3 炎の悪魔憑きと翼の悪魔憑き
3 炎の悪魔憑きと翼の悪魔憑き
「やっべ、悪魔憑きじゃん」
「なにあれ、火?」
「あ、先生たちがサッカー部、避難させ始めた」
「これ、もしかしてやばい?」
もしかしなくてもやばいんだよ。なんて、よく知りもしないクラスメートに言える訳もなく、その中に紛れて様子を伺う。
確かに、俺が気づいたあの光があいつの魔法、炎だろう。結界があるとはいえ、精霊魔法の結界だ。悪魔の魔法を防ぎ続けられるとは到底思えない。
「お仲間さんよぉ!!!出てこいよ、遊ぼうぜ!!」
校庭で叫ぶ男に思わず頭を抱えた。学内に悪魔憑きがいると思ってるのかあいつ。
めらめらと激しい炎が、サッカーのゴールネットや、ホームラン帽子のあみあみに伝い、どんどんと激しく燃やしていく。
…こりゃあ被害甚大だな。まさかあれの前に殺されるために出ていくバカも居ないだろうけど。
そう思っていた。思い込んでいた。
「…あれ、だれ?」
クラスメートの小さな呟きに目を凝らす。
…体育館の横扉から人がでてきた。長袖短パンのジャージ。見覚えのある髪型、歩き方。
「…嘘だろ」
どれだけ遠くにいようと、見間違えない。見間違えるわけが無い。
だって俺はあの人に憧れて、あの人と同じプレイがしたくてずっと見てたんだ。
「3年の先輩じゃない?」
「ああ、頭のいい人だよね。特進クラスの」
「……バスケ部のたしか」
ギリっ、歯が痛い音を立てる。それでも食い縛らずに居られなかった。
なんでだよ、おかしいだろ。
「なんであんたが悪魔憑きなんだよ、カドヤ先輩っ」
思わず教室から飛び出した。
カドヤ ナミトはカードを1枚手に持って校庭に出た。そこにいるのは悪魔憑きだって言うことも知っていた。
カードは赤く光っている。それが何を示すかも今回初めて意味がわかった。度々光っていたのも悪魔憑きがそばに接近したからだったのだろう。
そしてそれを察知してこの悪魔憑きも学校まで来たのだ。
「俺が悪魔憑きだよ。だから学校には手を出さないで」
「あ?やっぱり学生かよ。いいとこの生徒さんが悪魔憑きかよ」
男は炎を収めると手の内に現れたカードを見せびらかしてくる。ハートの1、傍目から見ればそれはトランプのカードだが、悪魔憑き同士は知っている。
それが自分たちの命そのものだということを。
「お前はなんなんだよ!」
ナミトは手に持つカードをみせる。赤く光ったスペードの1。
「…やっぱ同類じゃねえのか」
「……同類?」
「ま、貰っとけばのちのち役に立つだろ。ってことで発動!」
カードが消えぶわっと溢れ出した炎がユウキへと向かう。
「っ!」
「大人しく死んどけよ!」
「…発動っ」
手の中のカードの感触が消え、背中でビリリと嫌な音が立った。
ナミトにとってその感覚は久しぶりで、それと同時に自分の罪を思い知らせるものだった。
「へぇ!立派な翼だなぁ!けど、俺の炎からは逃げられねぇ!」
「捕まえられるなら捕まえてみろ、雨が降るまで耐久してもいい」
ばさっと大きく翼をはためかせて、ナミトは高く天に舞う。
…内心に焦りを抱きながら