モブNo.72:「お前のところのパイロットは下手くそだな。 私が雇ったパイロット達は、このものすごい嵐の中でもほとんど揺れる事なく飛行し、簡単に着陸までこなしていたぞ。無能の部下はやっぱり無能だな」
はっきりいって、このテーズ教授は何を考えているのだろうと思うお。
あんなのが約束を守る訳がない。
多分教授本人もそう思っているだろうけれど、部下や学生を人質に取られた事で仕方なく。なのだろう。
そう思いたい。
雇い主の意向とはいえ不条理だ。
無視して逃げたら逃げたで、契約不履行で訴えられるのはこちらだしね。
しかも向こうの出した条件だと、明らかに僕を殺しにくるねえ。
さてどうやって切り抜けるか…。
相手の船は2台。
1台は上空で待機し、もう1台が降りてくるだろう。
で、教授を回収して高さをとってから砲撃かな。
船から余りはなれず、連中が上昇したら直ぐに船に飛び乗ってバリア展開かな。
上空で風がまた強くなれば脱出のチャンスもあるだろう。
そうやって逃走プランを練っていると、
「頼む、ウーゾス君。あの男なら殺人くらい平気でやりかねないんだ…。虫のいいのはわかっている。だが…部下や学生達の命がかかってるんだ…頼む…」
悔しそうな表情で教授が僕に向かって土下座をしていた。
もしここに僕の知り合い以外の第三者がいたら、美人な学者先生を土下座させている外道野郎だと即座に認定されるだろう。
まあ、勝手に駆動キーを抜いたりせずに、僕に嘆願したことは評価できるところかもしれない。
『どうした?さっさと指示に従え!』
画面越しに、ダズブロウト博士がいらいらしながら急かしてくるが、テーズ教授が土下座をしているのは角度的には見えないだろう。
僕はエンジンを止めて、駆動キーと記録媒体を抜き取り、両方をパイロットスーツのポケットにいれ、教授には予備の駆動キーを差し出した。
教授はその駆動キーを手に取ると、
「すまない。感謝する」
教授は怪しむことなく予備の駆動キーを持ち、ゆっくりと外に出ていった。
余計なキーホルダーなんかを着けなかったのが功を奏したかな。
これで、駆動キーを差し出したと錯覚させて、その隙を突くことが出きるかもしれない。
ともかく僕も教授に続いて船の外にでる。
外には、1台は50mほどの高さで止まっていて、もう1台は地上に降りていた。
あきらかに研究者じゃない連中が何人もいて、軍用突撃銃を構えていた。
多分、軍人か傭兵崩れだろう。
その中央には、ダズブロウト博士がいた。
「では教授!君の研究成果とその船の駆動キーを持ってこちらに来い!パイロットのお前は船から離れろ」
その指示と同時に、軍用突撃銃の銃口が一斉にこちらを向いた。
いくらなんでもこれは無理だ!
おとなしく従うしかない。
しかも、隙をついて飛び乗ることが出来なくなる距離まで離されてしまった。
そのうちにテーズ教授がダズブロウト博士のところにたどりついた。
「よし。駆動キーと研究データを渡せ」
教授は渋々といった表情で2つを博士に渡す。
「よし。乗れ」
そうして教授・博士・軍人崩れ達が船に乗り込むと、軍人崩れの1人がドアを開けたままこちらに軍用突撃銃を向け、そのまま上昇を開始した。
そしてもう1台の半分の高さまで上昇した時、もう1台がいきなりビームを放ち、僕の船を破壊した。
さらには1発では飽き足らず、何発も発射してきた。
やっぱりこうなった。
僕は生き残るために必死に走った。
掘り返され、階段状になっている遺跡の中程にある洞窟の入り口に向かって。
ヒロイン?サイド:フロリナ・テーズ
「よし。乗れ」
私が研究結果とウーゾス君の船の駆動キーを渡すと、ダズブロウトは満足そうにそういった。
「彼はどうするつもり?」
「我々がある程度上昇したら駆動キーを落としてやるさ」
ダズブロウトはにやにや笑いながら駆動キーを見せつけてきた。
どうみても研究者ではない連中が、ウーゾス君に銃を向けたまま、貨物船が上昇を開始した。
そして25mほど上昇したところでビームの発射音が響き、爆発音が鳴り響いた。
「彼の安全は保証する約束のはずだ!」
私はダズブロウトを怒鳴り付ける。
「私はそうするつもりだったが、部下はそのつもりはなかったようだな。そら、駆動キーは返しておこう」
ダズブロウトはにやにやと笑いながら、駆動キーを船外に捨てた。
「このっ!うぐっ!」
ダズブロウトをぶん殴ろうとしたけど、横にいた偽者研究者に殴り飛ばされ、ダズブロウトに銃を突きつけられた。
「おとなしくしないとお前の研究チームの人間まで死ぬことになるぞ?」
「くっ…」
私はダズブロウトを睨みつける。
と、同時に偽者研究者に拘束されてしまった。
その時、
「あのパイロットが生きてます!洞窟に向かってます!」
偽者研究者ではないダズブロウトの部下が、ウーゾス君の生存を報告してくれた。
「ちっ…生きていたか…追って殺…うわっ!」
ダズブロウトが命令しようとした瞬間、機体がとてつもなく揺れた。
「かっ風が急に強くなって…機体がコントロールできません!着陸は無理です!」
「なんとかしろ!」
「無理です!このままでは墜落します!」
パイロットはかなり悪戦苦闘しているらしく、声からも必死な様子が伝わってくる。
貨物船の扉を開けているせいで、偽者研究者が何人か落下しかけていた。
落ちればいいのに。
「仕方がない!遺跡の入り口を撃って塞げ!天気が回復してから殺しにくればいい!」
ダズブロウトは壁に必死にしがみつきながら、ウーゾス君を洞窟から逃がさない手段をうった。
もちろん1発で当たるはずはなく、風に煽られ、墜落しないように機体を操ったりしながら、何発もビームを発射していた。
その様子に、私は思わず鼻で笑ってしまい、
「お前のところのパイロットは下手くそだな。
私が雇ったパイロット達は、このものすごい嵐の中でもほとんど揺れる事なく飛行し、簡単に着陸までこなしていたぞ。無能の部下はやっぱり無能だな」
思わずダズブロウトを挑発してしまった。
するとダズブロウトは銃の台尻で私のこめかみを殴ってきた。
「生意気な口を利きおって…。
お前の研究成果を全ていただいた後で、たっぷりと可愛がってやる。
平民のお前が貴族の私に抱いてもらえるのだ。光栄に思うがいい」
痛みをこらえながら、にやつくダズブロウトを睨み付けた。
ヒロイン?サイド:終了
最悪だお。
洞窟の入り口はここだけみたいだったから、やってくるであろう追っ手を、洞窟内で1人ずつ始末しようとしたのに、入り口を塞がれてしまった。
入り口が塞がれる前に風の音が大きくなってたから、着陸できなくなって追っ手が出せなくなったんだろう。
その腹いせに入り口を崩したんだろう。
まあ、風のせいで何発もぶっぱなしてたけど。
確かロスヴァイゼさんの話によると、ここは別荘と格納庫があるんだったよな?
なのに洞窟があるってのは何なのだろう?
戻れたら聞いてみるかな。
もしこの奥に別荘や格納庫があるなら、何かしらの出入口があるかもしれない。
地図や見取り図があればなおよしかな。
じっとしてても仕方ない。
まずは奥にいってみよう。
間違ってもモブでしかありません!
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