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第15話 曲がり角の先は、大問題への扉でした

 シャルハートは私室で呆然としていた。

 誓って試験に落ちたとか、そういう話ではない。


 先に結論を述べておくと、シャルハートとミラは合格していた。


 これで晴れてクレゼリア学園の生徒となる。

 それは良い、そこは良い。だが、最大の問題が残ってしまった。


「お嬢様~シャルハートお嬢様~」


「ミラ、離れる、可能性、ある、世界、滅す」


「えい」


 まるで頭に羽毛でも舞い降りるかのごとく優しき手刀。

 他でもない従者であるロロが行ったソレにより、シャルハートは一時的とは言え、我を取り戻した。


「はっ!? ……私、いつから考えごとをしていたんだろう」


「昨日の午後からですね。ずっとミラ様の名前と、離れると、世界滅すと何かに取り憑かれたように呟いておられましたよ」


 そう喋りながら、ロロは昨日の事を思い出していた。

 まず思い出されるのは、いつも毅然と、そして前を向いている主がまるで死人のような面持ちで帰ってきた事。

 それが何を意味するかというと、まずはガレハドが“もしも”の事態が頭を過ぎってしまったのか、失神してしまった。

 そして次に起こるのはグリルラーズの家中が騒ぎとなり、収集がつかなくなってしまう。

 極めつけの最後、メラリーカが屋敷全体に“喝”を入れ、さながら数百万の軍勢を従える名将の如き、采配で屋敷を立て直したこと。

 本当に、嵐のような出来事であった。

 出来れば二度と経験したくないような、そんな騒動だったのだ。


「そっか……でも、ここまでやっておいて、ミラと同じクラスになれない可能性が出てきたんだよ? そりゃないでしょう!」


「お気持ちお察します、お嬢様。もちろんミラ様と同じクラスになれない可能性はあるかもしれません。ですが、例え違うクラスになったとしたらお嬢様はその瞬間にお友達を止めますか?」


「止めないよ! たかがクラスが変わったくらいで! ……あ」


 その答えを聞けた従者ロロ、満面の笑みで頷く。


「そうです。クラスがどうとかは関係ございません。大事なのは、お嬢様とミラ様が一緒にいるその瞬間なのですから」


「ロロ……」


 こうして思い詰めているときには必ず一言物申してくれる。

 だから、シャルハートはロロに全幅の信頼を寄せていた。


 もしも、この忠実で良く考えてくれる人物が側近だったのなら、ザーラレイドはどうなっていたのか。


 気づけばシャルハートはロロに抱きついていた。


「ロロは最高だよ。……ロロと二十年前に出会っていたら絶対右腕にしていた」


「? 二十年前? 何のことですか?」


「……ううん、何でも無いよ。これからもよろしくってことだよロロ」


 何気ないシャルハートの一言が、ロロにとっては何よりの褒美で。

 富は要らない、名誉も要らない。

 この可愛らしい主のために、身命を賭すことが出来る。それだけでロロは報われるのだ。


「こちらこそ、身に余る光栄です。シャルハート様」


 言葉を交わし、ようやく心に平静を取り戻すことが出来たシャルハート。

 そうなれば、やることは決まっていた。

 シャルハートはロロを連れ、屋敷を歩き始める。

 ガレハドに対し、改めてちゃんと試験に受かったことの報告をするためである。

 そして、メラリーカにも騒がせてしまったことを謝る。

 そうしなければ、シャルハートは次へと進めないと判断したためだ。

 気づけば早歩きになっていた主の背中へ、ロロは声をかけた。


「お嬢様ーあんまり急いでいると曲がり角で誰かとぶつかりますよー」


「大丈夫大丈夫。私、こう見えても気配読みとる力すごいし」


「余り自分の能力を過信しすぎては駄目ですよ。いざとなれば、痛い目見ちゃいますよー」


「過信でもしなきゃ二十年前は一人でやっていけなかったんだからへーきへーき!」


「まーたそんな訳の分からない事言ってー。というか、本当に気をつけてくださいね、今日は大事なお客様が来ているのですから」


 早く会うことに集中しすぎて、後半のロロの声が耳に入らなかったシャルハートは歩いた状態を保ちながら、顔だけ後方に向けた。


「え? 何か言ったロロ?」


「だから今日は大事なお客様が……って!! お嬢様!! 前!!」


 ロロの声と顔に意識の配分を多く取っていたため、シャルハートは前方の曲がり角から出てくる影に全く気づかなかった。

 それはそのまま衝突という事故を引き起こす。

 ぶつかったシャルハート、倒れない。何せこの程度の衝撃で尻もちをつくほどヤワな経験はしてきていない。

 代わりに、バランスを崩した相手方の手を掴み、まるで割れ物でも扱うかのような柔らかな所作でそっと引き寄せた。


「ごめんなさい、大丈夫だった……って」


「うん、大丈夫。ごめんね、気づかなかったんだ」



 シャルハートの眼前にいたのは、自分と同い年くらいの金髪の美少年であった。



 シャルハートとしては、使用人の一人にぶつかってしまった。その程度の考えだった。

 だが、いつも感じている気配とは違うし、何より掴んだ手の感覚が彼女の脳内データベースに全く該当しなかった。

 自分より少しだけ背が高く、美しい金髪はアリスとはまた一味違う鮮やかさがある。

 芸術品のようなその完璧な造形に、シャルハート思わず感心する。ここまでの器量を持つ子供がいるとは、と。


「しゃ、しゃしゃしゃシャルハート様、そそそそそその御方は……!!」


 鼻先が触れ合うような距離で、まじまじと見ていると、後方のロロが顔を真っ青にさせていた。

 何事かと思っていると、金髪美少年の後方で控えていた執事の装いをした初老の男性が“世界の終わり”とでも言いたげに顔を青ざめさせ、近寄ってきた。



「お、お怪我はございませんか!? ――リィファス王子殿下!!」



 ――あれ、これ下手すればグリルラーズ家お取り潰しコースありえるのでは?

 シャルハートは、すぐさまザーラレイド時代に培った百を超える“話し合い”の手段を頭の中でリスト化していた。

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