モブNo.184∶『リ……リクエストはこちらに……』
アミラ・ロイラープス・ピシュマン中将閣下の無茶苦茶な宣言があった翌朝。
やはり交代の時間に、なぜか中将閣下からの謝罪放送があった。
『昨日、傭兵及び地元警備兵の皆様に対して無能呼ばわりしたあげく、無報酬に加えて罰金まで徴収するという発言をしましたが、発言を撤回し、傭兵及び地元警備兵の皆様に対して深くお詫びいたします。申し訳ありませんでした!』
ほんのりべそをかいた跡があり、かなり本気の謝罪のようなので、おそらく親衛隊長殿にこっぴどく叱られたんだろう。
実際謝ったぐらいで許されるとは思わないけど、謝罪の意思は大切だね。
すると画面の中将閣下に何かの原稿が渡された。
『今回の事に際し、私自身の反省の意思表示として、皆様から5日間のアンケートを取り、一番多かったコスプレを披露いたします。多少過激なのもOK……って何よこれは!?』
そしてその原稿を読んでいくに従って真っ赤になり、最後には画面外にいる誰かに対して怒鳴りつけた。
『貴女があんな宣言をしたせいで、無報酬と罰金は嫌だからって、たった一晩でパンクするぐらいの情報が報告されたんですよ? しかも普段の報告よりさらに確度の低い情報ばっかり。これの処理の手間の分も頑張って謝罪してもらわないと』
どうやら画面外にいるのは、声から判断して、プロパガンダクイーンと言われるプリシラ・ハイリアット大尉のようだ。
すると中将閣下は『ぐぬぬ』という表情をし、
『リ……リクエストはこちらに……』
と、おそらく原稿に書かれているらしい文章を読むと、おそらくそのために用意されたアドレスが表示され、放送は終わった。
しかし親衛隊長殿が、よくあんな罰ゲームみたいなのを許可したなぁ。
まあプロパガンダ的なり、今回の馬鹿な宣言をした事に対しての罰及び、下の者達の不満解消的な意味があるんだろうけど……いいのかねぇ……。
まあ、喜ぶ人は喜ぶだろうけど。
そうして1日の巡回警備の仕事を終え、特に報告することもなく、地上基地に戻ってくると、さっそく基地内は中将閣下の謝罪放送の話でもちきりだった。
男連中の大半は、彼女にどんな服装を着てほしいかの話で盛り上がっていたが、女性達は、男連中の話題を軽蔑するものもいれば、中将閣下にうらみがあるのか、いい気味だと笑って居るものもいた。
食事を済まして部屋に戻り、腕輪型端末でアンケートのページを見てみると、『水着』『スクール水着』『エッチな水着』『紐水着』『踊り子』という露出の高いものや、『看護師』『警官』『教師』『医師』『CA』『メイド』といった他の職業の制服、『パイロットスーツ』『バニースーツ』『学生服』『スモック』『だっさいジャージ』といったバラエティにとんだものと、様々なリクエストが乱れ飛んでいた。
しかもなぜか、傭兵や警備兵よりも、彼女の部下である第10艦隊の面々だと思われる連中からのリクエストが多かった。
もしかして中将閣下は意外とイジられていたりするのかな?
