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第9話 これからへの期待

 色々と後で振り返らなければならない問題が浮上したが、それは後回し。

 現在、シャルハートはミラと共に試験場へと向かっていた。

 ミラが言うには、そこでクレゼリア学園の入学試験を行うとのこと。シャルハートは急いでいた。

 門前での一悶着がなければ、恐らく入学試験さえ受けられなかったとはいえ、こうしてミラがいるのだから一刻も早く、試験場へたどり着き安心したい。

 その一心で学園内を歩いていると、何やら看板を持った男性の前に人だかりが出来ていた。

 “入学試験”、看板には確かにそう書いてあった。


「もう少しでクレゼリア学園入学試験を始めまーす! 試験を受ける人はこの看板の下に集まってくださーい!」


「ミラ、あれがそうなの?」


「多分そうだね。うわぁ……すごくいる。こ、こんな数の人達とこれから入学試験を……? あっ」


 途端、ミラの表情が強張る。

 何事かと視線の先を見ると、そこにはライル達もいた。

 そうでなくてはあの門前でのやりとりはなんだったのかとなるだけに、これは予想できていた。

 早速、シャルハートは“挨拶”をしに行くことにした。


「あら、先程の皆さん。ちゃんと入学試験を受けに来ていて、安心しました」


「げっ……さっきの」


 またぎゃんぎゃん反撃でもしてくるのかと思えば、少しだけバツが悪そうだった。

 魔法使う前に、軽くデコピンしてやっただけなのに、この警戒のされようは傷ついてしまう。


「さっきはどうも。また、ミラにちょっかいかけるようであれば相応の覚悟は必要ですからね」


「も、もうちょっかいかけねーよ。あんな奴」


「それは良かった。……ところで何でそんなにテンション低いんですか?」


「は? お前、あの二人に気づいてないのか?」


「あの二人?」


 シャルハートは本気で意味がわからず、首をかしげる。

 それが冗談で言っているわけではないと理解したライルは、含み笑いをすると、こう言い捨てた。


「はは、そうかよ。じゃあ教えねえわ。確かにお前はそこそこやるかもしれねぇけどよ。精々あの二人を見て、その自信ぶち砕かれるんだな」


 深く聞いてみようとしたら、看板を持った男性が大きな声で叫んだ。


「それではこれからクレゼリア学園の入学試験を始めまーす! 皆、私についてきてくださいー!」


 そう言うと、男性が歩き出した。

 皆それについていくのを見て、シャルハートも後を追う。

 隣を歩いていたミラがシャルハートの耳元に顔を寄せる。


「あの、さっきの人達に何もされなかった……?」


「うん、特に何も。ただ、“あの二人を見て、自信砕けろ”とは言われたけどね」


「あの二人……ああ、あの二人だね」


「ミラも知ってるの?」


「……え? 逆にシャルハートさん知らないの?」


 もちろん、と胸を張ると、ミラは苦笑した。

 彼女の笑みは別に嘲笑とかそういった類ではない。むしろそれとは全くの真逆。


「……シャルハートさんってやっぱり器大きいよね」


「そう? ミラにそう言ってもらえると自信になるな! ありがとう!」


 この時、シャルハートはもっとこの二人について聞いておけば良かったのだ。

 そうしたら、あらかじめシャルハートはどういった行動をしようか決められたのだから。

 準備なくして戦争には勝てない。

 それは、日常生活でも言えることであり、これからもザーラレイドだということを隠していくことにも繋がっていくのだから。


「はい、それでは皆さん集まりましたね」


 辿り着いたのは中庭であった。

 数十人が広々と使えるくらいには広大な場所。ここなら思う存分に身体を動かすことが出来るだろう。

 中庭の中心で二人立っていた。男性と女性である。

 一人は眼鏡を掛けた黒髪の男性。もう一人はクールな雰囲気を漂わせる赤紫色の長い髪を持つ女性。

 看板を持った男性はそのまま二人の元まで歩くと、一礼をする。


「入学試験を受ける子たちを連れてきましたよ。ザード先生、ルクレツィア先生」


「はいよー」


「“はいよー”じゃありませんザード先生。私たちは試験官なのですよ。これから試験を行う者たちに示しがつきません」


 ザードと呼ばれた男がルクレツィアの言葉を払うように、手をぶんぶんと振った。

 それにムッとするルクレツィアであったが、試験を受ける子どもたちが見ていることを思い出し、咳払いを一つ。


「今日は皆さん、良く集まってくれました。これからクレゼリア学園の入学試験を始めたいと思います。今日の試験を監督する者の紹介をします。まず私は、ルクレツィア・ノーティラスです。この学園では武器を用いた戦闘を指導しています。よろしくお願いします。そして――」


 ちらりと、ルクレツィアがザードを見ると、彼も心得ているようで、一度だけ頷いた。


「ザード・ビティルだ。魔法を用いた戦闘教えてまーす。ちなみにそこのおっぱい大きいルクレツィアちゃんとは同期で――――『一回限りの盾(ワンタイム・シールド)』」


 ザードの左側面に魔力で構成された小さな盾が出現したのと同時、ルクレツィアが腰の剣を抜いていた。

 盾が間に合っていなければ笑えない傷を負っていたことは間違いない。


「えと……シャルハートさん、何でしょうねこれ」


「うん、なんだろうね。……けど、あの二人」


「どうしたの?」


「ううん。ただ、強いなって」


 『一回限りの盾(ワンタイム・シールド)』とは文字通り一回しか攻撃が防げないが、その防御力は異常に高く、タイミング次第では超高火力の魔法を凌ぐことさえ可能な防御魔法。


 それをあんな速度で、ましてやあれほどピンポイントで展開することが出来るとは。

 攻撃をしたルクレツィアの抜剣速度も凄まじい。並の動体視力ならば捉えることすら不可能だろう。

 この学園のレベル、というものが少しだけ理解できた。

 強い存在は好きだ。

 ザーラレイド時代の癒しは、強者との戦闘のみだった。何せ弱い存在は殺さないようにするのが大変なのだから。


(悪くなさそうだ、クレゼリア学園)


 シャルハートは本格的に始まろうとしている学園生活に対するイメージを益々強めていく。

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