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第一話 出会い

ここはとある雪の積もりつつある、病院の屋上である。いくら夜が更けているとはいえ、病院なのにやけに暗い。それもそのはずだ。ここは廃病院である。そんな屋上に細い男が1人で立っていた。髪はくせっぽく、黒い眼鏡をかけている。

男は腰ぐらいの高さの柵を乗り越えて、あと5歩程で落ちてしまう場所で立った。山の奥にあるこの病院からは雲のせいで眺めの良い景色は何も見えない。

(ようやく、死ねるな)

男は降る雪をぼーっと見つめていた。突然、男はまるでピクニックに行くかのように歩き始めた。空中に足をつけようとした時、男の腕を誰かが掴んで引っ張った。痩せている見た目通り貧弱な彼は柵まで一気に飛ばされてしまった。

(なんだ、今のは)

男は自分を投げた人影をにらんだ。すると人影は

「死なせないよ」

と、さらに近づいてしゃがんだ。その人影は女だと分かった。金髪の髪を後ろで束ねており、20歳ぐらいに見えた。女は男の両肩に手を添えて

「君にはヴァンパイアになってもらう。問答無用だよ。痛いかもだけど、我慢してね」

と言った。そのまま女は男に抱きついた。男の首に噛みつきながら。

(なんだ、この女は…それより首が段々と熱くなってきたな。それに噛まれているからか少し痛い)

その熱は次第に体中に広がった。男は何回も女を振り解こうとしたが、成す術がなかった。体が軽く雪で白くなった頃、抱きついていた手が緩んだと思ったら、女が顔を離した。女は鋭い歯を出してニヤリとした。体中の力が抜けたが、その笑顔は男をイラつかせた。

(何をされたか良く分からないが、今すぐにでも死んでやる)

男は力を振り絞り、女の横を走った。なにか、声が聞こえたと思ったが、そのまま空中へ走り抜けた。男は勝ったと思った。知らない女との勝負に。雪と一緒に落ちていく。雲見つめるように体の向きを変えた。

(邪魔は入ったけど、これで死ねる…)

『ゴツん』鈍い音がした。男は仰向けになって、目を瞑っている。雪が男にかかる前に男は目を開けた。そして横になったまま、頭をさすった。

(痛い、…でも、意識がはっきりしている。屋上から落ちたのにこんなもんか)

男はさすった手を見て驚愕した。その手には全く血が付いていなかったのだ。

(そんな事があるのか?屋上から落ちて、わざわざ、頭から落ちるように空中で体制を変えたのにもかかわらず、血のひとつもないなんてありえないだろう)

別に男に思い当たらない節が無いわけではない。その節はなんだと、今、男に問いたら、金髪の女だと答えるだろう。すると案の定、女が現れた。女は着ている白い白衣とは対照的な真っ黒な羽を広げて、空から現れた。それは、男にとって天使の悪魔だった。女は地に足をつけ、男を見下ろした。

「作戦成功…もう君は死ねないから覚悟しろ」

と言って彼女は鋭い歯を見せてニヤリとした。

「さて、じゃあ私の家に連れて行くとしようかね」

そう女は呟いて、男の腕を掴みおんぶした。女は腕が細く、その光景は異様だった。女は一歩踏み出した。すると、周りの景色がガラリと変わり、さっきまで雪景色だったのが、どこかの玄関に変化していた。そんな非現実的な状況に男は戸惑っていた。そのまま女は歩き出し、廊下を通りリビングまで進んだ。女は男をソファーに下ろした。

「よろしくね。私の名前はゾーヤ。見たら分かるけど、出身は日本じゃないよ。えーっと、君の名前は…」

ゾーヤは男の胸ポケットに入っているものに気がついた。胸ポケットから強引に取り出すとカードホルダーだった。そこには、『大立 桑一』と書いてあった。

「おおだちそういちって言うんだ…」

「おおだてです」

小さい声で桑一は呟いたが、その声があまりにも小さかったためかゾーヤはなんと言っているのかわからなかった。

「なんて?」

「『おおだて』です。間違えないで下さい。」

尻すぼみで言ったが、『おおだて』は聞こえていた。

「おおだてそういちって言うんだ…桑一よろしくな。」

ゾーヤはそのまま手を差し出した。しかし、桑一はその手を見て、さらに下を向いた。

(こんなやつとは仲良くやってられる訳ない)

ゾーヤは桑一の行動の理由が良く分からなかったようだ。手を引いた。すると『ドンドン』リビングの窓を叩く音がした。

「なんでみんなは玄関があるのに窓から入ろうとするんだよ」

そうブツブツ言いながらゾーヤは窓を開けた。するとゾーヤと同じような白衣を着た長い黒髪の女が入ってきた。その黒髪は艶やかで、後ろで縛られていた。

「ふー、良かった無事着いた。ありがとうね、開けてくれて良かった。て言うか、研究所を辞めるって本当なの?噂で聞いたんだけど、流石に無いわよね…だってゾーヤって365日70年も休まずに研究してたじゃない。私の先生と言っても過言ではないのになんで?」

すると、ゾーヤはニヤリとした。

「なんだ。そんな事で来たのかい。あのね、私は研究所を辞めるって一言も言ってないよ。勝手に周りが噂しただけ。ただ、今まで溜め込んでた有給休暇を使って1年間休むって事にしただけだよ。あとたまには遊びに行くからさ」

「あっ、そうなの?辞めないのね。それなら良かった。親友の私にも言わないから…心配したのよ」

黒髪の女は胸を撫で下ろした。桑一にようやく気づいたのか、桑一を指差した。

「あの子って誰かしら?遠い親戚か何か?」

「あいつは大立桑一って言うんだってよ。今日作った、新しい弟子だよ。」

桑一は目を見開いた。弟子になったつもりはないのに勝手に弟子にされていて驚いていた。同じように、女も目を見開いていた。

「まさか、ゾーヤ、弟子作りしたの!だから1年も休むってしたのね。納得だわ」

真里は首を傾げた。

「けど、弟子作りって協会から言われてやるでしょ。それに弟子を育てる1年間は生活が保障されるはずよね?」

桑一に聞こえない様に真里の耳に口を近付けて言った。

「有給休暇って形にしておけば、ダブルで収入が入るな…って思ったんだよ。制度の穴だから、黙っててくんない?」

「そういうこと!いいわ。みなかった事にしとくわ。この子に挨拶しなきゃね」

そして、彼女は桑一の座っていたソファーまで歩き、首にぶら下がっていたカードフォルダーを見せて言った。

「おはよう!私はこう言うものです。ゾーヤと同じ、研究所で働いてます。ゾーヤは時々、ニヤってやるけど、これは彼女が面白がってる証拠だから、覚えておくといいよ。ゾーヤの事なら大抵知ってるよ。親友だもの」

フォルダーの紙には古寺こでら 真里まりと書いてあった。真里は手を出さず、後ろを振り向いた。

「それじゃあ、私は帰ろうかな。遅刻すると上司に怒られちゃうから。また遊びに来るね。そっちもたまには来てね」

真里は2人に軽く手を振り、窓を開けて飛んで行った。

「なんで、窓から出て行くんだよ。もう…今日は疲れてるだろう。実際私もヴァンパイアになった時はすごい疲労感だったからな。じゃあ、おやすみ」

そう言って、ゾーヤはリビングの電気を消して部屋から出ていった。もちろんドアからである。

(ヴァンパイアってなんかめんどくさい事になったな…)

疲れきった体は言う事を聞かず、そのまま桑一は眠りについてしまった。

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