モブNo.6:「とにかく僕は軍には入らないよ。それより恋人を待たせてていいの?デートの邪魔はしたくないんだけど」
説明多めです
モブの出身惑星をイッツに変更しました
僕が傭兵になってから、会うたびにこれを言われていていい加減うんざりする。
こいつ、リオル・バーンネクストは伯爵家の次男で、やんごとなき事情のために帝星からやってきて、僕の出身惑星であるこの惑星イッツの平凡な高校に入学してきた。
そんな貴族のバーンネクストが、どうして傭兵斡旋のメンバーに撰ばれたのか。
推測だけど、実家からいらないもの扱いをされていたからだと思う。
そうでもなければ、彼のようなお貴族様が、僕が通うような平凡な学校に通うはずがないし、あんな犯罪の被害者になるはずがないのだ。
在学中は悲惨な事件の被害者として話題になり、卒業後はその時の実績を買われて帝国軍に入隊。
現在はエースパイロットとして、そしてプロパガンダの中心として活躍している少佐殿という、わかりやすい成り上がりざまぁ系主人公な感じだ。
ちなみにバーンネクストの言葉に対しての僕の返答は決まっている。
「前にも言ったけど、僕は軍に入った方が死ぬ確率が高いから嫌なんだって」
「それは傭兵だって同じだろう?!だったら軍の方が色々保障や福利厚生も充実しているし、なにより帝国のためになるんだぞ?!」
こっちは本気で嫌そうな顔をしているのに、まったく気にすることなく自分の意見を押し付けてくる。
バーンネクストがどうしてこんなに僕を軍にいれたがるのか?
本人としては、傭兵なんてヤクザな商売ではなく、同じような事をするなら軍隊の方がいいだろうと本気でそう思っているんだろうし、あの傭兵団のことがあって傭兵を毛嫌いしているのもあるのだろう。
だが実状は酷いものだ。
実は僕の出身惑星は、70年前までは銀河民主国と呼ばれた国の首都で、70年前に帝国に侵略され植民地になったところだ。
そのため、軍や政財界などを始めとして、出身惑星によっての差別は当然存在し、軍なら貴族の弾除けかストレス解消の道具にされるくらいは当然だろう。
美人の女性なら身体を差し出せといわれかねない。
様々な功績を上げてもそれを横取りされ、失敗を押し付けられることも普通に行われるだろう。
場合によっては、上官不敬罪をでっち上げられて処罰される可能性だってある。
これは植民地出身だけでは無く、元々の帝国市民も似た様なモノだ。
給与も、一般のサラリーマンよりは多くもらえるだろうが、人間としての尊厳と命を天秤にかけると考えると安すぎる。
こいつは多分その辺りの事はわかってない。
そしてなにより、バーンネクストはそうやって勧誘するのを、本気で『親切』だと思っている事だ。
はっきりいって関わりたくない。
軍になんか入ろうものなら絶対に絡んでくる。
その点傭兵ギルドは非常に居心地がいい。
自己責任が殆どだが、その分しがらみもない。
誰が軍になんか入るものか!
「傭兵だって、治安維持や物資輸送とか、十分帝国に貢献してるじゃんか」
「たしかにそうかもしれない。だったら軍で同じことをすればいい。そうすれば皇帝陛下もお喜びになるんだ」
そして勧誘の理由をもう一つ推測すると、もしかしたら皇帝陛下が関係しているのかも知れない。
今の第38代皇帝アーミリア・フランノードル・オーヴォールス陛下は、青銀の髪に漆黒の瞳に白い肌の美女で、ネットでも『美女すぐる皇帝陛下』として話題になっている。
その皇帝陛下にお近づきになるために、勧誘などをして自己評価をあげている。
というのが僕の推測だ。
下世話な推測だがあり得なくはない。
もしかすると、皇帝陛下と幼なじみとかだったりするのかも知れない。
ちなみに今のバーンネクストと長く会話をしているせいで、僕の命が危うくなってしまっている。
その理由は、バーンネクストの取り巻きの女性達がものすごい形相でこっちを睨んでくるからだ。
しかもその腰には軍用のレーザーガンがあるため、洒落にならない。
もちろん殺人をすれば罪になるが、貴族だった場合罪に問われなかったりするため、実行される可能性が高いのだ。
せっかく一緒にお出かけをしていたのに邪魔するんじゃねえ!って所だろう。
それならこの不毛な会話を切り上げさせて欲しいお。
こっちは話をしたくないって感じなのはわかるっしょ?
でもそんなことは解ってくれるはずがない。
なので、彼女達を利用させてもらう。
「とにかく僕は軍には入らないよ。それより恋人を待たせてていいの?デートの邪魔はしたくないんだけど」
僕がそう指摘すると、連れがいたのを思い出したのか女性達の方に振り返った。
「デートじゃない!すまないね君たち。待たせてしまっている」
デートを否定したあと、彼女達に向かってもうしわけ無さそうな笑顔をむけた。
バーンネクストが微笑むだけで、女性達の睨み付けていた目が一瞬でとろけていく。
「そんな事ありませんわ。ご友人を心配なさる少佐は素敵です♪」
そしてそのうちの1人が、バーンネクストの腕に自分の腕を回した。
すると、
「そうですよ。私はこの後も時間がありますから大丈夫です」
と、もう1人もバーンネクストの腕に自分の腕を回した。
それを皮切りに、女性達は自分こそがその恋人だと言わんばかりにリオル・バーンネクストの腕の奪い合いが始まった。
「ちょっと君たち?腕を掴むのはやめてくれ!」
いい感じでもめ始めたので、こっちに視線が向いていないその隙にその場を早々に立ち去ることにした。
「ほら。やっぱりデート中じゃん。じゃ、お邪魔虫は退散退散」
「まてっ!まだ話が…うわっ?!」
女性達に腕を掴まれ、身動きができないバーンネクストを尻目に、さっさとその場を立ち去った。
アニメショップは…なんか疲れたから明日にするお…。
部屋に帰り、シャワーだけ浴びて、近くのコンビニで買ってきた弁当を食べ、サイトのチェックだけして寝ることにした。
主人公サイド:リオル・バーンネクスト
高校1年の時の、あの事件で生き残った内の1人であるジョン・ウーゾス。
どうして彼は僕の助言を受け入れないんだ?
傭兵なんかやっているより、帝国軍に入隊して功績をあげた方が、植民地惑星出身の彼が少しでも帝国の役に立てる方法だというのに、どうしてそれを選ばないのだろう?
軍に入り、僕の部隊に所属できれば、それなりの地位にはつく事ができるし、人材を増やした僕の功績にだってなる!
頑張ってるアーミリアの助けにだってなるというのに…
そうか!
僕に遠慮をしてるんだな!
自分みたいな植民地惑星出身者が、僕のような生粋の帝国貴族の近くにいたら、僕に迷惑がかかると思ってるんだな!
そんなこと僕は気にしないのに。
今度会った時には、僕の直属の部隊に配属されることを通達してあげれば喜んで軍に入隊するだろう。
素早い状況判断が出来る彼ならいい副官になれるはずだからな!
女性達に腕を掴まれながら、僕は自分の考え事に納得していた。
主人公サイド:終了
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