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3人だけの葬儀

作者: ダルシン

やさしい3人のお話なのですが・・・。

 犬が死んでしまった。

 我が家に来てほんの一週間のことだった。

 動物病院で保護されていたものを、妻が連れて帰って来たのだ。

 家で面倒を見ようと。


 結婚して十年。僕たち夫婦に子供はいない。作ろうと努力し、医者にも通った。

 でも不妊治療は妻の負担が大きく、そんなことならやめてしまえと僕がいった。

 子供はあきらめた。

 それがきっかけとなって犬を飼うことにした。五年前のことだ。

 保護されていた豆柴をもらって来て、コスケと名づけた。

 だからあの子は二匹目の犬だったのだが。


 いつも行く獣医はこの道三十年のベテランの女医さんで、犬を飼うことがはじめてだった僕たち夫婦を懇切丁寧に指導してくれた人だ。おかげで犬を飼うということに自信が持てるようになっていた。

 獣医さんは犬や猫の保護活動にも熱心で、時折その目的で犬や猫が持ち込まれる。

 あの子もそんな一匹だった。

 たまたまコスケの注射で病院を訪れていた妻に話しが持ちかけられたらしい。

 この子を飼ってみないかと。

 この五年で信頼関係ができていた獣医さんからの申し入れだ。十分な指導をするということなので、妻は引き受けることにした。


 来た子は茶色のトイプードル。

 生後二か月らしいがかなり小さいという。

 だからこそ売り物にはならないらしく獣医さんに保護された。

 困難を乗り越えていけるようにと、のり君と名づけた。


 コスケの面倒は僕が見ることにして、落ち着くまではのり君は妻がつきっきりで見ることが決まった。

 獣医さんと頻繁に連絡を取りながらの育児がはじまった。

 初日はおびえきっており、小さな体をさらに小さく縮みこませるばかり。

 二日目は多少慣れ、三日目にはやっとミルクを飲んだ。

 四日目には飲む量が増え、よろこびの表情を出すようになった。

 五日、六日と順調に過ぎ。

 七日目突然体調を崩して死んだ。

 妻からの連絡で駆け付けた獣医さんが確認した。





 実のところ、正直僕はホッとした。

 残酷ながら安堵してしまったのだ。

 実はのり君が家に来た時、僕は思った。

 なんて汚い犬だろうと。

 その辺の犬とは明らかに違う奇妙さをその小さな姿に感じていたのだ。

 その犬が僕からいろんなものを奪っていってしまうのではないかという嫌悪を。

 不思議なことだが。

 妻の手前そんなことはいえない。



 こうしてすぐに遺体は動物観音に持ち込まれ、僕と妻と獣医さんの3人だけの葬儀がはじまった。


 

 よかった。

 私には荷が重かった。

 何より気味悪かった。

 でもお世話になっている獣医さんがいう以上断れなかった。

 はじめは気のせいかとも思った。そのうち変わるだろうとも思っていた。

 だってあんなに小さな犬だから。その犬に何故恐怖を感じているのかと思っていた。

 日に日に元気になり、私に懐いて来ることによろこんで見せていたけれど、本当はゾッとしていた。

 よかった死んでくれて。

 よかった私の手を離れてくれて。 



 獣医としてこれまで何千何万という犬や猫を見て来た。

 でもあれは一体なんだったのか。

 他の子たちと明らかに違う禍々しさ。

 周囲を次々に不幸に陥れていくのではと思わせてしまうものがあれにはあった。

 育ててはいけないそう感じた。

 かといって殺すことも恐ろしい。

 だからこそ任せてみることにした。

 経験の浅い飼い主に。

 難しい存在だから、きっと上手に育てられないだろうという期待をこめて。

 よかった死んでくれて。

 坊主に導かれてはやくあっちへ行って。



なんか知らないけれど、奇妙なものを感じることってありますよね。

その感じを書いてみました。

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