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第21話 ドキドキのおもてなし

 玄関を抜け、とうとうやってきたグリルラーズ邸。

 自宅だというのに、妙な緊張がシャルハートを襲う。

 そのまま適当に私室へ案内すればいいだけなのだが、何故か頭が真っ白になる。


(あれー!? 何か上手くミラと話せないのだが!?)


 会話が弾むと思っていた。そりゃあもうポンポンと。

 だがしかし、互いが無言のため、妙な気まずさだけが流れていた。

 一筋だけ、シャルハートの頬を冷や汗が流れる。


(わー! シャルハートさんのお家おっきー!)


 対するミラ。

 特に緊張した様子もなく、ただ友達の家の大きさに感動しているだけであった。

 ただ、これで騒いだら少し子供っぽいなという判断で、極力喋らないようにしているだけである。


「ミラ、もうちょっとで私の部屋に着くからね」


「そうなんだ! シャルハートさんのお部屋楽しみ~!」


 ミラの笑顔を見る限り、緊張していないことは何とか理解できたシャルハート。

 しかし、その後の会話が広がらない。

 何かを喋ろうとすればするほど、思考の渦に巻き込まれていく。

 心のなかで助け舟を呼んでみると、すぐにそれが現れた。


「あ、お嬢様。お帰りなさいませ。ってうわ!? なんで抱きつくんですか!?」


「ロロ、何も言わずとも来てくれた忠臣の中の忠臣よ……」


「何かお嬢様口調変ですよ? って、おっとご友人の前でしたね。失礼しました」


 そうして居住まいを正し、ロロは礼儀に則り、挨拶をした。


「私はロロと申します。シャルハート様の従者でございます。ミラさん、ですよね? お嬢様からお話は聞いておりました。今後ともよろしくお願いいたします」


「ひゃ、ひゃい! ミラです! よろしくお願いします! ロロさん!」


 流石はロロだと、シャルハートは素直な賛辞を送る。

 そして、ここからはロロを交え、楽しいお茶会にしよう。

 そう思っていると、ロロは急に二人から距離を離した。


「って、あれ? ロロ? どこに行こうとしているの?」


「申し訳ございませんお嬢様。本日、大事なお客様がお見えになっているので、少々そちらの方の応援にいかなくてはなりません。ですが、もうお茶の準備はしていますのでご安心を。あ、それとあとで焼きたてのパンケーキを持っていきますので、楽しみにしていてくださいね!」


 「誰だ、そんな空気の読めないやつは!」と叫び出したかったが、それでもロロにもロロの事情がある。

 それを邪魔するほど無粋な人間ではないつもりので、シャルハートは泣く泣く引き下がる。

 去りゆくロロを見送ったシャルハートはミラからこんな言葉を聞いた。


「ロロさん、すごいですね。私たちと同じ……いや、ちょっと上なのかな? それでもあんなにテキパキとお仕事しているなんて……」


「そうでしょ? ウチのロロは最高の従者なんだよ!」


 気づけば、シャルハートの中の緊張は解けていた。

 その勢いのまま、早速私室へとミラを連行し、おもてなしをすることに。

 シャルハートの部屋を感想を一言で言うならば、“シンプルだけど小洒落ている”である。

 白い壁の“映え”を邪魔しないよう、厳選された家具や寝具が綺麗に配置されており、埃は愚か、チリ一つ無いくらいに清掃が行き届いている。

 真ん中には今日のために用意された白いテーブルと椅子が用意され、真ん中にはキレイな装飾が施されたワゴンの上にはティータイムを始めるためのセットが乗せられていた。

 シャルハートは迷うことなくワゴンへ近づき、カップやポットに手をかける。

 流石にそこまで来たら、ミラはこれからシャルハートが何をしようとしているのかを察した。


「え!? シャルハートさんが準備をするんですか!?」


「そうだけど、あれ? もしかして紅茶苦手だったりする? それなら珈琲に変えるけど」


「こういうのってメイドさんみたいな人がやるのかと思ってたからびっくりしちゃった……」


「今回はミラだからね。だから私“が”もてなしたいの」


 ザーラレイド時代は常に一人だったため、全てのことは自分でやらなければならなかった。

 そして一人の寂しさを紛らせるため、ザーラレイドは目につくことは何でも挑戦してみた。

 この紅茶もその一つ。

 シンプルな工程ながら、美味しく淹れるには奥が深い。

 娯楽に飢えていたザーラレイドにとって、それはまさに、天からの贈り物に等しい。

 そんな悲しい背景があった彼女の手際は、プロ顔負けである。

 実際、グリルラーズ家でもシャルハートの腕に追いつこうとメイド達が奮闘しているぐらいだ。


「さ、どうぞ」


 あっという間にティーカップには紅茶が淹れられていた。

 見ただけで分かる明らかに高そうなカップを恐る恐る手にとったミラ。そして、たどたどしい手付きでカップを持ち、そのまま口をつけてみた。


「美味しい……」


「ほ、ほんと?」


「うん! すっごく美味しいよシャルハートさん!」


「やった!!!」


 嬉しくなるとつい右腕を突き上げてしまうシャルハート。

 今日はいい日だな、と思いながら、彼女はロロの言葉を思い出していた。


(そういえば大事なお客様って言ってたな。誰だろ? と言っても、まあグリルラーズ家の“お仕事”関係なら私は関係ないか)


 その時、シャルハートはもう少し深く思考を巡らせておくべきだった。

 もし、そう出来ていたのなら、彼女はもう少し上手く、後に起こる出来事について対応できていたのだろうから。

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