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ソロ冒険者達の悲哀

俺の歌を聴け! ~助っ人冒険者の悲哀 …やっぱり解雇ですか? そうですか…~

作者: 青山 文

リハビリ的に書いたのでかなりテキトーです。

ネタが異常に古いのは気にしないで下さい。



 「……申し訳無いが、キング。今日限りで、アンタとの雇用契約は打ち切らせていただきたい」


 冒険者ギルドに併設された酒場では、この時間になると打ち上げと称し、今日の成果(稼ぎ)を、そのままギルドに還元するならず者達で溢れかえっていた。


 俺達もその例に漏れず、こうして仕事の後の一杯を一気に胃へと流し込み、無事生還できた喜びに浸っていたのだが…


 「……それは構わんさ。俺はこの【明星】の正式メンバーではない、ただの”助っ人”なのだからな。当然、雇用主(リーダー)の意向には素直に従うさ」


 【明星】は、ギルドの中にあって、中堅でも評価値上位に位置するパーティだ。そんな期待のパーティに俺は呼ばれたのだと、今度こそはと張り切ってみたのだが、どうやら彼らのお眼鏡には適わなかったらしい。


 冒険者として常に食っていくには、それなりの苦労がある。ましてや、俺の様に特定の仲間を持たない”はぐれ”なんかは、悲しいかなこういう場面に出くわす事なぞ日常茶飯事だ。


 「だが、できれば、その理由を聞きたい。俺程度の技量では、このパーティに貢献できなかったのか? あんた達【明星】の期待に、俺は応えられなかったのか?」


 ”助っ人”業で食っていく為には、当然()()()()技量()を問われる。そして、その技量は”売り”として、真っ当な評価を受け、それを高く買って貰わねばならない。その為には、雇用主の期待に応えねばならぬのは道理だ。そうしなければ、俺は日々の糧を得られなくなるのだから。


 その為には、ここでちゃんと雇用主の『声』を聞いて、修正ができねば、俺は次には進めない。少なくとも俺はそう考えている。


 俺の”売り”は、二刀を自在に操る軽戦士が至る最高峰の一つと数えられる職業(ジョブ)である<剣舞闘士(ソード・ダンサー)>であり、さらに使い手の希少な”呪歌”を扱える<歌手(シンガー)>でもある点だ。


 特に”呪歌”とは、強力な術で、聴覚を持つ相手ならば、ほぼ無条件で術の効果を押し付けられるという、正に理不尽を絵に描いた様な術系統だ。


 弱体魔術よりも、その効果は即効性の上に顕著に現れ、抵抗(レジスト)される事無く必中。そして、強化魔術と比較するよりも能力向上効果は非情に高く、歌い手が増えれば増える程にその性能は倍々にと増えていくというエグい特性がある。


 その凶悪な特性を活かし、歌手だけの6人で組んだパーティも、過去には存在したらしい。希少な”歌手だけ”の贅沢なパーティなんぞ、数々の強力過ぎる呪歌が失伝してしまった今では、ほぼ実現不可能となった夢の存在なのだが。


 かく言う俺も、こうして”助っ人”業を営む前は、希少な存在である筈の、歌手の技能を持つ相棒と二人でパーティを組んで冒険をしていたものだ。


 『キング』とは冒険者としての俺の通り名。本当の名は(ワン)泰雄(タイシィオン)という。


 そして、俺の、当時の相棒の名はクリス。そんな二人のユニット名は【クリスタル・キング】。結成当時はこの国最強のパーティの名を欲しいままにし、それこそブイブイ言わせてきたものだ。


 だがある日突然、その最愛の相棒であるクリスからパーティを解消したいと言われて、YouはShock。悲しみに深く沈んだ当時の俺は微笑みを忘れ、明日を見失った程だ。


 その理由は単純明快。『好みのバフ(音楽性)の違い』って奴だ。俺は主に敏捷性Upの楽曲を好んで多用し、対して彼女の方は、攻撃力Upの曲好んだ。そういや、当時を振り返ってみたら「力こそパワー!」が、あいつの座右の銘だったんだよな……


 俺と袂を別ったそんな彼女も、幸運にも今では音楽性の合う気の良い仲間に巡り会えた様で、【猫の名はトム(トム☆キャット)】という名のパーティを結成し、日々タッボイタッボイと頑張っているそうだ。まぁ、俺にはもう関係の無い話なのだが。


 ……話が大幅に逸れた。


 そんな強力で使い手の少ない希少なスキル”呪歌”を持つ有能な筈の俺を、目の据わった【明星】のリーダーは、今日ここで解雇したいのだと言う。


 希少な呪歌を扱える存在は、スポット参戦でしかないけれど、今はこの【明星】の中では俺だけなのだから、『音楽性の違い』は、絶対にあり得ない。


 俺の剣士としての……剣舞踏士の技量は、少々手前味噌にはなってしまうが、この国でも五指の内に入る、筈だ。恐らくこの線も無いだろう。


 ……ならば、何故だ?


