モブNo.203∶『そう考えていただけるなら、我々に拿捕されていただきたい。民間船を攻撃するのは我々としては本意ではないのでね』
『スターライト・コメット』社という老舗の製菓メーカーの貨物輸送船の『護衛』を受けることにしてから1日後。
オープンワールドアクションロールプレイングゲームの『ソーサラーレジェンド』をプレイしている時に、ローンズのおっちゃんから連絡がきた。
『スターライト・コメット』社側の募集人数は最大10人だったが、集まったのは6人だった。
どうせなら最大人数がよかったらしいが、期限が迫っているので、6人で出発することにしたらしい。
そのメンバーは、僕とユーリィ君以外は、あまり接点のない傭兵達だった。
全員がそれなりに経験豊富な感じで、貴族っぽいのもいなかったから大丈夫だろう。
ユーリィ君に関しては、なにかの嫌がらせかなと邪推してしまったけど、最近かなり改心したらしいからまあ大丈夫だろう。
連絡のあった翌日の、依頼主に会う前のミーティングでは、僕は性能のいいレーダーを持ってるからという理由で索敵の任務をもらった。
リーダーは一人だけいた司教階級の傭兵が務めることになった。
そうしてリーダーも決まって、そのまま依頼主とのミーティングに向かったわけなのだが、
「初めまして。私、『スターライト・コメット』社の営業部流通係責任者のバーナス・アイゼンロッドと申します」
依頼主である『スターライト・コメット』社の営業部流通係責任者のバーナス・アイゼンロッドさんは、糸目で柔和そうな風貌をしており、縁の太い眼鏡を掛け、口調も丁寧という、非常に印象のよい人物だった。
しかし、マンガ・アニメを嗜むオタクからすると、胡散臭いことこの上ない人物だった。
だけどそれはマンガ・アニメオタクだけの共通認識なので、仲間内は誰一人反応するものは居ないし、たとえそれに反応したとしても、社会人として表面に出すものではない。
なによりアイゼンロッドさんの態度や喋り方は、社会人、しかも営業にいるなら当然なものだ。
依頼主の事はさておき、通常この様な大手メーカーなら、工場での出来上がりと同時に、自社での輸送手段・護衛戦力は確保しているはずだ。
なのにどうして依頼をしたのか気になり、そのあたりを尋ねたところ、
「今回の出荷は、さる貴族からの依頼でして、緊急だったので護衛が確保できなかったんですよ」
とのことだった。
そうしてミーティングは何ごともなく終了し、明日には目的地の惑星ウェドンに商品の菓子を運ぶ貨物船の護衛を開始する事が決まった。
そして翌日の出発時間、僕達が護衛する『スターライト・コメット』社の貨物船『ブルームNo.351』が、ギルドの駐艇場に到着した。
企業の船なら、宣伝のために多少は派手に装飾するものだけど、この船は『スターライト・コメット』社のロゴと船名が入っただけのシンプルなデザインの貨物船で目立つ感じはない。
そのあまりの地味さに、昔依頼を受けたなんとかってミュージシャンの船は、この船とは真逆の、とてつもなくド派手だったのを思い出してしまった。
まあ、船のデザインがどんなものであっても、護衛する事に自体は変わらないので気にする必要はない。
配置は貨物船を中心にしての正八面体。
僕はレーダーのために貨物船の上部に位置した。
最初の目的地は、惑星ウェドンの近くに出口のあるゲートの入り口に一番近い出口をもつゲートの入り口に向かうことだ。
ここにいくまでは約半日。
そこから次のゲートにいくまでが約2日。
最後のゲートはなんと惑星の100万キロ圏内という、極近いところに出られるらしい。
そうして最初のゲートまでは、なんなく進み、ゲートも問題なく通過できた。
これからの2日間何ごともなくゲートまで移動できれば、あともう少しだ。
メンバーとは別段弾む話題もなかったが、険悪にもならずに順調に進んで行った。
ユーリィ君とは会話をすることはなく、以前のように絡んでくることがなくなっただけでも、かなり成長した様子が窺える。
なににせよ、この依頼が無事に終了してくれるよう祈るばかりだ。
しかしそれは虚しくも崩れ去った。
2日目の、銀河標準時で17時を少し過ぎた頃、レーダーに反応があった。
向こうの船体コードをチェックしたところ、なんとあの第7艦隊だった。
「十時方向、距離11億km先に艦隊を発見。船体コードから帝国軍中央艦隊討伐部隊第7艦隊と推測する」
とりあえず、傭兵達にだけ第7艦隊の情報を事前に提供する。
『なっ……! マジか?!』
『冗談じゃねえぜ!』
一般市民には第7艦隊が政府から追われている事は知られてはいないが、僕達傭兵には知られているため、全員が驚いていた。
それでも、民間船と一緒にいるのだから、慌てることなく平穏に対処すれは、逃げられるかもしれない。
リーダーの男はそう考え、『スターライト・コメット』社の船に現状を伝えた。
勿論、第7艦隊が政府から追われている事は教えない。
『『ブルームNo.351』。前方に帝国軍の第7艦隊を発見した。彼等の進行を邪魔しないように、少し進路を変えたいんだが可能だろうか?』
『第7艦隊ですって? 司令官のトーンチード准将とは、以前お会いしたことがあるのですよ。ちょっとご挨拶しておきましょう』
アイゼンロッド氏が、トーンチード准将と面識があったのは驚いたが、問題は今の第7艦隊の状態だ。
政府から追っ手がかかっているのは自覚しているだろう。
だが問題は、この護衛キャラバンを追っ手と間違えないかどうかだ。
普段のトーンチード准将なら心配はないだろうが、現状が現状だし、彼の部下たちがどう動くかも分からない。
無理に止めようとして怪しまれるのもやばいが、僕達傭兵が会話をするよりはマシだろう。
『見逃してくれますように』
これはその時の全員の願いだった。
そうしているうちにアイゼンロッド氏は第7艦隊に通信を開き、声をかけた。
僕達傭兵は、会話と双方の画面を閲覧できる状態にしておいた。
会話の流れによっては、すぐに行動しないといけないからだ。
『お久しぶりですトーンチード准将閣下。『スターライト・コメット』社の営業部流通係責任者のバーナス・アイゼンロッドです。覚えてらっしゃいますか?』
すると、画面に美丈夫であるサラマス・トーンチード准将が姿を現した。
『おお! 『スターライト・コメット』のアイゼンロッドさんか! 覚えてますとも! 帝国軍の本部に乗り込んできて、長期保存できるクリームビスケットサンドの『スイートプレート』を売り込みに来たのは貴方だけですからね』
『購入を許可くださったブレスキン大将閣下と、口添えをしてくださったトーンチード准将閣下には足を向けて寝られません』
会話は実に和やかだった。
このまま和やかに終了し、別れることが出来たら万々歳だ。
そう思っていたのだけれど、
『そう考えていただけるなら、我々に拿捕されていただきたい。民間船を攻撃するのは我々としては本意ではないのでね』
真剣な表情で嫌なセリフを吐いた。
バーナス・アイゼンロッド氏のイメージCVは推して知ってくださいw
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