第176話 カラルパル島
カラルパル島。
中心部には森、外縁部は陸、そして海で囲まれている島だ。気候が安定しており、周囲の海には食べられる魚が沢山泳いでいる。森には危険な魔物等はおらず、木の実や植物が豊富だった。
王都クララベルトから少し距離がある港町から船に乗り、揺られること数時間。
シャルハートたちは、島研修の舞台となる島へたどり着いた。
「おお……」
船から降りたシャルハートは辺りを見回した。島研修でなければ、ゆったりと過ごせる実に快適そうな場所だという感想を抱いた。
次々にクラスメートたちが船から降りてくる。
その中には、別クラスであるアリスとエルレイの姿があった。
「やほーシャルハート! ボク、楽しみすぎて昨日から寝られなかったよ!」
島の大きさの関係から、日程を分けて、島研修が行われている。
その第一号がシャルハートのクラスとアリスのクラスであった。
既にみんなはその事を知っていたが、シャルハートは船の中でアリスたちと出くわした時に初めて知った。
“確か先生、説明していたはずだけど、もしかしてシャルちゃんまた話を聞いていなかったの……?”とミラに凄まれてしまったシャルハート。ミラに怒られるというのは、正直切腹ものであるが、彼女は何とか生きる気力を保ち続けた。
「……エルレイはいつまでも子どもね」
「そういうアリスだって寝てないんじゃないの? なんか目元暗いけど」
「寝てます。ちゃんと、そう、何度か目覚めてしまっただけで、しっかりと寝られました」
嘘だな、とシャルハートは苦笑した。しっかり眠れた顔にはとてもじゃないが、見えなかった
そうしている内に、ミラを始めとするいつものメンバーが勢揃いした。
「……そこそこ暑い」
「サレーナさん、汗すごいね。ハンカチ使う?」
「ありがとうミラ」
そう言いながら、サレーナはミラからハンカチを受け取り、汗を拭う。そのままサレーナは後で洗って返すべく、自分のポケットにハンカチを入れた。
「おーほっほっほっ! 海! 砂浜! 森! 空! 太陽! 全てが私を祝福していますわ~!」
アリスたちの“自称ライバル”であるロールフルスが遠くから騒いでいた。その直後、取り巻きたちからの賛美の声があがる。
シャルハートとアリスはアイコンタクトを交わし、さりげなくロールフルスたちから距離を取ることにした。
「それじゃあ皆さん集合~!」
「速やかに集まってください」
教師プリシラとルクレツィアが生徒たちを呼ぶ。暑いというのに、二人ともしっかりとスーツを着込んでいた。そのプロ根性には頭が下がる。
(ん?)
シャルハートはプリシラに違和感を感じた。主に胸元というか、白シャツの面積全てに対して。
違和感について考えていたら、生徒たちがいつの間にか集まっていた。良い子ちゃんばかりだな、とシャルハートは前世を思い出す。
――“不道魔王”を殺すのは俺だぁ! いいえ、この私よ! いや、この僕だ!
そんな、やる気に満ちた声が良くザーラレイドの耳に届いていた。
ザーラレイドを討伐するために集められた討伐隊は皆、血気盛んであり、隊長の号令に従わず、目をギラつかせ、突撃していた。
粉砕する度、ザーラレイドはこう思っていた。
(士気が過剰に高くなった場合、暴走するのがヒト。そう思っていたんだけどな)
シャルハートはしみじみと、集団行動が出来る生徒たちを眺めていた。
……もちろん、彼女は命をかけた殺し合いと学業に対する意識がまるで違うことを理解していなかった。
「普通、隊長が話をする前に、武器持って走り出すもんじゃないのかな……?」
「誰もがそんなバイオレンスな意識じゃないよ、シャルちゃん……」
隣で話を聞いていたミラは至極冷静に返した。前世で一体どんな目に遭っていたのだろう――ミラは喉元まで疑問が浮かび上がったが、何とか飲み込んだ。明るい話でないことだけは、間違いなかった。
「あ」
シャルハートは教師プリシラと目が合った。すると、プリシラは悪い笑みを浮かべる。
「あらあら〜? 話を聞いていない悪ガキがいますねぇ?」
「話? 生憎ですが、私は勤勉なので、話を聞かないという選択肢はありませんよ」
「そうなんですか? それなら、シャルハートさんは島研修の最後に行われるクラス対抗戦に参加する、ということでいいんですね?」
「も、もちろん」
「……シャルハート、引っかかった」
サレーナがぼそりと言葉を発した瞬間、シャルハートはミスを自覚する。
「クラス対抗戦なんてないですよ〜だ! ぷぷぷ! シャルハートさん引っかかった〜! 話聞いてないですね〜?」
「プリシラ先生には敵わないなぁ……ははは」
シャルハートは己の声が怒りで震えないよう、喉を締めながら、何とか言い切ることができた。これがプリシラではなく、学園長ルルアンリだったのならば、即開戦。
だいぶ大人になったな、とシャルハートは己をそう評価する。
その仕返しとばかりに、シャルハートはとうとう見つけられた、プリシラの違和感の正体を指摘してやることにした。
「それにしもプリシラ先生、やる気十分ですよねー。スーツの下は水着ですか、それ?」
「ふっふっふ。バレては仕方ありませんね……!」
そう言いながら、プリシラはスーツのジャケットを脱ぎ捨て、白シャツを全開にした!
歓喜する男子! そんな野郎どもに白けた視線を向ける女子! ルクレツィアは完全に呆れていた。
「しょーじき! 超! 楽しみでした今日!」
プリシラの水着姿に、男子はおろか、女子ですら息を呑んだ。
シンプルなビキニタイプの水着、そこまではいい。驚愕すべきはそのはち切れんばかりの“暴力”! ひと目見ても大きいサイズの水着だと分かるのに、紐全体が僅かに唸りをあげているように窺えた。
――爆乳先生。
以前から何となく察していたことが、本日確定した瞬間である。男子は涙を流し、女子は拝んでいた。ある意味、宗教へ昇華したと言ってもいい。
教祖プリシラは状況をよく分かっていないまま、無自覚に胸を寄せた。