 これを聞き出し改善せねば、いくら”助っ人”として、他のパーティに入れたのだとしても、またすぐに解雇されてしまうだろう。


 単独(ソロ)でもやっていく自信は無くもないが、当然個人だけでは対処できぬ突発的な事故は、何処ででも起こり得る。変に意地を張ってつまらん所で一人寂しく死にたくはないのだ。


 「キング。確かにアンタはSランクの、この国最高峰に位置する冒険者を名乗るだけの事はある。本当に強ぇよ。俺達程度の技量じゃ、アンタの動きに追いつけねぇ、そう思っちまう程にな。呪歌の効果もスゲぇ。あそこまで自分が強くなるなんて、ビックリしたさ」


 「……ならば、何故だ?」 


 そこまでこの俺を評価してくれているのならば、何故、俺はここで解雇されねばならないというのか? その理由がさっぱり解らなければ、俺はこの先に進む事ができない。


 「……原因は、アンタのその呪歌だよ。確かにアンタの歌声を聴いて、俺達の強さは一気に跳ね上がったよ。だが……」


 「だが?」


 彼の言葉に対し、被り気味に俺はもう一度問い質してしまった。どうやら自分で思ってたより、今の俺には余裕が全然無い様だ。


 「……アンタ、多重詠唱(マルチプル・キャスト)持ちだろ?」


 「そうだが、それが何か?」


 先程も説明した通り、呪歌の効果は、歌い手が増えれば増える程効果が倍々に上がる。歌い手が俺一人だけでも、充分に強化性能は発揮できるのだが、その効果は、絶対高ければ高い程良い筈だ。


 そして、当然の事であるのだが、呪歌という術系統は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そしてこれも当然の話だが、一人の歌手からは一種類しか呪歌は出せない。人間の口は一つしか無いのだから、道理であろうが。


 だから、クリスに捨てられ、ソロとなってしまった俺は、生き残りを賭け、やむを得ず()()()()()()()()()()()()()


 俺は、魔術で自らの肉体を改造し、詠唱する為の口を、3つ追加した。一人なのに四人分の呪歌を同時に発揮できる唯一の使い手。それがこの国の最強の歌手であある『4人の(キング)』。俺の最大の武器であり”売り”だ。


 「そのせいで、頭が混乱すんだよっ! 戦っている最中に、違う曲が、強制的に、同時に4つも耳に入ってくるンだ!! 全っ然、戦いに集中なんてできねーし、その癖して、呪歌の効果は凄すぎて、戦闘中にも関わらず、限界を超えた身体のあちこちから悲鳴が挙がってきやがる。よーするに、こっちの身がもたねぇんだよっ!」


 「……ああ、何という事だ……」


 しまった。三つを弱体(デバフ)に充てて、強化(バフ)は一つにすれば良かったのか。もしくは全部同じ曲とか? 


 リズムの違う呪歌を4つも同時に歌い上げるのは、術をかける俺の方でも、かなり処理がキツいのだが、どうやら聴いている方はもっと辛かったらしい。それは勉強になった。


 「だから、アンタを使いこなせない俺達が悪いだけって話なんだが、もう勘弁してくれ…今も、全身のあちこちが痛ぇんだ…」


 「ああ。身体の節々が…それに……脳が、痛ぇ……」


 「頭がフットーするよぉ……」


 「キツい。キツい」


 「ああ、本当に酒が美味い……」


 リーダーの慟哭を皮切りに、他のパーティメンツも口々に俺に対し苦情を垂れてくる。こうなってしまうと、俺からもう何も言い返せなくなってしまう。


 (……はぁ。【猫の名はトム】に入れて貰えないかなぁ……?)


 もうこうなったら、嫌々でも俺からクリスに頭を下げて、パーティに入れて貰えないかと聞くしかないのだろうか?


 なんて、そうこうもたもたしている内に、日々新たな有能な冒険者達が名乗りを挙げ世に出てくるだろう。


 呆っとしていたら、それこそその他大勢として、たちまちの内に俺は埋もれてしまうのかも知れない。


 生き残りたい。生き残りたい。


 その為ならば、こんな俺の安っぽくも薄っぺらなちっぽけなプライドなんぞ、あっさりと捨ててやるさ。


 クリスの『力こそパワー!』を、俺の座右の銘にしても良いし、音楽性だって、俺の方から合わせるから。



 ……それでも、やっぱり、もう遅い?



誤字脱字がありましたらご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。

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