表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファイブカード  作者: アルト
9/75

9 一人の男と炎の話

9 一人の男と炎の話





これは、1人の消防士のお話。

街を守る消防士、炎と戦い街人にも慕われた。

勇猛果敢で人を助ける消防士。

街を西へ東へ、灼熱の炎の中へ。

彼は優秀な、優秀すぎる消防士だった。

私もその炎に対する知識には感嘆した。人1人にしてはなかなかの量だった。

しかしその優秀さが仇となった。


街を守る消防士、大規模な山火事で出動することになった。

夜の街、暗い空を炎が赤く明るく照らしていた。

駆け回って火を消す消防士。

その頃、街では1つの家屋が焼けていた。


優秀故に山火事を鎮めた消防士。

消防車に戻った消防士に知らされたのは、愛する家族と家の灰。

泣いて泣いて泣き叫んだ。号哭し、壁を殴った。

分かっているのは放火と言うことだけ、犯人である魔力なしになったであろう人間も、その理由もわからなかった。


意気消沈として焼けた家の前に佇む消防士。何時間も、何時間もそこに立ち尽くしていた。

そこに現れたはニヤリと笑う1人の少年。

わかったか、と。これが家族を失う悲しみだ、と。

火事で家族を全員なくした少年。

消防隊が着いた時には手遅れだった。

助けられなかった消防士に逆恨み。

同じ痛みを味わわせようと消防士の家に火をつけたのだった。

まさか、少年が火をつけたなんて思うまい。彼はずっとずっと野次馬に紛れて様子を見ていたのだ。

妻はあなたを信じて娘を抱えて待っていた、と。

娘はただただあなたを呼び叫んでいた、と。


そこで怒りに支配された消防士。

許さない、許さない

許さない、許さない

許さない、許さない

許さない、許さナイ

次に思考が通常に戻った時、認識したのは目の前で首を絞められている少年だった。絞めているのはもちろん消防士の両手。


感情に支配された消防士。

そのまま悪魔と契約し、幼い少年を、ひとつの火事で家族を全員失い、魔力なしとなった少年を惨たらしい方法で燃やし、そこら一帯を焼け野原とした。


「その身に宿る魔法を失おうとも、罪を犯せしその覚悟。素晴らしい!

その罪の一端を担おう。代償は魂と1番大切なもの。

さあ、貴様の唯一はなんだ?」


「……ホノオ、ホノオが、炎が、俺の、全てを、こいつが……こいつが!」







「ふふ、これでおしまい……おや?」


白い手、ヨツヤ先輩の白い手が俺に迫る。


「泣いているのかい?優しいね、君は」


その指が濡れた頬をなぞるのにようやく涙を流していることがわかった。

そんなわけが無い。

同情なんてするわけが無い。

あの男はカドヤ先輩を殺そうとした。問答無用で燃やそうとした。

どんな事情があれどそれが事実だ。

悲しくもないのに涙するわけが無い。


「そうだね。君は悲しいなんて思っていない。

私が君に直接、その時の男の思考を強制してるだけ」


「なんて迷惑な魔法だ……!……ですか」


許さない、ユルサナイ。

溢れ出る感情に名前をつけられるようになればそれがいっそう強く感じられる。


「君も、ナミトくんを傷つけたら許さないよね」


「……さあ」


「曖昧な回答は許さないよ?なんなら今、ナミトくんを」


許さない

強く強く感情が溢れ出て、思わずその整った綺麗な顔を睨みつける。くすり、笑われて頬を片手で覆われた。


「許さないね。いい答えだ」


「からかうのが好きですね。ほんと……」


「君の思考と知識は本当に面白い。ナミトくんと同じだ」


「カドヤ先輩とも……?ヨツヤ先輩、カドヤ先輩と接点ありましたっけ?」


突然の言葉に思わず目を見開く。するとヨツヤ先輩も目を丸くした。


「これは驚いた。君は知らないのかい?」


「何を」


「タカハシ先生が目をかけた生徒は1学年に1人。

私、君、ナミトくんだ」


「……と言いますと」


「彼の思考も心地いい。何度か語った。彼は空間数学に対してとても有識だ。デジタル系が得意なようだね」


「…知らなかった」


「……君はバスケの1面でのみ彼を見てるが、それが本当の彼とは限らない。人は様々な思考を持つからね」


怪しげにヨツヤ先輩は笑う。


「……さて、そろそろ私は行くよ。久しぶりにタカハシ先生に会おうと思ったのだがそれどころでなく騒がしい。

私は今のこの街は好まないね」


「……悪魔憑きがいると捉えても?」


「そうだね。いつか、君も倒してこちらにやって来るだろう」


「……ヨツヤ先輩は都会に?」


「いたよ。けどすごくうるさかった。低レベルが沢山いても思考が被って意味が無かったね。

けど、中にはあたりもいたんだ。また宝探しにでも行くとしよう」


ふわりと笑ったヨツヤ先輩は中学生に見えるほど美しく可愛らしい。


「いずれ、私が求める知識が得られたなら、君に殺されてもいい。

君のそのハートの数学に、ね」


「なにを、言って」


「いずれまた会うよ。その時はナミトくんも連れておいで。一緒に語ろう」


軽いステップで屋根から飛び降り、倉庫の上に乗り移ったヨツヤ先輩はそのままにこりと笑ってヒラヒラ手を振る。

それを見て、無性に胸騒ぎがした。月夜の晩


その後トランプは光らなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