モブNo.2:「だが断る!」
意外にも好評だったので連載の運びになりました。
2話までは読み切りとほぼ同じです
御指摘いただき、再編集いたしました
キャラクターの氏名を変更しました
戦闘終了後。
ジーマス男爵側からは、傭兵に対しては責任を問わず、バッカホア伯爵家には謝罪と莫大な慰謝料を請求したらしい。
そのお陰もあって、バッカホア伯爵に雇われていた側の傭兵は、バッカホア家側の基地にて補給を受けることができた。
しかし中古で改造品の僕の船であの技を連発は出来ないので、きちんとドックにいれるか、自分でオーバーホールする必要がある。
報酬は既に支払われていて、いつ出ていっても問題ないが、僕はあとのほうに出るようにしている。
こぞって出ようとして争いになったり、事故ったりしたらたまらない。
ヘタレだと思われるかも知れないが、敵視されたり事故を起こしたりするよりはマシだ。
そうやって船が出ていくのを眺めようとしていると、不意に通信が入った。
「はいはいどなた?」
『初めまして。私は小型戦闘艇WVSー09・ロスヴァイゼともうします。そちらはジョン・ウーゾス氏の船『パッチワーク号』そしてあなたが船長で傭兵のジョン・ウーゾス氏で間違いありませんか?』
画面に現れたのは、金髪碧眼の、とにかく物凄い美女。
キャッチセールス・受付・美人局以外では絶対に話しかけて来ない人種だ。
そんな相手、しかも知り合いでもない人から通信がくるというのは悪い予感しかない。
「はい…たしかに間違いありませんがなんのご用ですか?」
違いますと言ってもよかったが、コール番号を知っている時点で無駄だろう。
『はい。単刀直入に申し上げます。私に乗り換えませんか?』
「はい?」
なにいってんだこの人?
乗り換える?
恋人なんか産まれてから一度もいないのに、乗り換えるもクソもない。
その僕の表情を察したのか、ロスヴァイゼさんとやらは会話を続けた。
『私は小型戦闘艇WVSー09・ロスヴァイゼ。あなた方がいうところの古代文明の遺跡から発掘された意思のある超兵器なのです』
「え?」
画面の前の美人はなにをいってるお?
意思のある超兵器だって?
だとしたらとんでもない代物だ!
売り出されたりしたらとんでもない値がつくだろう。
しかしそんな話をされたとしても、簡単には信用できない。
それになにより、
「待った待った!それが真実だとしても、君には既にパートナーがいるだろう?」
よく考えれば、『ロスヴァイゼ』というのはあのイキリ君の船の名前だ。
既に持ち主がいるのに、船が持ち主を裏切るというのはどういうことなのだろう?
『今の私の乗組員であるランベルト・リアグラズは、はっきりいって口だけのヘタレです!』
意思のある超兵器・ロスヴァイゼさんは、怒りの表情を見せていた。
『『俺は最強の傭兵だ!』とか、『船を操縦させて俺より速い奴はいねえ!』とか散々いってくれたくせに、実際は傭兵になったのは1週間前で、今日が初陣だったんですよ!?さらには!船の操縦も訓練用のシミュレーションでしかやったことが無かったんですよ?!』
「それでもあれだけ大量の敵機を引き付けて撃墜されずに逃げ回ってたのは凄いとおもうけど?」
あのイキリくん新入りだったか~。
まあ主人公サイドの人間だから、秘められた能力が発動してあれだけの成果をあげていたのだから、十分だと思うのだが。
しかしロスヴァイゼさんは不機嫌そうに、
『本人は開戦時にバリアにビームが当たったことに驚いて気絶・失禁していました』
そう言い捨てた。
多分、そそうをされたのがそうとう嫌だったんだろうな…。
「まあ…新兵にはよくあることだよね」
『貴方はどうだったんですか?ミスター・ウーゾス』
「まあ、気絶と失禁はしなかったかな。戦果はともかく」
『つまり。傭兵として、戦士として、貴方の方が素質があるということです!』
「いやそれはわかんないじゃん。これから化けるかも知れないし」
ロスヴァイゼさんは興奮気味に畳み掛けてくるけど、初陣は仕方ないっしょ。
『ともかく!私はそちらの船よりも全ての性能が数百倍はあります!私に乗り換えれば栄耀栄華は思うがままです!』
「たしかにそれぐらい凄い船なら欲しいよな」
『そうでしょうそうでしょう♪』
事実、古代文明の遺跡から発掘された意思のある超兵器ともなればその性能は凄まじく、現行の戦闘艇はもちろん、艦隊とだって戦えるだろう。
そんな船を乗りこなしているなら、傭兵として華々しい活躍が出来るだろう。
なので僕は、
「だが断る!」
当然断った。
冗談じゃない!
