第14話 どんな攻撃魔法よりも効いた
「シャルハートさ~ん!」
「ミラ! 会いたかったよぉー!」
ぎゅっと抱き合う二人。なんとも仲睦まじい光景である。
抱擁もそこそこに、ミラとシャルハートはお互いの成果について報告し合う。
「わ、私……魔法を、ましてや攻撃魔法なんてあまり使うことがなかったから、不安だなぁ……」
「大丈夫だよミラ。綺麗な『氷塊』だったからさ」
これはシャルハートのお世辞ではない。
魔法の綺麗さとは、その魔法を発動するための魔力の込め方や比率だったりと様々な要素が絡み合うことを指すシャルハート独自の基準。
こと魔法を極めているだけに、魔法を視る眼には絶対の自信を持つシャルハートからの好評価は、見方を変えればこの学園を卒業するよりも難しいことなのかもしれない。
その意味に気づいていないミラは褒められて嬉しいので、にへ~と顔をほころばせるだけであった。
「ありがとうシャルハートさん。……あれ? でも、私の方見てなかったのに、よく分かったね」
「見なくてもね、一度感じた相手の魔力ならある程度の距離なら、魔力の動きで大体のことが分かるんだよ」
「あ、なるほど! だからシャルハートさんは見なくても私の魔法が分かったんだ! シャルハートさんはすごいね!」
この何の裏表もないミラの賛辞は、述べている張本人が思っている以上に、シャルハートには染み渡っていた。
ザーラレイド時代はただの索敵代わりにしか使えなかったこの魔力感知能力が、シャルハート時代でようやく花開いたと言ったところだ。
評価されるまでに掛かった時間、ザーラレイド全盛期時代と死後二十年の合計年月。
ちょっぴりだけ涙目になったのは内緒である。
「友よ……」
「って!? シャルハートさん!? また抱きしめるの!? なんかさっきより力強いよ!? シャルハートさん!? ねえー!」
二人が盛り上がっている最中、歩いてくる影が二人あった。
近づいてくる気配に、すぐに気づいたシャルハート。感じた方向へ顔を向けると、少しばかり驚きで目を開けてしまった。
「シャルハートさん、先ほどぶりね」
「おーっすシャルハート! ボクだよ! エルレイだよ!」
強く印象づいてしまった金髪と黒髪。そう、勇者の娘達である。
すぐにその存在に気づいたのか、ミラは落ち着かないのかソワソワとしだす。
気でも遣ったのか、彼女が距離を取ろうとしたので、シャルハートはその腕をがっちりと掴んだ。
「しゃ、シャルハートさん!?」
「あら、貴方は?」
「私のお友達のミラだよ」
「わ、わわわ私みたいな平民生まれがこの場に居たら申し訳無いので離れますね……!」
すると、アリスは片手でそれを制した。
「いえ、貴方はここに居てくれても良いですよ。あのシャルハートさんが側に置いている方ですもの、それを無下には出来ません」
別に悪意はないのだろうが、シャルハートは今の一言が少し、引っかかった。
「アリスさん、私は別に置いていません。ただ、一緒に居たいから居てもらっているだけですよ? そこは、間違えないでくれれば嬉しいです」
「そうなのですか? ミラさんも秘めた力を持っているから、一緒にいる訳ではないんですか?」
「私は力で人を選んだりはしません。何より、力だけ見ていたらいつか死ぬような目に遭っちゃうかもですよ?」
世界を相手にする際、狼煙とばかりに不正を働く魔界と人間界の役人が集まる会合の城へ魔法を放ってやった時のことを思い出す。
力を見せるためとはいえ、それで事情を知らぬ全世界がザーラレイドへ警戒の眼差しを向け、やがて討伐という流れになったのだから。
その前世を知らぬアリスは、シャルハートの言葉に妙な説得力を感じてしまった。
だが、それですぐに謝罪の言葉を口にできるほど、アリスの有り様は安くなかった。
「そう、ですか。貴方とは価値観が少し違いそうですね」
「ミラって言うんだね! ボクはエルレイだよ! ボクとも友達になってよ!」
「ふぇえ!? わ、私がエルレイさんとですか!?」
「うん! 駄目かな?」
「いえいえ!! 全然! そんな事ありません! よろしくお願いします!」
そんなやり取りを見ていたシャルハートは思わず気絶しそうになっていた。
「…………私は直ぐに仲良くなれなかったのに、こんなに一瞬で」
一瞬でミラと仲良くなってしまったエルレイの手際に、シャルハートは感服と完敗を味わっていた。
力ではこの世に並ぶものはないという自負があるが、こういった友達作りになってしまえば、自分は余りにも未熟。
よちよち歩きの赤ちゃんなのだな、と改めて平和になった世界の“味”を堪能するシャルハートであった。
アリスはくるりと踵を返し、来た方向とは逆方向へ歩き始めた。
「用事を思い出したので、これにて失礼します。貴方達がいる学園生活、楽しみにしています。ほら、エルレイ行きますよ」
「ええ!? まだお話したいんだけど!?」
「行 き ま す よ」
「分かったよぅ。じゃあねシャルハート、ミラ、一緒のクラスになれると良いね!」
去っていく二人の背中を見ながら、シャルハートは去り際のエルレイの一言に妙な引っかかりを感じていた。
「ねえミラ? 一緒のクラスになれるとってどういう事なのかな? だって皆一緒のクラスになるんでしょ? ミラとも一緒なんだよね?」
「えっと、確か試験の成績によって組分けされるらしいから、その……絶対一緒、という訳では?」
「えええええええ!?」
一瞬、意識を手放しそうになったシャルハート。
この事実は、今まで喰らったどんな高等な攻撃魔法のダメージよりも深く、彼女の心を傷つけた。