1 科学は潰えた
1 科学は潰えた
俺たちは生きたかった。生きるために罪を犯した。
許されないことだって知っていた。それでも仕方ないと思っていた。
俺たちはただ生きたかった。けど罰は重かった。
何も信じられないこの世界で俺らは唯一を求めるしかなくなった。
ファイブカード
俺らは罪人。その中でも重罪人。2200年、滅多に犯罪が起きないこの時代で無謀にも犯罪と判断されるものに手を出した極悪非道の犯罪者。
200年前は今よりもっと犯罪が起こっていたらしい。殺人、強盗、傷害、詐欺、そんな犯罪が世界から消えうせたのは、資源が潰えたこの世界がそれまで眉唾としてきた魔術に手を出してからだった。
最早、世界滅亡まで一刻も持たない、全ての人々が餓死寸前、そんな時に一国の住民全ての命を奪って召喚された精霊はこう言った。
『この国の王子に魔法の力を与えましょう。彼から放たれる魔力が時期に広がり全ての人に少しの魔法を与えるでしょう』と
よって世界は一命を取り留めた。世界に与えられた魔法はほんの少しの効果しか持たず、一人一つしか得られない。植物の成長を促したり、水を浄化したりそれくらい。魔法生物を生み出すことも自由自在に素早く空を飛ぶことも出来ない。それでも科学の代わりにはなって何とか世界は復興した。
と、同時に犯罪を犯した者は魔法が剥奪されることも確認された。精霊のボーダーラインがどこかは分からないが罪を犯した者は魔法の権利もなくなるのだ。魔法を持たなければ今や電気ではなく魔力で動いているありとあらゆるものを使うことが出来ない。
そうして世界から犯罪は消えていった。
いつしか警察署は魔法を持たない者を処刑する場所へと変わった。
単体の科学は衰退し、魔法科学が発展を遂げていた。
もはや罪を犯せば全てを失い死を免れない……一部を除いては。
まだ外は明るいのに短い針は4を指した。時計を見上げているのも怠くて
「ねえシオン。今日も部活行かないの?」
「……ああ」
「もうすぐで3年生引退するし少しくらい顔出したら?」
「やだよ」
ぐったりと机の上に寝そべらせていた上半身を起こしながら横で見下ろすユカにあくび混じりに返事をした。無情に鳴り響くチャイムは今日の授業の終わりを示している。
「てか部活やめるし。退部届けをあの顧問が認めてくれてないだけでさ」
「そりゃそうだよ。シオンがいなかったら勝てないもん。2年1人と1年4人はキツいって」
「知らんわ。全員まとめて俺を嵌めやがって…味方だったのはユカとハルキだけだろ」
「いじめって犯罪扱いじゃないんだね。精霊様もどういう判断してんだか」
後ろの席で荷物をまとめ始めたユカが立てる音を聞きながら、2週間前、起きたことを思い出す。
確かに、俺も悪かった。あまりに綺麗なプレイで先輩を舐めるように観察していたのは申し訳ないと思う。
けどな、
「なんでストーカー扱いになるかなぁ」
「3年の女子の先輩がカドヤ先輩のこと好きで過剰だったからね、完全に嫌がらせ目的だったよね」
3年にストーカー扱いされて部活動集会を開かれ、顧問にも1年にも問題児扱い、挙句の果てに2週間前の全国に繋がる県大会では事前ミーティングにも呼ばれず、プリントも渡されず、優しい1年が集合時間を教えてくれたと思えば嘘の時間で、遅刻したやつを出すなんて示しがつかないと出されることは無かった。負けてた、ざまーみろ。
そっから部活は行っていない。ていうかその日に退部届け出したし。
俺の言い分も何も聞いてくれない顧問と、調子に乗って俺をイジる1年、聞こえるところで悪口を言う3年、機嫌を取る同級生。同じクラスのユカとハルキだけだった。
「3年生が引退したら私が女子バスケ部の、ハルキが男子バスケ部の部長になるよ?それでも戻んない?」
「あのメンツで?無理無理、精霊に魔法剥奪されて地獄行けって思う」
「過激だな……っと」
学校の外でサイレンが鳴った。災害の緊急速報とはまた別の音に少しだけ窓の外を眺めた。
聞こえるアナウンスがそう遠くない地名を読み上げる。
「……近いね、やっぱり必死なのかな『悪魔憑き』は」
「……だな」
そう、精霊、魔法、科学が衰退して行っているこの世界には、悪魔までも存在している。
人間をおもちゃと考えている悪魔だ。
俺はそっと定期入れをなぞった。