僕みたいなのがそんな凄い船に乗っていたら即座に因縁をつけられる!
「お前みたいな奴には宝の持ち腐れだ。俺達が有効に使ってやる」とか、
「彼女を脅していうことをきかせているんだろう!?今すぐ彼女を解放しろ!」とか、
場合によったら船を降りてる時にズドンだお!
だから断る。
分不相応・役者不足・身の程を弁える。
ともかく自分には勿体無い。
そういう船は、イケメンか美女で主人公属性の奴が乗るのが正しいお!
「というわけで、貴女に乗る気はありませんから今のパートナーと頑張ってください」
『なぜですか?!私は今の時点で銀河最高最強の船なんですよ?無敵ですよ?たっぷり稼げるんですよ?』
ロスヴァイゼさんは必死に自分の長所をアピールするが、僕にとっては短所でしかない。
船がそれだけ強いなら、それだけ過酷な戦場に向かわされる可能性も高くなるし、敵から狙われる事にもなる。
何度も言うが、そういうのはイケメンか美女で主人公属性の奴が背負わされるものなんだお!
僕みたいなキモオタモブ傭兵が背負って良いものじゃない。
「ともかく僕には貴女は必要無いので、イキリ君と仲良く頑張ってください」
『ちょっとまって!よく検討を…』
そういって通信を切ってやった。
僕みたいなのがあんな船に乗っていたら、どんな目に合わされるか想像するだけで恐ろしい。
いつ死ぬかわからない傭兵生活。
自分を過大評価したり、調子にのったり、悪目立ちすることは命を縮めることになる。
だからこそ、身の丈にあった装備と環境が重要だ。
僕みたいなモブが戦場で長く生き残るには、目立たず、臆病に振る舞い、名誉を求めないこと。
派手に目立ち、勇敢に振る舞い、名誉と栄耀栄華をほしいままにして生き残れるのはイケメンか美女の主人公属性をもつ奴らだけ。
モブがそんなことを求めてはいけない。
身の程を弁えるのが、戦場で生き残る確率をあげるのだ。
そんなことを改めて考えていると、急に外が騒がしくなった。
なんだろうと思って外を見てみると、
「ふざけんな!俺はお前の所有者だぞ!なのになんで俺が追い出されなきゃならないんだ!」
『最初の1発で気絶して、私の船内で漏らしちゃった人に所有者面されたくありません!』
「なっ…てめえ!ふざけんな!」
どうやら、ロスヴァイゼさんとイキリ君が喧嘩をしているらしい。
かなり離れているはずなのにここまで声が聞こえてくる。
それにしても発言が危ないなあ。
周りの連中は、ロスヴァイゼさんが船のAIだとは知らないだろうから、完全にカップルの痴話喧嘩だ。
しかも情事の内容を暴露しているように聞こえるからタチが悪い。
ま、関わらないようにするのが一番だお。
そしてその痴話喧嘩のせいで船の出発が停止しているので、今のうちに基地を出ることにした。
管制塔に許可をもらい、出口に向かってゆっくりと船を移動させ、痴話喧嘩で沸く駐艇場を横目にみながらスロットルを吹かし、バッカホア伯爵側の基地を後にした。
さあ!早いとこオーバーホールを終わらせてアニメショップに直行するお!
ラスト部分を変更しました。
これで読み切りぶんは終了しましたので、
以降は不定期更新になります。
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします
お騒がせ・ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした
◯役者不足という表現について
これは文法的には『力不足』が正しいそうです。
この言葉は、元々は役者さんの間で使用されていた造語だそうです。
実力のある役者に対して、つまらない役を宛がうのが『役不足』
逆に、実力の無い役者に、主役や敵役などの重要な役を宛がうのが『役者不足』
こう、使われていたそうです。
ここでは、主人公が脳内で自分をへりくだる表現として使用させて頂きました。
つまり、
『違うのは知ってる。気に入った表現方法として使ってるだけ』
です。
もちろん不適切な場合は使用するつもりはありません。
ご指摘いただいた方々には、こちらの間違いをご心配いただきありがとうございました。