モブNo.195∶「圧政者に天罰あれ!」
僕達Cシフトの仕事が終了し、3日目の警備が始まった。
この日のシフトが終われば調印式の本番だ。
小規模かつ単発で襲撃を繰り返してきた、まとめて殺害派と、ネキレルマ王家抹殺派の意図は不明だが、調印式さえ終わってしまえば、僕等は御役御免になる。
だからと言って気を抜いていいわけはなく、むしろここからが本番だ。
全員それがわかっているためか、コロニー内の緊張が半端ない状態になっていた。
とはいえ、仕事上がりの僕には休憩する権利がある。
食事をしてから風呂に入り、まずは一眠りだ。
疲れていたのか、起きたら既にAシフトの時間は終了していてBシフトの時間にまでなっていた。
とはいえ交代まではまだまだ時間はあるので『大全集』を読み始めた。
するとそこに、警報が流れた。
『王宮内部に襲撃者発見! 外周警備のものを総動員し、惑星ハインから離れようとする船がいたら絶対に止めろ! 停止命令に従わないなら撃墜せよ! 繰り返す、……』
やっぱりなあ。
あの無謀かつ散発的に行われた突撃は、潜入者を隠すための目眩ましだったわけだ。
ブレスキン閣下以下、気がついている人達はいっぱいいただろうから、警備はかなり厳重になって居ただろうし、侵入は難しいはずだ。
と、いうことは……まあ、考えても仕方ない。
ともかく支度をして出動すると、異様な光景が広がった。
通常のシフトでもかなりの包囲網が敷かれていたのに、その3倍になっているわけだから、まさにぎゅうぎゅう詰めだ。
正直、見逃しはしなくても動けないよねこれ……。
まあ、見た人はビビりそうだけど。
そうして30分もそんな状態が続いた時に、襲撃者捕縛の知らせが来た。
どうやら連中は反対側に脱出したらしい。
周りの連中は、来なくて残念だといっていたが、僕としては来なくてよかった、衝突事故が起こらなくてよかったという安堵を実感していた。
流石にこれ以上はなにも起こらず、シフトも終わり、ついに調印式当日になった。
勿論式典当日も警備は続行される。
式典後に行われる立食パーティーが終了するまでがお仕事だ。
ちなみにシフトはそのままだから、まずは一眠り。
式典の様子はテレビ中継されるので、開始時間までには起きないとね。
☆ ☆ ☆
【サイド∶第三者視点】
式典会場は、王宮内部にある『神皇の間』と呼ばれる式典用の大広間で行われる。
非常に落ち着いた雰囲気の色彩で纏められ、品のある調度品が置かれており、他国への侵略を繰り返してきた国家のものとは思えない荘厳さを見せている空間であり、歴代の皇帝の戴冠式もここでおこなわれてきた。
その大広間の中央には調印台が設置され、壁には帝国の御旗とネキレルマ星王国の御旗が飾られている。
その御旗を正面にして、部屋の右側にはマスコミと子爵までの貴族たち、左側には伯爵から上の貴族たちが集まっていた。
御旗の正面は撮影用のカメラだけで、人間の姿はない。
左右の最前線には、様々なチェックを潜り抜けて合格した王宮近衛兵が、儀礼と実用を兼ねた赤地に金縁の甲冑を模した感じの強化外骨格を身に着け、ビームシールドと電磁警棒を装備した状態で、調印台を背に整列しており、契約時には皇帝陛下とネキレルマ星王国元第1王女、そして見届人である公爵に対して、何者も接近が出来ないように睨みを利かせている。
非殺傷兵器を用いているのは、この『神皇の間』を侵入者の血で汚さないためらしい。
勿論この会場に入る際にも厳重なチェックを受ける。
手荷物や護身用の武器は当然として、ペンや常備薬のケース、汎用端末、指輪・首飾り・イヤリング・ピアスなどのアクセサリー類の持ち込みは一切禁止。
サイバー義肢の場合は、脱着できる場合は警備が用意した義肢に交換、出来ない場合は全身スキャンを受けてもらい、護身用仕込み武器などは、摘出、もしくは起動不能状態にして、完全に安全が確定されない限り入場禁止となっている。
そして建物そのものにもバリアが張られ、外部からの攻撃に備えている。
そしてついに式典が始まった。
扉が開き、まず入ってくるのは強化外骨格を身につけた近衛兵達。
その近衛兵に囲まれて入ってくるのが、アルティシュルト・ビンギル・オーヴォールス公爵、銀河大帝国第38代皇帝アーミリア・フランノードル・オーヴォールス、元ネキレルマ星王国第1王女カラーナ・ベーレントン・ネキレルマの3人だった。
公爵は調印台の壁側に、皇帝陛下は左側に、元第1王女は右側につく。
すると公爵は、台座の上に置かれた箱から1枚の紙を取り出し、カメラに向けた。
その内容は、ネキレルマ星王国が正式に銀河大帝国の植民地になるというものだった。
これに調印がなされた瞬間、ネキレルマ星王国は地図から消え、銀河大帝国の一地方となるのだ。
まずは皇帝が署名と捺印、そのあと元第一王女が署名・捺印する。
この瞬間、万雷の拍手と共に、ネキレルマ星王国は消滅したのだった。
調印書は公爵の手により、保存用のボックスに入れられ、厳重に保管される。
これで調印式が終了すると、誰もが思っていた時、不意に左側にいた王宮近衛兵の1人が振り返り、
「圧政者に天罰あれ!」
と、大声を上げ、隠し持っていたレーザーガンで皇帝と元第一王女にむけて引き金を絞った。
誰もが皇帝にレーザーが命中すると思っていたが、レーザーに当たったのは皇帝を庇った公爵だった。
襲撃者はすぐに周りの王宮近衛兵に取り押さえられ、ヘルメットを脱がされ、電磁警棒で気絶させられた。
「大叔父様! 大叔父様! 誰か! 早くスリード医師を!」
皇帝の悲痛な声が『神皇の間』に響き渡る。
★ ★ ★
そこで中継は切れ、『しばらくお待ち下さい』のテロップが現れた。
正直実行されるとは思っていなかった。
軍の人達はそこまで無能じゃない。
つまり、内通者が居るわけだ。
ここまで巧妙に隠していたわけだから、簡単に尻尾は出さないだろう。
まあ分かったことは、僕達のシフトが変更されるかもしれないということだけだ。
公爵凶弾に倒れる!
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