モブNo.213∶「ええ。負けたら死んでしまいますからね。弱虫毛虫の臆病者で結構。撃墜スコア勝負はお二人でがんばってください」
襲撃があった直後のシフト終わり、食堂で食事をとっていると、またあの見た感じエリート姉弟に声を掛けられた。
「ここ、いいかしら?」
「どうぞ……」
食堂はセルフサービスのビュッフェ形式なので、各自で色々違うのだけど、この姉弟は共通してメタルボトルのビールをトレイに乗せていた。
彼等は僕の正面に座り、食事を少し食べると、
「ねえ。今回の襲撃は怪しいと思わない?」
姉の方、たしかシーラ・ショフルゲートさんだっけ。が、話しかけてきた。
とはいえ会話の内容は、傭兵全員が感じていることだった。
「まあ。怪しまない方がおかしいですね……」
「でしょ? 弱すぎよ!」
僕が適当な返事をすると、シーラ嬢はメタルボトルのビールを開け、勢いよく傾けた。
「あれは間違いなく、こっちが追撃に出たところを、別働隊が襲撃する予定だった。が、ここの男爵様は引っかからなかった。正しい判断だけど、俺としては腕の振るいがいが無くて退屈だったぜ」
弟の、たしかボージェス・ショフルゲート氏だったかな? 彼もメタルボトルのビール片手に、つまらなそうな表情をしながら、今回の襲撃について語り始めた。
「にしても、やっぱりあの男爵様はイイ男よね。独身なのかなあ?」
シーラ嬢が、男爵についての話題を始めると、
「メスゴリラで華麗さの欠片もない姉貴には無縁の人だな」
ボージェス氏は興味なさそうに吐き捨てた。
すると次の瞬間にはシーラ嬢がボージェス氏の首にチョークスリーパーを決めていた。
「なんですって? よく聞こえないなあ」
「ごべんなざいおねえざま……」
ボージェス氏の顔が赤紫に変わっていき、その腕は必死にタップをしていた。
実に楽しそうな姉弟のやり取りだけど、彼等はいったい僕に何の用があってここにきたのだろう?
まさか、友達が居ないからって話しかけてきたわけでは無いだろうし、思い切って話しかけてみた。
「あの……何か用ですか?」
僕が話しかけると、シーラ嬢はチョークスリーパーを外し、ささっと身なりを整えてから、ちょっと恥ずかしそうに理由を話してくれた。
「えーと……私も弟も知り合いとかいなくってさ……。声かけやすいのが貴方だけだった……ていうか」
その言葉を聞いて僕は唖然としてしまった。
こんなコミュ力高そうな姉弟がそんな感じなのか?と。
まあ人は見かけによらないといういい一例だね。
しかし、僕の方もこういう状態での会話なんかロクにしたことがないから、どうしたらいいのだろう?
いっそのこと最低限の返答だけして、食事を終わらせて立ち去ろうかな?
そんなことを考えていると、シーラ嬢が意を決した様に話しかけてきた。
「そうだ! コインランドリーでも聞いたけど、イッツに所属してる『羽兜』とか『白騎士』の評判を聞きたいの。あの時は忘れてたけどちゃんと報酬は払うわ!」
「そう言われても……前に答えたこと以上はしりませんよ」
「なんか他にちょっとぐらい知らないの?」
「2人共軍から勧誘されてることぐらいですかね」
事実、2人の詳しい事はなんにも知らないし、知っていたとしても話すことじゃない。
「なんだよ! やっぱり役に立たねえな! ゲホッゲホッ!」
そこに、チョークスリーパーから解放されたボージェス氏が僕に対して、蔑むような目を向けてきた。
僕は、以前からこういう扱いをされるのに慣れてはいるが、腹が立たない訳では無い。
ちょうど食事も終わったので、
「これ以上は情報もないので、失礼しますね」
そういって席を立った。
「いい情報あったら買うからね」
姉のシーラ嬢もこれ以上僕に興味はないらしく、簡単に解放してくれた。
これで二度と関わらないでくれればありがたいんだけどね。
次の襲撃は必ずある。
それが、僕達傭兵がいる2週間の間なのか、それ以降になるかは不明である。
傭兵・警備・領地軍の全員がそう考えていたところに、初日の襲撃から10日後、またもやディレックス・スクラモン伯爵の艦隊が攻め寄せてきた。
しかもその数は、以前よりかなり膨れ上がっていた。
やはり前回攻めてきたのは囮で、本命の部隊をどこかに隠していたのだろう。
こちらも前回とは違い、領地軍も既にスタンバイしているため、戦力も十分であり、今度は取り逃がすこともないだろう。
全軍が出撃し、伯爵の艦隊を待ち受ける。
こちらはあくまでも警備であるため、まずは出方を待つ。というのが、司令官であるウィリアム・マードック男爵の考えだ。
戦術や戦略としては無意味だろうけど、そのあたりはけじめ的なものなんだろう。
そうして、そろそろ接敵というタイミングで、スクラモン伯爵から総員に対しての通信があった。
『下民共に告げる! 今すぐに降伏するのなら、儂の部下として軍に加えてやろうではないか! 貴様ら下民共は、高貴な身分の者に服従する事が絶対の義務であることを認識し、その栄光に歓喜するがいい!』
まあこんな上から目線で、奴隷扱いされること前提の勧誘に乗る傭兵はいないし、地元の人の神経を逆撫でするだけだろう。
その証拠に、地元民の人達が、司令官である男爵の指示もなしに口火を切ってしまったのだ。
『傭兵部隊は遊撃を! 正規軍は眼の前の艦隊に集中しろ!』
男爵は慌てて指示をだすが、艦隊の指揮には慣れていない感じだ。
もちろん伯爵の方も慣れているはずはなく、戦闘は両軍入り乱れての泥沼状態に突入していくことになる。
そんななか、僕は無理することなく敵の戦闘艇を一機ずつ潰していた。
一定の範囲にいる敵機だけを狙い、無理せずに、目の前、周辺の敵機を全部落としきったら次の範囲を攻略するというやり方だ。
その最中、あの姉弟が僕に通信を飛ばしてきた。
『ねえ。どっちが多く落とせるか勝負しない? もちろん私と弟は別計算。敗者は勝者の命令をできる限り実行するってのはどう?』
そしてその内容は下らないものだった。
「お断りします」
なので即座に断った。
『はあ?! なんで受けねえんだよ! 傭兵ならこういうのはノリで受けるもんだろうが!』
間髪入れず断った僕に対して、ボージェス氏が信じられないといった表情で怒鳴りつけてくる。
『随分と弱気なのね。負けるのがそんなに怖いの?』
シーラ嬢が焚き付けようとしてくるのは、なにかしら目的があるのだろう。
もしかしたら彼等なりのコミュニケーションなのかもしれないが、乗る必要はない。
「ええ。負けたら死んでしまいますからね。弱虫毛虫の臆病者で結構。撃墜スコア勝負はお二人でがんばってください」
なのでそれだけ言い捨ててから通信を切り、次の範囲に向かった。
ああいう勝負はアーサー君やランベルト君やユーリィ君なら喜んで受けただろうけど、モブである僕にはただの死亡フラグだからね。
受けないのが一番だ。
さてと、また地道に戦闘艇を潰していきますか。
この姉弟は基本的には悪い人間ではありませんが、他人との接触の仕方がズレています
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