モブNo.71:「実は大事な研究データを小屋に忘れてしまったんだ!あれがなければ研究が進まないんだ!」
無事に海上都市に戻り、発掘品をおろしている間に船体のチェックをしたところ、特に問題はなかった。
しかし雷に撃たれているのもあるし、雨で発掘もストップするようだから、分解整備をしておくといいかもしれない。
もちろん教授の許可をもらってからだけど。
「教授。大丈夫だとは思いますが、船を分解整備に出してかまいませんか?」
「そうだね。暫く発掘は出来ないし、そうしておいてくれ」
教授から許可がでたので、整備工場のある1階層に貨物船を移動させ、分解整備を頼み、研究エリアに戻ってくると、
「ああ、ウーゾス君!船はどうした?!」
教授がかなり慌てた様子で僕に話しかけてきた。
「内部に忘れ物とかないかをちゃんとチェックしてから整備工場に預けてきましたよ?」
「今すぐそれを中止してくれ!」
教授の必死の様子に驚きながらも、整備に出した貨物船の現状を報告する。
「暇だったらしくて直ぐにバラしてましたから無理じゃないですかね…」
整備工場の人達はかなり暇だったらしく、久しぶりの仕事にかなりはしゃいでいた。
「実は大事な研究データを小屋に忘れてしまったんだ!あれがなければ研究が進まないんだ!」
教授の様子からするとかなり大事なんだろう。
安全のためとはいえ、分解整備を提案したのを申し訳なく思ってしまう。
「じゃあ僕の船で取ってきましょうか?」
「そういえば君は傭兵で、自分の船を持っていたな!」
僕の提案に、教授はすがるような視線を僕の船にむけた。
「私も同行しよう!君では研究データがどれかわからないだろう?」
たしかに僕では、研究データの入った記憶装置やファイルがどれかはわからないだろう。
パッチワーク号のほうは、ここに来てからはあまり動かすことはなくなったけれど、昼間の時間に時々は動かしていたので調子はいいはずだ。
それに、自分の船なので癖も理解しているため、より安定した飛行が出来るだろう。
さらに雨風も少し弱まっていて、雷にも撃たれる事も少ないだろうから、取りに行くなら今のうちだ。
ヒロイン?サイド:フロリナ・テーズ
まったく私としたことが、大事な研究データの入った記憶装置をわすれてしまうなんて…。
雨のせいで焦っていたからだろうか?
いや、そんなのはただの言い訳にすぎない。
それにしても、さっきの帰りの時の貨物船より揺れが少ないのは、帰りより雨風が弱いのもあるが、今乗っている船が、彼。ジョン・ウーゾス君の私物だからというのもあるだろう。
傭兵として扱いなれたこの船は、まさに彼の手足のようなものなのだろう。
先ほどの帰路以上に安定した飛行で、あっというまに発掘現場に到着した。
「では直ぐに取ってくるから待っていてくれ」
ウーゾス君は、操縦士としてかなりの腕前の持ち主だ。
船の入り口を小屋の近くになるように停船してくれる気遣いもできる。
出来れば専属で操縦士として雇いたいが、今現在専属で契約している人物がいる上、彼の本業は傭兵だ。
無理強いも良くない。
そうして私は小屋の中に入ってから1分経たない内に目当ての記憶装置を手に入れた。
まったく…忘れ物というのは嫌だな。
チェックを怠ったために、本来なら1分かからない作業を10倍以上の時間と労力を費やさないといけなくなるのだからね。
そんなことを思いながら船に戻った瞬間に不意に上から光が差した。
「なっなんだっ?!」
「船です。2隻ほどいますね」
私のように忘れ物でもしたのだろうか?
いや、だとしてもなぜ私が担当しているところにやってくる?
その時、彼の船に近距離通信が入った。
「繋げていいですか?」
その言葉に私が頷き、彼がスイッチを入れると、鷲鼻の意地の悪そうな顔をした痩せた男が画面に現れた。
「ダズブロウト博士…」
『こんばんはフロリナ・テーズ教授。こんなところで逢うとは奇遇だな』
ハロルド・ダズブロウト。
帝国子爵であり、帝都大学名誉教授であり、考古学博士でもある。
陰湿で陰険。小心者でろくな講義もできないくせに名誉欲だけは人十倍。
そのため何かにつけて私にマウントを仕掛けてくる人物でもある。
「いったい何の御用件ですか?」
なので、慇懃無礼な対応をする。
こいつがこうやって話しかけてくる時は、大抵ろくなことではない。
するとダズブロウト博士は苦虫を噛み潰したような顔をし、
『君は若く美しく有能だ。そして今回君が発掘調査しているこの場所からは、幾つもの出土品がでており、大きな成果をあげ、君の名声は高まっている』
言いたくも無さそうな賛辞を私に投げつけてきた。
しかし次の瞬間には憤怒の表情に変わり、
『だがそのような名誉は!子爵であり考古学博士号を持つこの私こそがふさわしいのだ!』
と、言いきった。
私は呆れ、そして前からの疑惑が頭に浮かんだ。
この男は本当に考古学博士号をもっているのだろうかと。
「私が今担当するこの場所にはなにもでないと言い切り、逆に今貴方が担当している場所は、ここは絶対に世紀の大発見か見つかるからと、圧力をかけて担当場所を無理矢理変更させましたよね?」
発掘場所の担当は、当初籤引きで決められた。
しかし先ほど言ったとおり、今私が担当している場所を嫌がり、大学内での地位と貴族の権力を利用し、発掘場所を強引に変更させた。
しかし蓋を開けてみれば、ダズブロウト博士が私から奪い取ったところからはろくな出土品はなく、押し付けられたところからは、当時の記憶装置やプラ・ペーパーの書類、それらを包容した地下施設が発見された。
こういう遺跡発掘では外れを引くことはよくあることで、『ここにはなかった』という事実も大事な情報だ。
であるにもかかわらず、
『しかしだ。君が私の部下であり、ここを調べるようにと私に指示されたと学会に報告すれば、総てが私の功績になる』
このダズブロウト博士は、いい提案だろうと言わんばかりに信じられないことを言ってきた。
「そんなことを承知するとでも思うの?」
私は最低限の礼儀をやめ、ダズブロウトを睨み付けた。
ダズブロウトは一瞬顔を歪めたが、
『君が承知しないのなら、君の研究チームは全員この嵐の中都市を離れ、遭難することになるかもしれんなあ?』
直ぐにニヤニヤと笑いながら顎を撫で始めた。
私の部下や学生を人質にとったのか!?
直ぐに連絡を取ろうとするが、誰一人応答しない。
するとウーゾス君が小声で、
「虚仮威しっぽく聞こえますね。通信が使えないのも、どちらかの船で妨害をしてるのかもしれません」
といってきた。
しかし私はダズブロウトの性格を知っている。
ダズブロウトは間違いなくやりかねない…。
「わかりました…指示に従います。まずは研究チームの安全を。それと、この船のパイロットは臨時雇いで研究者ではありません。彼の安全も保証していただきたい…」
私が殊勝な態度を取った事に満足したのか、ダズブロウトはまたもニヤニヤ笑い、
『いいだろう。ではまず船のエンジンを停め、パイロットも一緒にでてこい。駆動キーを持ってな』
と、命令してきた。
ヒロイン?サイド:終了
教授は洋画によくでてくる強気な女性研究者なイメージです。
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