僕は投票はやめておいた。
どこから足がつくかわからないからね。
こんな感じで、軍の調査が終了するまで平和だと思っていたのだが、中将閣下のコスプレ披露のその日に、とんでもない報告が入ってきた。
『報告! プルガンテ海岸から1200kmの地点の海中に巨大物体を発見! 大型の潜水艦と思われます! なお、潜水艦は海面に浮上し、艦内部から無数の航空機の発進を確認しました!』
ブルガンテ海岸のある区域、およびその周辺海域は何度も調査の手が入っていた。
それでも見つからなかったのは別のエリアから移動してきたか、何処かに隠れていたからだろう。
さらに、プルガンテ海岸にあるコンビナートは、惑星エルガレヴァブにあるコンビナートの中でも、宇宙船の外壁の材料を精製している工場や、エネルギー精製の工場もあるため、破壊されるとかなりやばいのは間違いない。
『親衛隊及び第10艦隊は全戦闘艇を発進。大気圏内へ降下しろ。そして全艦隊は惑星周囲を警戒。入るのも出てくるのも見逃すな! そしてピシュマン中将。貴女に戦闘艇部隊の指揮及び、貴殿の旗艦及び無人砲撃艦2隻による敵潜水艦の破壊を命じる!』
『イエッサー!』
親衛隊長殿の命令に、中将閣下は敬礼で返した。
全艦隊での一斉掃射をすれば、敵潜水艦は一瞬で葬り去れるだろうが、そんなことをすれば惑星自体がヤバい事になるので、中将閣下の旗艦と無人砲撃艦でダメージを与えるつもりなのだろう。
『そして、傭兵及び地元警備兵の諸君等にも、今回の迎撃作戦に参加して欲しい。本来なら君たちの任務は巡回警備だ。しかしコンビナートを守りながらというのは非常に不利だ。君たちの助力を願いたい。コンビナートを守りきったら報酬は期待して欲しい』
と、親衛隊長殿が僕達にも緊急発進をお願いしてきた。
もちろん反対する連中はいなかった。
そして画面は親衛隊長から中将閣下に切り替わった。
『戦闘艇部隊の諸君! 私は第10艦隊司令官、アミラ・ロイラープス・ピシュマン中将だ。私に対して色々と思うこともあるだろう。だが今は! 私の指示に従ってほしい! 連中の狙いはコンビナートの破壊だ。絶対に阻止しなければならないからだ!』
そう演説する中将閣下は、髪の色と同じ真っ赤なビキニ姿だった。
☆ ☆ ☆
【サイド∶スクーナ・ノスワイル】
私は今─惑星エルガレヴァブの近くにある、マグマと岩石の星である惑星ミルサーグの衛星軌道上で、プラネットレースのチーム『クリスタルウィード』のコンテナ船『シード1』のVRトレーニングルームにあるコクピットシートに座っている。
このコクピットは現在、惑星エルガレヴァブの海上にある巨大潜水空母『モービィディック』の艦内にある無人戦闘艇『シラネセウス』に繋がっていて、私達は遠隔でそれを操縦できるのだ。
もちろん現地には生身の人間がいて、彼らも戦闘に参加しており、彼等は迎撃されれば命はない。
しかし私達は機体が破壊されても命に別状はない。
ずるい、卑怯、えこひいきと思われるが、これはプラネットレースチームの人間がレースの事故以外で死亡すると色々怪しまれるのを防ぐためだ。
私達プラネットレースのチーム『クリスタルウィード』は、反帝国主義者達の派閥の中では民主化派に所属し、プラネットレースチームを隠れ蓑にしての資金調達が主な任務だが、今回は独立派の要請で、惑星エルガレヴァブのプルガンテ海岸にあるコンビナート群を破壊する事が任務だ。
ちなみに今回の作戦の要である潜水空母『モービィディック』は 惑星コルコス近隣の宙域にあった小惑星群から抽出した希少金属が一部使われているらしい。
そして今私たちは、事前に手に入れた情報によって、緊張をしいられていた。
最大の脅威である『羽兜』に、『人喰薔薇』と『白騎士』という実力者がいること。
そしていままで何度も辛酸を舐めさせられた相手、『土埃』が敵陣営にいるからだ。
私はいままで何度も彼に落とされた。
リモートでなければ私はとっくに死んでいる。
そんな相手と私は戦わないといけない。
そう思うと恐怖で手が震える。
しかそれを振り切り、私は声を出す。
恐怖を振り払うために。
「『ヘルトリーダー』より『ヘルト中隊』各機へ。出撃する!」
★ ★ ★
おまけ
アミラ「うう……何でこんな事しないといけないのよ!」
プリシラ「罪滅ぼしって言ったじゃないですか。うん。やっぱり水着が多いですね」
ア「どうせなら他職業の制服がいいな。この『巫女』なんか可愛いじゃないか♪」
プ「そこの職業関係のは全部『ミニスカ』ですからね」
ア「はあ?! 何言ってるのよ! 頭おかしいわよ!」
プ「じゃあ『だっさいあずき色のジャージ』にします?」
ア「それはなんかいや」
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