし、来は荒い息を吐くのみだった。

「元の両親を殺す気か?」

「…」

歯を噛み締めるだけで、反応しない。

「殺す気だな。答えな」

「…」

顔を近づけ圧をかける。

「答えな」

「…」

もう、ゾーヤと来の顔は接しそうである。

「答えろ」

誰もいない山の中をゾーヤの声か駆け巡った。それでも山はずっしりと構えるだけである。来も山と同じ様であった。


 何を思ったのか、ゾーヤは来の上半身を起き上がらせて、抱きついた。何も言わず抱きついた。そこで生まれた温もりは氷を溶かす様だった。しばらくの間、黙って抱きついていたゾーヤは来の耳に語りかけた。

「なんでも良いから教えてくれ。私たちはもう家族なんだ。まぁ、血は繋がってないけどさ、来を家族だと思ってることには変わりないんだ。来に辛いことがあるなら教えてくれ」

「苦しかったの」

とうとう、口を開いた。そして、ゆっくりと話が進んだ。長い長い、まとまらない話を聞く所によると、来は両親からの虐待を受けていたようだ。しかし、想像を超えていたのは給食以外の食事はまともに貰えずじまい。まともな服も与えられないから学校では馬鹿にされて、誰も友達がいなかった。地域の人々は誰も手を差し伸べなかったようだ。地域の人が気付けないのは一歩譲ってわかるが、学校の先生までそうだとなると裏がある風に思える。ただ、一般、ヴァンパイアが弟子作り以外で人間と関わるのはタブー中のタブーなので、どうしようもない。

(どうしようか、いや、どうしようもないんだよな。とにかく、どうやって復讐心を無くして帰って貰うかだ)

しばらく、抱きついたまま考えていたゾーヤであったが、ふと名案が浮かんだ。

(これだったらいけるかもな)

そして、抱きついていた身体を戻し、話かけた。

「お話してくれてありがとうな。よく分かったよ、来がどうして殺したいのか。なんたって、自分も似たような経験をしてるからな。しょうもない昔話だけど、きいてくれ」

来は驚きながらも、ゾーヤの同じような経験が気になり聞く事にした。

「よし、始めるか。昔話みたいに話すけど許してくれ。ちょっと恥ずかしいからな。じゃあ、始めるぞ」

本当に読み聞かせるように話し始めた。

「昔、昔。とある世界大戦のちょっと前のとある国にゾーヤという女の子が生まれました。その国というのはあのスターリンという身勝手であり、何かに苦しみ続ける男の支配する国でした…

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