モブNo.186∶「残して置いた無人機を全て放出! 敵戦闘艇を撃ち落とせ!」
戦闘開始から2時間。
ようやく潜水艦から無人機が出てこなくなった。
それなら直ぐに潜航して逃げるのかと思ったのだが、何故か逃げずにその場に留まっていた。
味方が戦っているからなのか、なにかトラブルがあったのか、なにか別の目的があるのか……。
考えても分からないから、取り敢えず潜水艦に攻撃かな。
そう思って潜水艦に近付こうとしたとき、潜水艦の胴体に無数の穴が空き、そこから砲身が現れ、ビームブラスターが発射された。
不意を突いたその攻撃は、僕と同じように潜水艦に近づいていた味方機を何機か叩き落とした。
『なんだありゃ?! ハリネズミかよ!』
『いや。海にいるんだからハリセンボンだろ』
と、誰かが通信でのんきな感想をいってくれた。
しかしこれで厄介なことになった。
追加がなくなったとはいえ、無人機も有人機もまだまだ残っている状態であんな対空火器を備えた潜水艦には近づけない。
しかもゆっくりと動き出し、戦闘区域からの脱出を試みているらしい。
しかしあのハリネズミは照準はつけられないようで、近くにいた敵側の無人機にも攻撃が当たっていた。
あと、それがあるのは上部のミサイル発射口の無い前部と後部だけ、水中でもビームは撃てるけど、流石に下側にはついてないだろうと思いたい。
まあ、たとえついていなかったとしても水中に入っていくわけにはいかない。
僕をはじめとした傭兵や軍の戦闘艇は宇宙空間も航行できるから水中に入っても浸水はしないけど、推進力がないからまったく動けなくなる。
水中でも大丈夫なエンジンもあるにはあるけど、非常に高額だ。
こうなったら、太古の大気圏内で使用していた大型艦船の撃沈方法を試してみることにしよう。
つまり、片舷の対空装備をなぎ払った後、その側の胴体に攻撃を集中させて横転させるというやつだ。
『ウーゾスさん。あの潜水艦、どうやって落としましょう?』
そんなことを考えている時に、何故かアーサー君が僕に通信をしてきた。
『戦闘区域からの離脱を開始していますし、潜航されて逃げられたらさらに厄介です。早めに攻撃を』
さらに、セイラ嬢までが僕に話しかけてきた。
僕は攻撃隊長とかじゃないんだなけどな……。
とはいえ、潜水艦がいつ潜航するか分からないので迅速に対処しないといけないのは事実だ。
「アーサー君。ミサイル残ってる?」
ちなみに今回の戦闘では、イコライ伯爵領惑星テウラでの時と同様に、プロトン魚雷なんかの宇宙戦闘用のミサイルは外してある。
そしてそのかわりに、空対空、空対地両方に使えるマルチミサイルの『フライングフィッシュ』を8発搭載している。
まあ2発は使ってしまったから残り6発だけどね。
『はい。『ストームスマート』があと5発あります』
『私も同じ物を7発』
『ストームスマート』って言えば、大気圏内用のミサイルのなかで、威力と追尾性能がナンバーワンの高級品じゃないか!
流石に主人公は違うね。
そしてそれはあの潜水艦の胴体にもダメージが与えられるということだ。
「じゃあ。まずは左右どちらかの対空火器を全部潰してから、回避不可能な距離まで接近して、潜水艦の胴体にミサイルを叩き込む。ってのをやるつもり。潜航されて逃げられたらアウトだけど……やる?」
『やります!』
『私も!』
アーサー君とセイラ嬢は即座に承諾したけど、この作戦の一番難しいところは、対空火器を片方だけ全滅させることだけど、正直これには人手が必要だ。
とはいえまだまだ敵機がいる状態では人手は割けない。
するとそこに、
『私もやります!』
『俺もやるぞ!』
ディロパーズ嬢とレビン君が名乗りをあげてきた。
ロスヴァイゼさん・ダンさん・アルプテト嬢・モリーゼ・バーナードのおっさん達なんかは、はなれたところで敵戦闘艇の対処をしているようだ。
まあこれだけいれば何とかなるだろう。
しかし……何であの潜水艦は潜航しないお?
ロスヴァイゼさんが操ってる感じでもないようだし。
なにかの作戦なんだろうか?
☆ ☆ ☆
【サイド∶巨大潜水空母『モービィディック』艦長】
やってくれた……!
私は思わず肘掛けを叩いた。
まさかこの艦にスパイを潜り込ませ、戦闘の最中にバラストタンクの制御システムと手動装置に爆弾をしかけ、わざわざ戦闘時に爆発してまで破壊するとはな。
これでは潜航ができない。
幸い何度か潜航を実行しているから、潜航しないのはなにかの作戦と勘違いしてくれればありがたいが、敵もこちらが潜航しないのを、そろそろ怪しみ始めているころだろう。
戦闘区域からゆっくり離れながら修理を急がせているが、間に合うだろうか?
そんな不安にかられていると、嫌な報告が入った。
「報告! 敵戦闘艇5機が接近してきます!」
ちっ……気が付かれたか……。
修理が完了すれば直ぐに戦闘区域を脱出する。
それまでなんとしても時間を稼がねば!
「残して置いた無人機を全て放出! 敵戦闘艇を撃ち落とせ!」
一旦放出を止めたためか、報告された戦闘艇は無防備に近づいてきていた。
そこに無人機を放出すれば、咄嗟に反応は出来ないだろう。
しかし、近づいてきた戦闘艇は、対集団対空火器『塩吹き』の攻撃をかいくぐり、『塩吹き』を破壊していく。
すると不意に、
「敵戦闘艇、1機だけ離れました!」
嬉しい報告が上がった。
「よし! このまま迎撃しながら戦闘区域を離れるんだ!」
私がそう指示した次の瞬間、船体に振動が走った。
「右舷に被弾! 被害大!」
「隔壁を閉めろ! ダメコン急げ!」
慌てるブリッジクルーを視界に収めながら、私は帽子を床に叩きつけた。
ええい! 返す返すもスパイを乗せてしまい、破壊工作を許してしまった事が恨めしい!
身元調査を徹底していたはずなのに、一旦どこの勢力がスパイを紛れ込ませたんだ!
☆ ☆ ☆
【サイド∶巨大潜水空母『モービィディック』乗組員】
へっ! ざまあみろ!
いろんな雑用でこき使ってくれたときに、バラスト関係の制御システムと手動装置にこっそりと仕掛けたリモート式の爆弾を、戦闘時の混乱したときに全部爆破してやった!
これでようやく鬱憤が晴れたぜ!
俺の両親が、仕事の関係でたまたま首都惑星ハインに住んでいた時に生まれたために、本籍が首都になったんだ。
それをなんなんだよあいつら!
ことあるごとに『テーコクミンが!』とか『テーコクミンのクセに!』って日頃からなにかにつけて俺を差別して嫌がらせばかりしやがって!
おまけに両親まで、「お前は帝国生まれだから仕方ない」とかいって庇ってもくれない!
なにが祖国である『エルナオグス銀河共和国』を取り戻すだ、くだらねえ!
両親が運動に参加してたせいで無理矢理参加させられていたが、もうたくさんだ!
潜水服がわりの宇宙服と、艦外作業用の水中スクーターがあれば脱出できる!
おっ! 敵の攻撃が当たったらしいな。
この隙にこんなところからはさっさとおさらばだ!
艦長のクソ親父ごと沈んじまえこんな船!
★ ★ ★
モブ側は次で
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします