モブNo.34:「傭兵に依頼の斡旋をするのが受付の仕事です。それを拒否するなんてことはありえません」
主人公サイド:ユーリィ・プリリエラ
悔しい…。
悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!
あんな俺より絶対に弱い奴に言い返せなくなるなんて!
今、俺を取り巻く状況は最悪だ。
姉さんが、俺の知らないところでとんでもない事をしでかしていた。
それが発覚したために、姉さんは傭兵ギルドの追及から逃げ出し、今では賞金首だ。
そのせいで、俺までが姉さんと同じ不正をしていると思われている。
俺はまだ兵士階級だぞ!
だから俺は、不正なしで実績を上げる必要があった。
しかし、その為に依頼を受けたくても、姉さんの事件以来殆どの受付嬢が手のひらを返すように俺を邪険にし始め、依頼を受けさせてくれなくなった。
それで焦っていたのもあって、色んな奴に喧嘩を売っていた。
あのキモオタ野郎に喧嘩を売ったのもその流れだった。
なんとなくはわかっていた。
喧嘩を売り歩いて勝利したところで何にもならないことは。
あのキモオタの言葉に改めてムカつきながらも、カウンターのあるロビーに向かう。
すると当然、受付嬢たちは席を立ったり目をそらしたりと、あからさまに俺に仕事を受けさせないようにしてくる。
その時、
「こちらへどうぞ」
と、声をかけてくれた受付嬢がいた。
その彼女は小柄で線が細く、碧い瞳をしていて、金髪でサラサラのロングヘアーを綺麗に纏めた1本お下げをしていた。
見たことがないから新人の受付嬢だと思うが、俺の噂を聞いていないはずがない。
場合によっては何かの罠という可能性もある。
もしくは受付嬢同士の罰ゲームで、無理矢理やらされているのかもしれない。
だが仕事を受けれる可能性があるなら、藁でも何でも掴んでやる!
「仕事を受けたい…」
「階級のチェックを」
「ああ」
俺は言われたとおり、腕輪型端末を検査機にかざす。
「兵士階級ですね。では、受注できる依頼はこちらになります」
彼女が見せてくれた一覧には、様々な依頼が並んでいた。
それはもちろん兵士階級のものだ。
しかし俺の強さなら、あのキモオタ野郎と同じ、いや、それ以上の依頼だってこなせるはずだ!
「王階級の依頼を見せてくれ」
「見てどうなさるんですか?」
俺の言葉に彼女は驚き、怪訝な表情を浮かべる。
「依頼をうける。そして俺の実力を知らしめてやるんだ!」
俺は強い口調で宣言した。
すると、当然と言えば当然の言葉が返ってきた。
「残念ですが無理です」
「どうしてだ?」
「依頼がないんです。王階級の依頼自体が稀なうえに、王階級の人がすぐに依頼達成してしまいますからね。すぐになくなるんです」
流石は王階級といったところか。
「じゃあ女王や司教のでもいい!」
「だめです」
ならばとその下のをと希望したが、それもことわられた。
やっぱり嫌がらせか。
仕事を受けさせてやるような空気をつくり、その直前で却下する。
何て嫌がらせだ!
そう思って怒鳴りつけようとしたが、すぐに思い止まった。
なにを馬鹿なことを。
兵士階級の人間に、司教や女王、まして王の階級の仕事を回してくれるわけがない。
そう改めて理解して深くため息をついた時に、
「貴方に何があったかは存じています。で、あるならば。尚更無茶な依頼をするべきではありません。身の丈にあった依頼を確実にこなしていくべきです」
彼女は、真剣な表情で俺にそう語りかけてきた。
「でも、次の仕事を受付して貰えるかどうかわからない…」
俺はその言葉に動揺し、不安を口にした。
すると彼女は、
「傭兵に依頼の斡旋をするのが受付の仕事です。それを拒否するなんてことはありえません」
と、いってくれた。
それはつまり、俺に対してちゃんと受付をしてくれるということだ。
俺は思わず目頭が熱くなった。
姉さんの事件以来、殆どの受付嬢が手のひらを返すように俺を邪険にし始めた。
でも彼女だけが、俺に手を差し伸べてくれた。
「ありがとう!俺…俺、頑張るよ!」
俺は思わず泣きながら彼女の手を握りしめていた。
主人公サイド:終了
射撃訓練を終えてカウンターのあるロビーに戻ってくると、ヒーロー君がゼイストールさんの所で受け付けをしていた。
その光景は、イケメン若手傭兵と美少女受付嬢のやり取りにしか見えないが、両方とも『男』だ。
ヒーロー君は、お姉さんの事件と、それが理由でかなり荒れていたせいで、打算で彼に親切にしていた受付嬢達からは相手にされなくなっていたらしい。
うん。その時の悲しい気持ちはよくわかるよ。
僕はギルドに登録した瞬間から始まり、今でもその状態だからね。
なので彼にとっては、久しぶりにまともに対応してくれた受付じ…受付係なんじゃないだろうか。
彼は感激の涙を流しながら『彼』の手を握りしめていた。
まあ、ローンズのおっちゃんも同じ対応をしてくれたと思うけどね。
そしてその光景から目をそらしている受付嬢と、睨み付けている受付嬢がいた。
睨み付けているほうが手のひら返しした方かな?
多いなあ…。6割はいそうだ。
目をそらしてる方は少しは恥じ入るところがあった人達かな。
そして当然、その『男同士』の光景を目をらんらんと輝かせ、空間に穴が開くんじゃないかと思うぐらい凝視し、過呼吸かと思うぐらいの荒い呼吸をしている、職員と傭兵の女性の集団がいるのは間違いなかった。
傭兵ギルドはもうヤバイんじゃないだろうか?
そして案の定、ヒーロー君を睨み付ける男性の集団がいるのも当然のことだ。
流石主人公、どん底から這い上がるためのイベントがすでにスタンバイ済みのようだ。
そうしてギルドの用事を終えて建物を出たときには午後1時をすぎていた。
昼食がまだだったから、コンビニで何か買って帰ることにしよう。
うろついて何かにからまれたらたまったものじゃないお。
そんなとき街頭ビジョンに知った顔が現れた。
『ノスワイル選手!今回のスタークルスタス杯優勝、おめでとうございます!』
『ありがとうごさいます』
それは、学生時代に僕と同じ事件に巻き込まれて生き残り、現在はプラネットレースチーム『クリスタルウィード』のエースパイロットのスクーナ・ノスワイル嬢だった。
どうやらまたレースに勝ったようだ。
『今回のレースはフリントロック帯での過酷なものでしたが、いかがでしたか?』
『確かにフリントロックは危険ですが、砲撃はしてきませんから』
『なるほど!さすがに実戦を体験した方は違いますね!』
どうやらノスワイルさんも頑張っているらしい。
現れたのが生身の本人じゃなかったのをほっとしつつ、家路を急ぐことにした。
とりあえず、明日は1日アニメ三昧だお!
モブの出番が少なく、申し訳ありませんでした。
トラブルを引き起こすと、周りの人達の態度が変わったりするのはよくあることです。
受付嬢達の気持ちもわからなくはないですが、
プロとしてはどうでしょう?
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします




