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第11話 二十年越しに見たもの

「これから貴方達の魔法の腕前を確認します」


 シャルハート達の目の前には木人が何体も立っていた。

 練習用なのだろうか、見るからに頑丈そうである。

 みんなが位置についたところで、ルクレツィアが木人を指差した。


「何でも構いません、順番にあの木人へ攻撃魔法を放ってください。自分が得意な魔法なら何を使っても良いですよ」


 そうして始まった試験。

 順番に受験生が思い思いの魔法を放っていく。

 炎の魔法、氷の魔法、風の魔法、ただの魔力弾を放つ者もいる。

 のんびりとした気持ちで見守っていたシャルハートは、この時代の子どもたちの魔法レベルに対し、素直な驚きを見せていた。


(へー。二十年前はもっと攻撃魔法使える人達が少なかったのにな。これも戦いの歴史から得た物……ってやつかな)


 ザーラレイド対人間界と魔界の連合軍の戦いは想像以上に色んな発想や物を生み出していた。


 その内の一つが攻撃魔法であろう。


 巨悪を滅ぼすべく日夜研鑽が積み重ねられた攻撃魔法は、日に日に威力が増して来ていることは確かであった。

 昔ならばもう少し年齢を積み重ねた青年がようやく使えたというのに、今の子どもたちはこの年齢でもうこれだけの魔法が使える。

 素晴らしいことなのか、悔しがることなのか。その答えは、未だに分からない。


「じゃあ次、エルレイ・ドーンガルドさん」


「はいはーい! ボクだね!」


 その名前が呼ばれた瞬間、他の受験生の視線はエルレイに注がれる。

 あの魔界の勇者であるディノラスの娘だというのだから、それは無理のないことである。

 シャルハートは彼女の両腰の剣に視線がいった。


(ディノラスは二刀流の魔剣士だったな。ということはエルレイもそういう戦い方なのかな?)


 魔界の勇者ディノラスの戦法は、素早い動きで翻弄し、魔法を乗せた二本の剣で敵を叩く。というものであった。

 単純にして強力。

 そんな彼の娘がどんな風にやるのか、シャルハートは興味が湧いていた。


「伸びろ『魔力剣身(マナ・ブレード)』!」


 エルレイの両手から、純粋な魔力で構成された光が伸びる。

 これは自分の魔力を伸ばし、剣とする『魔力剣身(マナ・ブレード)』。

 難易度としては簡単な部類に入る。しかし、それだけにその強度や切れ味は術者の技量に依存する。

 そんな『魔力剣身(マナ・ブレード)』をしっかりと握り、エルレイは遠くの木人へ狙いをつける。

 何も分かっておらぬ受験生騒ぐ。そこから振って何になるのかと。だが、なるのだ。

 声を振り払うが如く、エルレイはその両の魔力剣を数度振るった。腕のしなりに合わせ、魔力剣から光が飛び散った。

 驚きはここからである。

 なんと、それはそのまま飛ぶ斬撃となり、木人へ襲いかかったのである。

 風を斬る音はたったの一度。

 しかし、木人はバラバラになっていた。もっと言うならば、ほぼ木片。

 同じタイミングでここまで粉微塵になるとは誰もが思わず、受験生たちからは驚きの声が上がっていた。

 そんなエルレイをどこか誇らしげに見るのは、やはりというべきかアリスであった。


「流石ですねエルレイ。ただ、もっとスマートに斬れなかったのかしら? ――このように!」


 振り向きざま、アリスも『魔力剣身(マナ・ブレード)』を発動していた。

 エルレイの物よりは少し長く、そして細い。

 まるで指揮者のような流麗な動作で、それを振るうと、小さく、そして無数の斬撃が放たれるのが視えた。

 斬撃が通過すると、木人は小さなサイコロ状にカットされ、その場で散っていく。

 数えるのも億劫になるほどの量になった、元木人のサイコロ。

 破壊力を見せつけるエルレイ、精密さを見せつけるアリス。

 その両名に、受験生たちの歓声が大きくなる。


「これくらいでなければ、ね?」


「これでもだいぶ集中してやった方だよー! もー! バカにしないでよー! ボク怒るよー!」


「あら、決着をつけたいならそうしてくれても良いわよ。貴方が私に勝てるなら、ですが?」


「ほっほー? 言ったな、アリスー?」


 バチバチと迸る火花。

 これはもしかしなくても、である。


「あー……この二人“も”か」


 シャルハートは思い出していた。

 どちらが強いのか、というテーマでアルザとディノラスは常に(しのぎ)を削っていた。

 目的はあくまでザーラレイドを倒すため、両界の最高峰である互いの切磋琢磨。

 しかし、お互いそれなりにプライドがあったため、事あるごとに競い合っていたのだ。

 ザーラレイド時代のことである。

 二人が手を組み始めた時、どちらが先にザーラレイドを倒せるか、という勝負をしていたこともある。

 

 もちろん、結果はザーラレイドの完全勝利であったが。


 もし、これどちらも父親譲りだとするならば、誰かが止めないといけない。

 先生たちは強いが、まだ力の全てを見ていないため、任せきれない。

 周りの受験生なんて論外である。

 他はどうなってもいいが、他ならぬミラにもしも怪我でもあろうものなら、その予感はそのままシャルハートを動かすには十分すぎた。

 気づけば、アリスとエルレイの言い争いはヒートアップしていた。


「分かりました! それじゃあ今ここで! 決着をつけましょう!」


「いいよー! ボクも決着をつけたかったしねー!」


 闘気が可視化されるぐらい膨れ上がる両者。

 その間に誰もが入れないと――入れるわけがないと思っていた。

 シャルハートはとことこと歩いていき、二人の間に立つ。

 にこりと、それはとても可愛らしい笑みを浮かべて、彼女はこう物申した。



「二人共。周 り を 見 ま し ょ う ね ?」



 世界全てを凍りつかせるような“圧”。


「な……」


「え?」


 それを受けた刹那、アリスとエルレイはほぼ同時にシャルハートにこんな感想を抱いた。



 ――今、自分はこの子に対して、恐れを抱いたのか?



 そう、あまりにも予想外。そして、想像すら出来なかった事態である。

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