モブNo.188∶「有り難くもあるが……こっちの仕事が上がったりになるのはいただけねえな」
依頼文を修正しました
「よう。戻ってきたな」
傭兵ギルドでは、いつもどおり、ローンズのおっちゃんが出迎えてくれた。
「大変だったよ。一時的にとはいえおかしな命令もでるしさ」
「そう愚痴るな。ほれ。報酬が来てるぞ」
そういって渡してきた報酬は、おそらく正規にもらえるであろう額より多い、240万クレジットだった。
「正味3週間の報酬なら90万、危険手当で色をつけても190万だと思ったんだけど」
予定の報酬より少ないと腹が立つけど、理由もなく多いと怖くなってくる。
「プラスの50万はデカい潜水艦を沈めたご祝儀だと。ま、土手っ腹に穴開けた連中はもっと入ったみたいだけどな」
「なるほどね」
そういう理由なら有り難くもらっておこう。
「で、どうするんだ?」
「いつもどおりしばらく休むよ」
「そうか。じゃあゆっくりするんだな」
おっちゃんは白い歯を見せてにかりと笑った。
爽やかにしても似合わなさすぎる……。
報酬をもらってギルドを後にすると、そのまま『アニメンバー』に向かった。
新刊やデータカードを色々買い込んで、どっぷりオタク生活にハマり込むつもりだ。
そうして買い込んだのは、『薬剤師の愚痴』の新刊とデータカード。
『ド田舎の童顔おばさん魔導皇になる』のコミカライズ新刊。
『ナカモト・デイズ』の新刊。
『私は王政国家の悪徳辺境伯!』の小説新刊とコミカライズ新刊、そして多数の同人誌だ。
ちなみに薬剤師の愚痴は、ゴンザレスの奴が妙に共感しているらしく、原作小説・コミカライズ2種・データカードの全てを揃えてるらしい。
そのゴンザレスのところには、連絡だけしておくかな。
☆ ☆ ☆
【サイド∶エリサ・ラドゥーム】
アルティシュルト・ビンギル・オーヴォールス公爵閣下の直轄領地である惑星ギールフォート。
この惑星上にある公爵閣下の御屋敷の部屋の中で、私はため息をついていた。
ザクウン商会襲撃の任務以来、ルビナ姉さんはルッキズムに傾倒するようになってしまったからだ。
あれから姉さんは、『男女問わず美形のパイロットは強く、不細工は弱い。不細工が勝つのは卑怯な手段を使っているからだ』
と主張し始めてしまったのだ。
なまじっか公爵様の配下で姉さんより腕のいいパイロット数人が姉さん好みのイケメンだったことが、拍車をかけた。
しかもそれをパイロット以外にも当てはめ、美形は有能、不細工は無能だといい始めた。
そのせいで、姉さんは遠巻きにされるようになっていた。
てっきり暴力など加えられるかと思ったけれど、私達が公爵様のお気に入りということが、私達の安全を確保してくれていた。
姉さんが美醜にこだわり始めた原因は、2回も敗北した土埃が、姉さん好みのイケメンじゃなかったこと。
確かに姉さんはもともとイケメン好きで少々短絡的なところがあった。
でもここまで極端な考えを持つ人じゃなかった。
あれ以降姉さんは、『あの卑怯者で恥知らずの土埃を必ず殺してやる』と機会を窺っている。
都合の良い話にはなるけれど、姉さんが土埃に勝つことが出来れば、姉さんは元に戻るのではないだろうかと考えている。
しかし今のところ、土埃と戦えるような機会はない。
そんな時、公爵様からある任務を言い渡された。
★ ★ ★
今回は長めに4日の休みをとり、読書とアニメ、ゴンザレスとのアニメ談義に花を咲かせ、実に有意義な休みになった。
「ういっす」
「お、ずいぶんスッキリした表情だな」
「休みの間楽しかったからね。これでまた仕事ができるよ」
本来ならイベントにいった時に、心からそう答えたかったが、イベントの時は邪魔が入ったからね。
今回は本当に心から楽しかった。
「それならいいのがあるぞ。複数人での受注が条件の中規模の海賊退治だ」
おっちゃんはそういうと、依頼書を見せてきた。
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業務内容:中規模海賊団の捜索及び捕縛。不可能なら撃破
業務条件∶取り逃しを防ぐため、複数人(5〜6人)推奨
業務期間:捕縛及び撃破まで
報酬: 1人200万クレジット・機体買取優先
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「複数人かあ……」
複数人での討伐となると、多少嫌な記憶が蘇るが、報酬はまあまあだし、海賊を捜索するのも問題ない。
あとはメンバーだ。
「他の人は?」
「まだだな。推奨は5〜6人。希望者が揃えば連絡してやるよ」
「変なのが来ないといいな……」
非常識な連中がかなり排除されたとはいえ、まだまだヤバいのは残っているから、メンバーによっては詰む。
「それからな。軍の第7艦隊が積極的に海賊退治をしてるって話だ。海賊のなかにはテロリストが紛れてるからってな」
「トーンチード准将か。あの人ならやりそうだね」
軍でも一番の人気で信用もある第7艦隊が動いているなら比較的安全だろう。
「有り難くもあるが……こっちの仕事が上がったりになるのはいただけねえな」
「治安維持が一番だよ」
まあ、おっちゃんの言いたいこともわかる。
軍や警察が、もっと強力に治安維持に傾向すれば、傭兵の仕事はどんどん無くなっていくだろうからね。
ともかく、まともな人がきてくれますように……。
それから半日もしないその日の夜に、メンバーが決まったと連絡がはいった。
翌日。
集合場所の会議室に1番に来て座っていると、
「よう兄ちゃん。久しぶりだな」
座るやいなや荷物からノンアルコールのビールをとりだし、飲み始めたバーナードのおっさんことバーナード・ザグ。
「よう! アンタ景気いいんだろ? 今度おごってくれよ!」
入ってくるなりたかり発言をし、座ったら座ったでテーブルに足を乗せているモリーゼ・ロトルア。
「奢りうんぬんの話は今回の仕事が終わった時だな」
モリーゼと同時にやってきて、自慢のオールバックを手入れするダン・ビルトロップ。
「遅くなりました。よっよろしくお願いしますっ!」
時間直前にやって来て、いまだに緊張が取れない様子のシオラ・ディロパーズ。
「どうも……」
そして久しぶりに見た元祖問題児、『ヒーロー君』ことユーリィ・プリリエラ。
以上が、今回の中規模海賊退治の依頼を受けたメンバーのようだ。
見知ったメンツに安心するも、ユーリィ君にはちょっぴり不安もある。
そしてそこに、ローンズのおっちゃんと、美人受付嬢のゼイストール氏がやってきた。
「お、集まってるな」
ローンズのおっちゃんが合図を送ると、ゼイストール氏が資料を立体映像で投影し説明を始めた。
「では今回の依頼内容を再度説明します。業務内容は、中規模海賊団の捜索及び捕縛。捕縛が不可能なら撃破して構いません。業務条件は取り逃しを防ぐため、複数人(5〜6人)であること。業務期間は捕縛及び撃破まで。報酬は200万クレジット、撃墜した機体は迅速かつ優先的に買取をされます」
にこにこと説明するそのさまは、まさに人気ナンバーワンの美人受付嬢にしか見えないが、れっきとした男性だ。
まあ今はそんなものは関係なく、依頼の内容は問題なく、リーダーはダンさんということに、あっさりと決定した。
ユーリィ君がリーダーをやりたがるかと思ったけど、それを言わなかったのは、彼が反省と成長をした証拠だろう。
久々の『ヒーロー君』です
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